Quelque chose?

医療と向き合いながら、毎日少しずつ何かを。

新国立劇場バレエ「白鳥の湖」

2021-11-03 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
新国立劇場バレエ団、吉田都芸術監督による、ピーター・ライト版の重厚な「白鳥の湖」。
さすがライトである。
御伽噺のような白鳥のストーリーを、
若き王子が逃避を求める非現実世界と現実との遭遇、
それによる悲劇的結末、
という重いストーリーを底流としつつ、

垣間見える王室の生活の華やかさ、森の神秘、白鳥の群舞、艶やかな衣装などによって、
極めて美しく、また現代の我々が感情移入できる物語に仕立てている。
それを表現するダンサーの皆様の表現力たるや。木村さんはオデットの悲しさとオディールの凄みとを一瞬で演じ分け、渡邊さんは若き王室後継者の一途な未熟さに高貴を纏う、まさに王子だ。
群舞もぴたりと揃って、そこに、魔法にかけられた白鳥の群れが確かにいるよう。

ライト版は悲劇で終わるので切ないのだが、また観たい。

久しぶりに、演目のためもあるのかほぼ満席だったと思う。やはり舞台に向かって直接拍手できるのは嬉しい。まだ「ブラボー!」とは発声できないが、皆スタンディング・オベーションをしていた。

座席メモ
新国立劇場オペラハウス
1階19列、通路近く。
舞台全体が見渡せるが、やはり衣装や表情、舞台装置を良く見るためにはオペラグラスが必要。
今回は、前の座席に人が来なかったため正面の見易さについては評価せず。

拍手をするということ

2021-06-12 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
久しぶりに休みを取れた土曜日。
今日は、新国立劇場でバレエ鑑賞である。
初台に来るのもちょっと久しぶりだ。

演目は「ライモンダ」。
全幕として上演されるのは比較的珍しいように思う。
今日の主役、ライモンダは木村優里さん。婚約者の騎士ジャン・ド・ブリエンヌは井澤駿さん。そして、ライモンダを奪おうとするサラセンの首領アブデラクマンは、速水渉悟さんであった。

振付は、マリウス・プティパの原作を、牧阿佐美さんが改訂。
美術と衣装はルイザ・スピナテッリ。

バレエは、どのダンサーも繊細で優美、そして華やかな雰囲気で、一風変わった中世の舞台(舞台装置がとてもシンプル・・)を生かした形で物語を表現していた。木村さんは手の動き、指先のしなり方などとても美しいし、井澤さんは堂々とした、でも身分の高い騎士という感じ。サラセンの首領は、あれ?これ海賊?という感じで、その他サラセン人の衣装も、あれ?「りゅうぐう」と兼用?とか思ってしまったが(汗)、堂々と愛を伝えようとする体躯の良い異国の王を力強く演じていたと思う。

ただ音楽と群舞が、なんというか、牧先生が「グラズノフの音楽はチャイコフスキーのようにメリハリがある曲ではありません」とパンフレットで語っておられるように(ちなみに、このパンフは2004年版のプログラムの記載内容を元にしているらしいのだが)、やや冗長と感じた部分もあったことは否めないなあ。バレエ発表会の大人版?というか。2021年、今後また新しい時代に向けていろいろ改訂していっていただきたいと、素人ながら思ってしまった。

でも新国立はなんといっても群舞が美しい。「友人たち」のキャストの皆さんも完璧にこなしていた。オケも良かった。
何より、観客が(人数制限で半数に限定されていたとは言え)生でその舞台と音に接し、素晴らしい演技に対してその場で拍手できるというのは(ブラボー!の発声は禁じられていた)、この上ない体験である。まだまだコロナ禍は続くが、今後もできる範囲で舞台に足を運びたいと思う。

ちなみに、
とある衣装を初めて見たとき、

・・・・あ、ネオンテトラだ!

と思ってしまったのは内緒。
でもあれはネオンテトラだもんね。


アントニオ・ガデス「カルメン」

2020-05-06 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
アントニオ・ガデスとカルロス・サウラの作品、舞踏劇「カルメン」をYouTubeで観た。
マドリードのレアル劇場Teatro Real de Madridでの2011年公演。主演は、カルメン: Vanesa Vento、ドンホセ:Angeli Gil。

CARMEN by Antonio Gades & Carlos Saura | Teatro Real de Madrid | ANTONIO GADES COMPANY

これは単純な「カルメン」ではなく、「カルメン」という舞台を演じる劇団の中で物語が進むという、「劇中劇」の形を取っている。むろんフラメンコなのではあるが、ビゼーの音楽も使われているし、「カルメンの役者」はやっぱりカルメンだ。エスカミーリョは「闘牛士」として登場する。

