「モリッシーの心の平和」 日本語訳 Part5
◆『ワールド・ピース・イズ・ノン・オブ・ユア・ビジネス』は『ヴォックスオール・
アンド・アイ』リリース以来の、あなたのベストアルバムだという呼び声が高い
です。新しい作品をレコーディング中には、過去の作品のことを、どの程度
考慮に入れているのですか?
過去に使い過ぎたと思われる、特定のキーワードを使わないようにするのは大切
だね。そして同じメロディーを繰り返すことは絶対にしないように注意している。
◆何か違ったことをやらなくてはいけない、と強いられているような気分には
なりませんか?
ならないね。なぜなら私はこのままで十分人と違っていて、変わっているから。
◆歌の中で繰り返しとりあげたくなるようなテーマもありますか?
そんなにはないかな。もし人々が私を神経症だと思っても、痛くもかゆくもない
けどね。
◆あまりに多くの人々があなたのことをアイコンとして崇めていることは、
レコーディングをする際にプレッシャーに感じますか?
うーん、「アイコン」て言葉が好きじゃないね。あまりに使い古されていて、
「レジェンド」と同じくらい意味のない言葉になってると思うから。最近では
誰でも「レジェンド」って呼ばれるらしいね。もし『エマーデイル』(英国のテレビ
のソープドラマ番組)に4回出ただけでも、「レジェンド」って呼んでもらえる。
「アイコン」は石(元々icon=像の意)の意味でもある。私は石ではなく、まだ
生身の人間であることは確かだ。
レコーディングにはプレッシャーは感じない。なぜならすでに、自分の
揺るぎないやり方を貫いてきているし、私の邪魔をしたくても、そのために
できることってそんなにないからね。私を殺さない限りは。殺そうって奴も
たまにはいるけど…まあ無理もないね。
◆『ワールド・ピース・イズ・ノン・オブ・ユア・ビジネス』は、闘争と嘆きを呼ぶ
作品ですよね?あなたは、色々な物事に対する怒りをあらわにしています…。
えーっと、君は最近のニュースを見ていないの?笑う機会はそんなにないと思うけど。
◆ハーヴェストとの新しい契約関係はいかがですか?ご自身でA&R(レコード
会社の企画・制作・宣伝などの業務)も行うのですか?それともレーベルに
マスター・テープをただ渡すだけですか?
我々は、18曲を4週間でレコーディングした。レーベルは私たちの仕事があまりにも
早く、そしてあまりにも素晴らしいものを生み出したことにショックを受けているよう
だった。ハーヴェストの長、スティーブ・バーネットはこう言っていた。
「あー、良い作品ができるだろうとはわかってたんだ。でも、ここまで良いものに
なるとは期待していなかったよ」って…、いいこと言うよね。
毎日聞いているような音楽ではないし、実際、今まで聞いたことのあるようなもの
でもないから。
◆あなたは幸せな時、悲しい時、酔っぱらっている時、シラフな時、いつ歌を
作りますか?それとも、これらの状態が混ざっている状態で作るのでしょうか?
歌を作るのに、感情は関係しない。でも私は、悲しくないことがないんだよ…
これって素敵な言い方だよね…。
◆ジェイク・バグ、メアリー・J.ブライジ、ジェイムス・ブラント、そしてクレア・
デインズ(アメリカの女優)のような人々と一緒に肩を並べて出演した、
超現実的なノーベル平和賞コンサートのことをどのように思いましたか?
あんなに威厳があって仰々しいものだなんて知らなかったよ。出演者はみんな礼儀
正しかった。だけど地元の市長(オスロのファビアンスタング市長)は、私のノルウェー
連続テロ事件に関する意見(過去にモリッシーはこの事件に関して、マクドナルドや
ケンタッキーに比べたらどうってことはないことだと発言)が気にくわないからって、
出演を阻んできた。思うに、毎回何かしらは、あるよね。
◆あなたの自伝の売り上げは、好調ですね。ご成功、おめでとうございます…
ああ、ありがとう。でもまだ売るのをやめたりしないから。
◆…執筆には、どれくらいかかったのですか?
そうだな、まず生きていかなきゃならなかったから、けっこう長いことかかったね。
最初は600ページあったんだよ、でも読者が読み進めていくにはちょっと自己嫌悪が
過ぎるかなと思って減らしたんだ。
◆その過程は楽しかったのですか?
人生の過程?違うね、人生について、書く過程ね。子ども時代は自分の中の子どもパワー
で書いたし、青春時代は青春パワーで書いたし、大人になってからは…自殺者のパワー
で書いたよ。本当に事実に基づく記述でしかなく、いかに出来事が、私に影響してきたかを
書いた。だから、この自伝に対するどんな批判も意味がないんだよね。私こそ私で、
私が私になるのに何がどのような感じだったかは、私しか知り得ないから。別に、
『世界の歴史』を書いているつもりなんてなかったからね。
◆ユーロヴィジョン・コンテストの英国代表に選んでもらいたいというあなたの
希望が聞き入れてもらえなかったことに、失望していますか?
ああ。「アイム・スローイング・マイ・アームス・アラウンド・パリス」を歌おうと準備万端だった
から。でも気づいているかい?トニー・ブレアがイラクの罪のない人々に対して爆弾を落と
して以来、他の国々は英国代表の歌手に投票してくれないんだ。彼らを責められないけどね。
(つづく)