Action is my middle name ~かいなってぃーのMorrisseyブログ

かいなってぃーのMorrissey・The Smithsに関するよしなしごと。

Still Ill

2024-10-26 16:20:56 | ザ・スミス歌詞/The Smiths
Still Ill
“The Smiths”(1984)収録
ファーストの6曲目。レコードではB面1曲目。
言わずと知れたザ・スミスのアンセムのような曲。この歌のせいで「モリッシー=病気」というイメージもついた気がする。2012年の来日直前、ロッキン・オンには「モリッシー、あなたが罹っている病気とは何ですか?」というタイトルのインタビューが掲載されていた(失礼過ぎる・・・)。
そこでモリッシーは、Still Illで歌われている“Ill”(病気)に関して、
「『スティル・イル』における病気とはぼくが若かった頃に経験したことと関係していて、自分には根本的な選択権がないということが受け入れられずにいて、そのせいで頭が病んでしまったのではないかと思われていた時のことなんだね。けれども、もしぼくがあの頃自分の周りの人たちから受けた説得をしっかり聞き入れていたなら、ぼくは今頃もう死んでいただろうね」
と、きちんと答えている。
翻訳のせいなのかわかりにくいけど、要はモリッシーの主張があまりに尖っていて「あいつヤバくね?病気じゃね?」と思われていた。外から貼られたレッテルである。それが“Still Ill”で歌われている“Ill”(病気)であって、べつにほんとに病んでるわけじゃないということ。
病と言えば、それこそ英国は1960~70年代に経済成長がオワッタ感じになりそれを指して「英国病」と言われていた。それが1979年の総選挙で保守党が勝ち、サッチャーが政権をとる。この鉄の女は、国有企業の民営化、インフレの抑制、財政支出の削減、税制改革、規制緩和、労働組合の弱体化…などなど、ゴリゴリの政策を推し進め英国病の症状の克服に努めた。
しかしすぐには不況は改善されず、失業者数はむしろ増加。国民は苦しい状況を強いられている80年代の状況にぶちきれたモリッシーは「英国は僕のもの 面倒を見てもらって当然だ」とかましている。とても威勢が良くて元気。むしろ「まだ病気」なのはモリッシーではない。対峙している国家であり、権力者たちのことなのではないか。さようですかい、あたしゃ病気かい?でも本当に病気なのはどいつなんろうね!!という挑戦の歌であると思う。
しかしこの“Still Ill”というタイトルについては、モリッシーは親友リンダー・スターリングとの会話から発想を得たようだ。スミス結成前のモリッシーは、マンチェスターのデパートの屋上のレストランで毎週彼女と毎週会っていた。その時リンダーが
「あなた、まだ病気なの?」(“Are you still ill?”)
と、聞いてきたと、自伝には書いてある。
「その時、ザ・スミスの『スティル・イル』という歌は生まれた」
と、モリッシーは書いているので、彼にとってもバンドにとってもその後を決定づけた「歴史的瞬間」を表す、とても象徴的な言葉だと思った。
・・・余談だが、『モリッシー自伝』の編集担当もMさんもそう思ったのか、『モリッシー自伝』日本版の黒い帯のタイトルの下に「あなた、まだ病気なの?-Are you still illー」と入れた。とてもかっこよかった。しかし発売後に、この帯を見たモリッシーの当時のマネージャーは激怒。メールでこう言ってきた。
「表紙デザインは寸分違わずって、言ったよなゴラァ!!!なんでスミスのタイトルが入っとんのじゃ~!!!モリッシーはもうスミスじゃないんだよ、このボケがぁあああああ!!!モリッシーも怒ってイル!!!!」
…怒り過ぎである。
というのも、日本の出版物の流通初版にはプロモーションデザインのため、マーケティングのため、当然のように帯がついているが、外国人には「帯」という概念の認識がない、もしくは薄いからなのである。出版業界の人ならまだしも音楽業界の人ならなおさら書籍にセットされている帯の意味がわからず、「表紙の一部」ととらえたようだ。契約では表紙を変えんなって言ったのに、何さらしてくれとんねん、ということだろう。「モリッシーも怒ってイル」は脅しかな、と思ったけど、手段を選ばない方なので、自伝日本版「焚書」の刑に合うのではないかと、本気で心配した。
そんなわけで、第2刷からは、Still ill帯ではなくなってしまった。残念なことである。でもエージェントより、日本における帯の意味を伝えてもらったので、何もキャッチコピーを足していない、ゴールドの帯はついている。
話が逸れすぎたが、“Still ill”はいろいろ語ることが多くて忙しい。
過去にも語っているのでこちらもご参照ください。
歌詞の話に戻る。
歌詞に出てくる、モリッシーの実家からすぐそばにある、キスして唇が痛くなる鉄橋( Kings Road, Stretford, Manchester)は、いまやスミスファンの観光名所化し、落書きだらけ。
こんな感じ(ただ歩いてるだけなんだけどこのファンの人が嬉しそうでほっこりする)↓
‘Under the Iron Bridge we kissed’… Morrissey’s childhood home and the Iron Bridge
私もこの下でキスをすることを夢見たティーンエイジャーであったが、実は、鉄橋の下でキスをして唇が痛くなったのは、サッカー賭博で億万長者になったヴィヴ・ニコルソンであった…。モリッシーが好きで、彼女の自伝“Spend spend spend”(『使う、使う、使う(金を)』)から引用したのだ。
彼女の自伝によるとこの橋の下でキスというか、お触りありのほとんど「B」をしたヴィヴは、「お互いの唇を噛み合ったために痛くなった」と、、、激しい・・・。この歌のこのくだり、せっかくロマンチック気分で聴いてたのに!まあ、なんで鉄橋の下でキスをすると唇が痛くなるのかわからなかったけど、このことを知って謎が解けた。
スミスのシングル“Heaven Knows I'm Miserable Now” やドイツ盤のBarbarism Begins at Homeのジャケット写真にも使っている。
彼女は、1961年に夫のキースがサッカー賭博で15万2,319ポンド(現在の日本円にしたら8億円以上!)を獲得し、高級スポーツカー、毛皮、宝石、旅行などの贅沢三昧をして財産はすぐに底をついた。その後の彼女の人生はめちゃくちゃ、アル中で結婚を繰り返しDVもされたりストリッパーになったり…。
なんでモリッシーは、シングルジャケットに何度も使うほど、彼女を好きなのか。モリッシーは労働者階級出身の、人生が悲劇に見舞われたり、無責任な男にひどい目にあったりもするけど逞しい、強い女が好きである。『蜜の味』の中のリタ・トゥシンハムや、女優ダイアナ・ドースなどなどのことも思い出す。モリッシーが好きなのは、自分の生きたいように生き、どんな状況であろうと自分の尊厳を守り続け、己の立場で戦っている人間。人からはそれこそ「病気」と思われていても。
これを書いていて、久々に「英国病」のことなんて考えて思ったのは、今私たちのいるこの日本も重篤な病「日本病」にり患中じゃないかってことだ。90年代初頭のバブル崩壊に始まり、「失われた30年」は今も続き、ずっとデフレで賃金も増えてこなかった。GDPの成長率ランキングは2001年に世界5位であったが、その後、順位を下げ2018年には20位、そこから下がり続けて2023年の日本の経済成長率ランキングは126位だ。
経済規模で言えば、まだ大きいが(名目GDP4位)、2025年にはインドに抜かれて世界5位になる見通しだし、そもそも「成長できない病」にかかっているのである。なのに「おしん」の国日本人は、耐え忍ぶことが美徳とするのか?「面倒を見てもらって当然だ」とか「なんでって聞いたらお前の目に唾を吐いてやる!」なんて言わない人が多い。親(国家)が病気なら子(国民)も病気というか、この病気の連鎖は断たなくていけないと思う。まず、思考停止はやめて、おかしいものに唾を吐くところから(本当に唾を吐かなくていいけど)。
30年も前の歌なのに、英国のフリ見て我が国振り返るというか、そういうことを改めて気づかされる歌である。モリッシーの戦い様は、時代を超えて参考になる。

