Quelque chose?

医療と向き合いながら、毎日少しずつ何かを。

アントニオ・ガデス「カルメン」

2020-05-06 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
アントニオ・ガデスとカルロス・サウラの作品、舞踏劇「カルメン」をYouTubeで観た。
マドリードのレアル劇場Teatro Real de Madridでの2011年公演。主演は、カルメン: Vanesa Vento、ドンホセ:Angeli Gil。

CARMEN by Antonio Gades & Carlos Saura | Teatro Real de Madrid | ANTONIO GADES COMPANY

これは単純な「カルメン」ではなく、「カルメン」という舞台を演じる劇団の中で物語が進むという、「劇中劇」の形を取っている。むろんフラメンコなのではあるが、ビゼーの音楽も使われているし、「カルメンの役者」はやっぱりカルメンだ。エスカミーリョは「闘牛士」として登場する。

舞台装置はきわめてシンプルで、全体に落とし気味の照明。
静と動、歌唱(カンテ)と手拍子(パルマ)が入り混じる、フラメンコの格好よさが凝縮されたような舞台。
特に、全身の筋肉を緊張させて直立しステップを踏む男性の踊り手(バイラオール)の格好よさが際立っている。まるで時代劇の殺陣のようである。
ギター、カンテも素晴らしい。
最後はカルメンらしく(?)悲劇で終わる。
カーテンコールまで見応えあり。

有名な作品なのでこれまでにも観た方は多いと思うが、フラメンコやダンス、カルメンの物語が好きな方であれば、このStay Home期間にまた観てみてはいかがでしょう。


 

巣ごもりシアター「マノン」

2020-05-05 | バレエ・ダンス・ミュージカルなど
新国立劇場バレエ「マノン」を観た。
これは2月に観にいくのを楽しみにしていたのだが、行くはずの公演がコロナウイルスの影響で直前に中止になってしまい、しかもその時には初日からの高い評判が聞こえてきており、仕方がないと思いつつもかなり残念に思っていたもの。

それが、今回の「巣ごもりシアター」で配信されることになったのである。
配信されるのは2月23日公演の、米沢唯&ワディム・ムンタギロフの回。
ロイヤルバレエのプリンシパル、ワディムさんのデ・グリューが家で観られるとは嬉しい。

ストーリーは、マノンという女性のために破滅的な人生を送ることになる神学生デ・グリューの話。と言ってしまえばいいのか? いや、マノン本人も堕ちていくのである。それも徹底的に悲惨な方向へ。

暗い重いストーリーだとわかっていたけれども、

いやこの鑑賞後の、ずしーんという感じ。


素晴らしいです。


マクミラン振り付けで、もうアクロバット的とも思える動きを見事にこなす中で、唯さん体重がないのか!?とすら思える軽やかさ。
ワディムさんとの視線の交わし方、舞台上の恋愛を観ているような緊張感。
ムッシューGMはもちろん上手だけども、中の人が若くていい人なのがわかる(違うか)。それからレスコーと、その愛人もそれぞれ心情を表現しきっている踊り。木村さんの繊細さはやはり今回も素敵。
その他の登場人物とオケも申し分なし。衣装は以前オペラハウスに展示されていたけれど、こうして実際に着用されているのを見ると、例えば「沼地」のは本当に堕ちゆく運命を衣装だけで表している(しかも動きやすくできている)のだなあ。マスネの音楽、久しぶりに聴いたけれどこうして振りが乗るともう泣けますね。

誰にでもわかって楽しめるバレエというよりは、大人の作品であるけれど(やや性的な表現もあるので)、この公演は圧巻でした。

ブラボー。

いつの日かまた、公演を劇場で観られますように。

そしてそのために、今の自分にできるささやかなことで、舞台芸術を含めたアートを支えていくことができますように。





「英国王のスピーチ」

2020-05-04 | 本・映画・テレビ
2010年の映画、「英国王のスピーチ」を観た。

史実に基づいた話であり、主人公はヨーク公アルバート、のちのジョージ6世。今の英王室のエリザベス女王の父である。

幼い頃から吃音があり、会話に難しさを感じていたヨーク公は、父王の代理としてのスピーチで失敗してしまう。
その後、妻エリザベスの紹介で、平民のスピーチセラピスト、ライオネル・ボーグと出会う。
最初は反発するものの、その後治療を受けに彼のオフィスに通うようになり、
ストレッチや顎の訓練、歌に乗せて話す、あるいはわざと乱暴な言葉や卑猥な言葉を怒鳴る・・・など、それまでとは違うセラピーを受ける中、
次第に、「王族と平民」としてではない信頼関係が生まれていく。

しかし、その後父である国王ジョージ5世が崩御。
兄がエドワード8世として即位するが、彼はシンプソン夫人との恋愛のため(いわゆる有名な"王冠を賭けた恋"というやつですね)自ら退位してしまう。
このため、ヨーク公アルバートは、思ってもみなかったことに、「ジョージ6世」としてイギリス国王に即位することになるのだ。
まもなく第二次世界大戦が開戦し、ジョージ6世は、国王として、全国民とイギリス統治下の全員に呼びかけるべく、スピーチを行うことになる・・。

 
ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞などさまざまな賞を受賞したこの作品。
まずは、主演のコリン・ファースの演技が素晴らしい。アカデミー主演男優賞を受賞しただけのことはある。吃音についてさぞ勉強(というのだろうか)したのだろうなという話し方。そして、王室のメンバーとしての風格と佇まい。吃音を意識し、できるだけカバーしようとしながらも、子供達に愛情を注ぎ、「おはなし」をするところなども見事である。(ああ、この子がエリザベス女王か・・と感慨)

王室の暮らしや、当時の政治や政局をうかがわせる登場人物や風景にも目を惹かれる。ヒトラーのニュースが入ってきたり、チャーチルがいたり。バッキンガム宮殿のバルコニーに立って群衆に手を振るところを、手を振っている人物の側から見ることなんて我々にはないので、「おお、あれか!」という感じでもあり。

そして最後のスピーチ。
まさに「国難に当たる国王」が生まれたと思わせる。
スピーチの前と後で、国王が明らかに「生まれ変わる」のである。

上記の、スピーチセラピーの時の乱暴で卑猥な言葉遣いのために、R指定がどうのこうの・・という一悶着(?)もあった作品のようであるが、特に子どもが見て心が荒むようなシーンはないと思う。おすすめ。