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断腸亭日乗 (永井荷風 岩波版)を読む⑲ 暗い時代のはずだけど結構楽しんでいる

2022-11-08 13:33:20 | 日記

断腸亭日乗 (永井荷風 岩波版)を読む⑲ 暗い時代のはずだけど結構楽しんでいる

 伝え聞くところによると、大正12年の関東大震災の震災手形発行が原因で、昭和2年金融恐慌。

 その後昭和4年からの井上デフレ、昭和6年からの赤字国債を日銀引き受けをする高橋是清の金融抑圧の低金利の時代が昭和11年まで続く。(実際はそのあとは統制経済に入ったと考えられる。)低金利にするとインフレが起こるというのは素人にはわかりにくい話だけど、戦後のイギリスで実行されてずいぶんポンドが安くなったらしいから効果あるんだろう。この金融抑圧の時代は、今の日本と同じだから果たして同じことが起こっているのかを読んでみた。

 低金利であるから新産業が興るのかと思うのだけど、実際は人々は新しい仕事を始めようとはしないようで、なんだか停滞してしまうこと現代と同じようです。ここも素人にはわかりづらいけど現在もそうなっているようですから実験済みです。同じかどうかを知るのが目的でこの時代を再読したのですが、荷風さんは自分の人生が楽しげであることを書くのみのように見受けられます。

昭和8年に文無しの男爵が、女給のひもみたいになって女給の貯金をあてにして半ば詐欺みたいにして銀座で喫茶店を開く話が出てきます。(278ページ)しかしカネが尽きて男爵女給家主斡旋人の4人が話し合いをしていると、電灯会社の支払いをしていないもんだから部屋が真っ暗になったと嗤っています。銀座で聞きこんできた話で多分実話に近いものでしょう。もう少し脚色すれば小説にできるかもと思って、荷風さん日記に書き残したと思われます。フランス映画のラストシーンに使えそうな話です。

同じころ、男爵子爵が舞踏場で女給とどうこうして逮捕されたという話が出てきます。今の私どもは爵位を持っているとお金持ちで品がある人と思ってしまいますがどうもそうでもない人々と考えられます。日記のところどこで見られる「歓談深更に及ぶ。」の歓談とはこのような話をしていたと考えられますから、荷風さんはゴシップ好きの俗人で決して気難しい人とは思えない。

極めつけは、菊池寛他3名の文士がかけマージャンをして捕まったがこれは歳末のボーナス上げを狙った刑事達の点数稼ぎであるというような話まで書いていた。荷風は菊池寛が嫌いであるとどこかほかのところで聞いたことがある。嫌いな人の失態を書くことは当然楽しいことだろう。してみると、ついつい荷風に限らず文士は立派な人と思い込んでいるが、芸能週刊誌の記者みたいな仕事をしているような気がする。風采の立派なひとや評価の高い芸術家をむやみに気高い人のように思ってしまうが実質はそうではない。気高いと洗脳されてしまっているだけだから、時々断腸亭を読み返して洗脳を解く必要がある。

このように、読んでいるうちに金融抑圧の時代が現代とどこが同じなのかはついに読み取ることができなかった。ただ何となく時代の雰囲気が似ている。井上デフレのころはストライキが起こったり公務員の給料10%カットの話があったのにそれが無いだけましの時代である。ただ、現代の状態は金融抑圧が終わりそうなのでまさか昭和11年に相当するんじゃないでしょうなと恐れるところがある。