まだ病気

今日、こう宣言する
人生とは奪うだけ、与えることはない
英国は僕のもの
面倒を見てもらって当然だ
なんでって聞いたら
お前の目に唾を吐いてやる
理由を聞くなら
お前の目に唾を吐いてやろう
でも、僕らはもう
あの古い夢にしがみつけない
あの夢にしがみつくことなんてできない

体が心を支配しているのか
それとも心が体を支配しているのか?
わからない

鉄橋の下で僕らはキスした
それで唇が痛くなったけどもう
あの頃のようにはいかない
あの頃とは違った
僕ってまだ病気なの?ああ
まだ病気なの?ああ、ああ、ああ、ああ

体が心を支配しているのか
それとも心が体を支配しているのか?
わからない
なんでって聞いたら
死んでやるやる
理由を聞くなら
死んでやろう
明日仕事に行かなきゃないなら
まあ、もし僕だったら悩まないね
人生にはもっと明るい面がある
そういうのも見てきたからわかるべきなんだけど
でも、そうそうあることじゃないんだ

鉄橋の下で僕らはキスした
それで唇が痛くなったけどもう
あの頃のようにはいかない
あの頃とは違った
僕ってまだ病気なの?ああ
まだ病気なの?あああああああああああああ

Still Ill

I decree today that life
Is simply taking and not giving
England is mine, it owes me a living
But ask me why and I'll spit in your eye
Oh, ask me why and I'll spit in your eye
But we cannot cling to the old dreams anymore
No, we cannot cling to those dreams
Does the body rule the mind
Or does the mind rule the body?
I dunno

Under the iron bridge we kissed
And although I ended up with sore lips
It just wasn't like the old days anymore
No, it wasn't like those days
Am I still ill? Oh oh oh
Oh, am I still ill? Oh oh oh oh

Does the body rule the mind
Or does the mind rule the body?
I dunno
Ask me why and I'll die
Oh, ask me why and I'll die
And if you must go to work tomorrow
Well, if I were you I wouldn't bother
For there are brighter sides to life
And I should know because I've seen them
But not very often

Under the iron bridge we kissed
And although I ended up with sore lips
It just wasn't like the old days anymore
No, it wasn't like those days
Am I still ill? Oh oh oh oh
Oh, am I still ill? Oh oh oh oh oh oh oh oh oh oh


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