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柳橋新誌(成島柳北)を見る⑤ これは読む落語

2022-11-27 17:54:03 | 日記

 柳橋新誌(成島柳北)を見る⑤ これは読む落語

  落語を文章に書き写した本を電車の中で読もうとして持って歩いたけど、アンマリ面白くなかった。あれは耳で聞いて楽しむ芸で語り口が面白い。なんでも芸は生で見るのが一番楽しい。書き写したものは、するめのようになってるからせめて火であぶるなどの操作がいる。

 その点柳橋新誌は、見て面白い。多分語り口にすると今度は全く面白くなくなるし、現代語訳にしても全く面白くない。その理由を考えていたが、やっと分かった。現代語訳すると「女将は、まず客の利巧馬鹿か持ってるか持ってないかを見定める。」この内容は、そういうところへ行かない私でもきっとそうなんだろうなと分かる。キット馬鹿で持ってるのが上客なんだろう。別にありがたいご託宣でも新知識でもない。

 ここが、原文ではこうなっている。カッコがきカタカナはルビになっている。「女将軍・・・・・直ちに其の貧富(アルナイ)と慧愚(リコウバカ)を看取し了す(ミテトル)」ここでは、漢語の重々しさとルビで示される俗語との落差が大きいところが笑いを誘う。文章の意味ではなく漢語と俗語の差が面白いのである。本を読みながらげらげら笑うというのは、あまりしたことの経験です。

 私は、今まで文章は「面白い=役に立つまたは立つかもしれない」ということで、役立たないものは面白くないと思ってきた。イソップの自分の角を自慢している鹿の話は、読んだとたんにオオ自分も気を付けようと本気で思った。ありとキリギリスの教訓は、今に至るまで堅く守っている。(この話の本意は勤労と貯蓄を奨励する内容とはちょっと違うらしいけど)その意味では、この本は役立たないけど面白いしかも耳で聞いて面白いのではなく読んで(見て)面白い。

 全部が役立たない訳ではない。読んでしばらくして、この人旗本だったからこんな優雅な生活していたとばっかり思っていたが優雅な人は他にも一杯いそうであることに気が付く。そうして引きこもりとか過労死とかブラック企業とかの前身になるものは登場しないのである。(かろうじて書いてないけど船宿自体がブラックかもしれない。)お花畑のような結構な時代だったのではないかとの印象を受けた。今からでも遅くない、生噛りの難しい漢語に俗語のルビを振って仲間内でゲラゲラ笑う生活を是非送りたいのもである。