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メコン川流域で支配力拡大する中国 地政学的な序列も反映

2018-09-29 14:36:25 | インド・東南アジア・中央アジア

メコン川流域で支配力拡大する中国 地政学的な序列も反映

2018.9.28 05:59  Sankei Biz


 メコン川とその支流に10基あまり点在するダム群の一つが決壊したことで、中国と近隣諸国に

とって戦略的重要性を増している水路が急ピッチで開発されている実態が浮き彫りになった。


 中国からラオス、タイ、カンボジア、ベトナムにまたがるメコン川沿いに住む数十万人にとって、

この川は生命線だ。7月、ラオス南部で建設中の水力発電用ダムの決壊による洪水で約30人が死亡し、

6000人以上が家を失った。この事故は地域経済に広範な打撃を与えただけでなく、メコン川水系の

管理手法をめぐる問題も提起している。


 上流に大型ダム6基

 映画にも描かれ、毎年多くの観光客を引き付けるメコン川の重要性は貿易・通商分野だけに

とどまらない。その流域諸国は水力発電ダム建設のため競って資金を投じている。そこに戦略的な

狙いが潜んでいるとしても、カンボジアやラオスのような域内最貧国にとっては喜ばしい投資だ。


 地域の大国である中国は経済力を武器に、より広範な野望の達成を狙っている。中国はベトナム南部

にまで伸びるメコン川における支配力を拡大することで、水資源の利用をめぐる発言力を増し、

自らの政策に従うよう周辺国に影響力を及ぼすことができる。

 

 「その影響力はまだ最大限に行使されてないが、そうなれば飢饉(ききん)や社会不安を生み、

政権転覆の可能性もある」と、スウェーデンの安全保障開発政策研究所主任研究員、エリオット・

ブレナン氏(バンコク在勤)は語る。


 中国は既にメコン川上流に大型ダムを6基建設し、さらに21基も加える計画だ。これにより、

乾期や干魃(かんばつ)時における貯水・放水能力の増強が図れる。


 メコン川はしばしば観測筋から、この地域の次なる火種と称される。その情勢は、中国が領有権を

主張して人工島を建設、軍事基地化している南シナ海の紛争ほどではないものの、最終的により

重要性が増す可能性がある。

なぜならメコン川は南シナ海へ注ぐ幹線水路であるだけでなく、東南アジア有数の穀倉地帯で豊富

な魚介類が生息し、観光地としての価値もあるからだ。


アメとムチの戦術

 メコン川と南シナ海の両方において、中国はアメ(投資)とムチ(軍事・外交面での圧力)の戦術を

用いている。中国企業がメコン川水系のダム建設のために資金援助を行う一方で、同国政府は

全長4350キロメートルのこの国際河川の管理で主導権を握ろうと画策している。

 

  1995年に設立され、ラオスやカンボジアなど4カ国が加盟するメコン川委員会(MRC)は

20年にわたり、メコン川の水資源管理を担ってきた。だが中国は2016年、これに代わる新たな

国際機構「瀾滄(らんそう)川-メコン川協力会議」(LMCM)を発足させた。


 中国は自身が加盟していないMRCと協働するよりも、LMCMを通じて中国西部の開発を進め、

欧州までの陸路と水路のインフラ整備を目指す「一帯一路」構想を強化したい考えだ。

LMCMはMRCより多くの国が加盟している。


 一方で米国は09年、メコン川流域5カ国の包括的で持続可能な経済成長の促進を目指す

「メコン川下流域イニシアチブ」を立ち上げた。ポンペオ米国務長官は8月初旬にシンガポールで

行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合において、ASEAN各国を重要な戦略的

パートナーと評し、「メコン圏における持続可能で包括的な成長を生み出すことは、ASEANの

重要性だけでなく、自由で開かれたインド太平洋地域の構築にも寄与する」と述べた。


地政学的な序列反映

 この発言は核心を突いていた。グループとしてのASEANは南シナ海をめぐる中国の動きを

批判するのをおおむね避けてきた。中国は領有権問題について係争する国家と2国間協議を行うと

主張し、特にカンボジアやラオスに対する経済支援を武器にASEANへの影響力を拡大している。

 

タイ在住の研究者で、中国の東南アジアへの影響力について詳しいセバスチャン・ストランジオ氏は

「メコン川が独特なのは、源流には大国の中国が、下流には発展途上の小国群が位置するように

地域の地政学的な序列が反映されている点だ。この上下関係は、下流域の国々が上流域での中国の

搾取を批判したがらない態度に既に表れている」と話す。


 中国の投資家たちは特にラオスやカンボジア、ミャンマーなど下流域諸国における巨大プロジェクトに

資金を投じている。


 「ラオスやカンボジアのような小国の政治指導者は、中国からの投資を拒否できないと感じている」

と、豪シンクタンク・ローウィー研究所の主任研究員、マット・ブッシュ氏は指摘する。

「メコン川をめぐる既存の支配構造は集団的かつ効果的な方法ではもはや機能していない。

今後はより多くの国が短期的利益を優先して単独行動を取るようになるだろう」と同氏は述べた。

 

原文:Bloomberg By Jason Koutsoukis

How Taming the Mekong Could Give China Unprecedented Power


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