舞台装置はきわめてシンプルで、全体に落とし気味の照明。
静と動、歌唱(カンテ)と手拍子(パルマ)が入り混じる、フラメンコの格好よさが凝縮されたような舞台。
特に、全身の筋肉を緊張させて直立しステップを踏む男性の踊り手(バイラオール)の格好よさが際立っている。まるで時代劇の殺陣のようである。
ギター、カンテも素晴らしい。
最後はカルメンらしく(?)悲劇で終わる。
カーテンコールまで見応えあり。

有名な作品なのでこれまでにも観た方は多いと思うが、フラメンコやダンス、カルメンの物語が好きな方であれば、このStay Home期間にまた観てみてはいかがでしょう。


 

巣ごもりシアター「マノン」

2020-05-05 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
新国立劇場バレエ「マノン」を観た。
これは2月に観にいくのを楽しみにしていたのだが、行くはずの公演がコロナウイルスの影響で直前に中止になってしまい、しかもその時には初日からの高い評判が聞こえてきており、仕方がないと思いつつもかなり残念に思っていたもの。

それが、今回の「巣ごもりシアター」で配信されることになったのである。
配信されるのは2月23日公演の、米沢唯&ワディム・ムンタギロフの回。
ロイヤルバレエのプリンシパル、ワディムさんのデ・グリューが家で観られるとは嬉しい。

ストーリーは、マノンという女性のために破滅的な人生を送ることになる神学生デ・グリューの話。と言ってしまえばいいのか? いや、マノン本人も堕ちていくのである。それも徹底的に悲惨な方向へ。

暗い重いストーリーだとわかっていたけれども、

いやこの鑑賞後の、ずしーんという感じ。


素晴らしいです。


マクミラン振り付けで、もうアクロバット的とも思える動きを見事にこなす中で、唯さん体重がないのか!?とすら思える軽やかさ。
ワディムさんとの視線の交わし方、舞台上の恋愛を観ているような緊張感。
ムッシューGMはもちろん上手だけども、中の人が若くていい人なのがわかる(違うか)。それからレスコーと、その愛人もそれぞれ心情を表現しきっている踊り。木村さんの繊細さはやはり今回も素敵。
その他の登場人物とオケも申し分なし。衣装は以前オペラハウスに展示されていたけれど、こうして実際に着用されているのを見ると、例えば「沼地」のは本当に堕ちゆく運命を衣装だけで表している(しかも動きやすくできている)のだなあ。マスネの音楽、久しぶりに聴いたけれどこうして振りが乗るともう泣けますね。

誰にでもわかって楽しめるバレエというよりは、大人の作品であるけれど(やや性的な表現もあるので)、この公演は圧巻でした。

ブラボー。

いつの日かまた、公演を劇場で観られますように。

そしてそのために、今の自分にできるささやかなことで、舞台芸術を含めたアートを支えていくことができますように。





「In Situ」 ピエール=エリィ ド ピブラック展@シャネル

2020-03-14 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
銀座のCHANEL NEXUS HALLにて、
「In Situ ピエール=エリィ ド ピブラック展」を観てきた。

いわゆるハイブランドにほぼ縁がない生活を送っている私。
銀座に行っても、たいてい寄るのは伊東屋と教文館くらいだし、ブランドのブティックとか黒い服の人が立っているお店(!)には一生入らないだろうな・・・と思っているので、
今日も少しばかり緊張しながら向かったのであるが、

CHANEL NEXUS HALLは、横道からすっと入れて、黒い服の人も怖くない。
というか優しい。
何と言っても、エレベーターから私みたいな庶民ぽい人々が出てくるではないか。ということで安心してホールに向かったのである。

別にシャネルを着こなしていなくても入れるのです。
しかも無料。



ピエール=エリィ ド ピブラックは、1983年生まれのパリのフォトグラファー。
彼が、婚約者とガルニエを訪れたのをきっかけに、オペラ座バレエ団の中に"住み込む"ような形で、オペラ座とダンサーのありようを、楽屋側からまさにありのままに、もしくはあえて作り込むような形で、写真におさめた作品の展示である。
一部に動画展示もあり。

オペラ座ガルニエの圧倒的な建築美。
その中に立ち、舞い、身体のすべてを使い尽くしながら表現するダンサーたちの、緊張感にあふれた美しさ。
その奥、見えないところには、挫折していった数々の若者の存在や、機械仕掛けの舞台装置、足の血豆や破れたトウシューズがあるのだとしても。

下の写真は、”パリ・オペラ座でバレエダンサー11人と共同制作した作品”という、「Analogia」シリーズの一枚。このシリーズの大きなプリントの前に立つと、圧倒された。
これほどに完璧な「美」の表現が他にあるだろうかとさえ。



このような素晴らしい展示や企画があるのであれば、シャネルのルージュくらい、少し買ってみようかなと思ったり(ほんとか)。

銀座では4月5日まで。その後、京都に巡回予定(延期になったようなので要確認)。