☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『切腹』(1962)

2016年12月09日 | 邦画(クラシック)
『切腹』(1962)

監督:小林正樹
脚本:橋本忍
原作:滝口康彦
製作:細谷辰雄
出演者:仲代達矢、石浜朗、岩下志麻、丹波哲郎ら
三國連太郎
音楽:武満徹
撮影:宮島義勇
配給:松竹

【作品概要】
滝口康彦の小説『異聞浪人記』を、松竹の小林正樹が演出した作品。
社会派映画を監督してきた小林正樹が、初めて演出した時代劇映画である。武家社会の虚飾と武士道の残酷性などの要素をふんだんに取り入れた、かつて日本人が尊重していたサムライ精神へのアンチテーゼがこめられた作品。
1630年(寛永7年)5月13日、井伊家の江戸屋敷を安芸広島福島家元家臣、津雲半四郎と名乗る老浪人が訪ねてきた。半四郎は井伊家の家老である斎藤勘解由に「仕官もままならず生活も苦しいので、このまま生き恥を晒すよりは武士らしく、潔く切腹したい。ついては屋敷の庭先を借りたい」と申し出た。これは当時、江戸市中に満ち溢れた食い詰め浪人によって横行していたゆすりの手法であった。このような浪人が訪れるようになった原因は、ある藩で切腹志願の浪人の覚悟を認められ仕官が適ったという前例があったからであり、それがうわさとなり他の浪人達も同じ手を使って職を求めてくるようになったという経緯がある。当然諸藩はこれらの浪人を皆召し抱えることは出来ない。以後処置に困り、切腹志願者に対しては職を与えるのではなく表向き武士の覚悟を評価するという名目で褒賞として金銭を渡すことで引き取ってもらっていた。藩は実際に切腹する気はないことは十分承知していたが、武士の情けを示したのである。しかしながらこのような浪人の出現がたび重なり藩としても対処に苦難するようになった。温情を掛けることが結果として、切腹志願の浪人を招きよせるという構図が出来上がってしまったのである。(Wikipediaより抜粋)

【感想レビュー】
面白い…!
殺陣のシーン、めちゃくちゃ格好良いです。
格好良いとか、言葉が足りないくらい!!

尻上がりにどんどん面白くなっていって、ぐいぐいたたみ掛けるようにテンポも上がっていくという構成美も…

仲代達矢さんの、とぼけた(失敬…!)態度、台詞の調子が、この時代の映画特有の速いテンポと強いコントラストを生んでいて、ズッコケそうになりつつもだんだん病み付きになっていくという…!

胸もスカッとしたりして


そうして、そう観せておいてのクライマックスシーンのシークエンスは…!!

丹波哲郎さんて、格好良くて存在感のある役柄のイメージですが、この映画でも。

もう二人の殺陣のシーンとか、神がかっています、本当に。




しかし壮絶だったなぁ…





『不死鳥』(1947)

2016年12月09日 | 邦画(クラシック)
『不死鳥』(1947)

監督:木下惠介
脚本:木下惠介
原作:川頭義郎
製作:小出孝
出演者:田中絹代、佐田啓二
音楽:木下忠司
撮影:楠田浩之
製作会社:松竹

【作品概要】
 川頭義郎による原作を、木下恵介が脚色し監督。田中絹代と、本作が映画デビューとなる佐田啓二とのキスシーンが話題になった。

【感想レビュー】
ネットレンタルで観ました

木下惠介監督作品を観る旅で、ずいぶん前にリストに入れていたのが届いた次第です。
(先に観たい作品をどんどん繰り上げしてしまい、忘れた頃にポンと届くというあるあるです…)

しかしとっても見応えがありました!

描かれているのは、戦前、戦中、戦後で、ストーリーはなんてことのないメロドラマなのですが、当時の資産家の生活様式など、目を見張るものがあります。

1947年の公開を考えてみても、戦後の一般の人々の生活水準と大きくかけ離れた内容だったのではないかしら…と思います。

どの時代においても、ファッションが素敵で、また食事のシーンなどもけっこう優雅という。

田中絹代さん演じる主人公の疎開先が、軽井沢の別荘というあたりも、それを物語っています。

宮崎駿監督の『風立ちぬ』のヒロイン、里見菜穂子のバックグラウンドと、『不死鳥』のメインの二人のイメージは重なるかもしれません。


また、田中絹代さんが素晴らしくて…
当時38歳頃でしょうか。
モノクロ映画とはいえ、おさげ頭から未亡人まで演じてらっしゃいます
何でしょう、恥じらいとか可愛気とか…
でも芯の強さとか。

男性はこういう感じ、…好きよね、きっと、な感じもありつつ


田中絹代さんと木下惠介監督といえば。。

『陸軍』は国策映画なのに、母(田中絹代さん)が息子を思う気持ちを台詞ではなく表現してしまうという、監督の気概が滲みまくりのラストシーンがあって、もう本当に痺れるのですが、この『不死鳥』の田中絹代さんは、はっきりと何度も、必ず帰って来てねと言うシーンがあります。

戦中と戦後の作品の違いを改めて感じるシーンでした。


そして二人の想いは、まさに『不死鳥』という、ベタベタなメロドラマだけれど、時代背景を考えると、なんかもう泣けてしまいます。

大切な人を失うという喪失感を、多くの人が経験したということも伝わってきます。


ヒロインの叔父夫婦の守銭奴ぶりも見もので、軍需産業の恩恵にあやかりたい様子など、木下監督のチクリとした表現も好きです


あと、小道具のピアノが効いています。
メインの二人の両家ともグランドピアノが置いてあって、その居間の装飾といい、もう観ているだけで素敵なのです

それにしても。

ヒロインが後ろから肩に手を置かれながら、ショパンの即興曲第4番を弾くシーンがあるのですが…

佐田啓二さん、素敵過ぎる…
もう、ため息ものなのです…‼︎


観て良かったです📽






『オリーブの山』(2015)@東京フィルメックス

2016年12月03日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『オリーブの山』(2015)

【作品詳細】
イスラエル、デンマーク / 2015 / 83分 / 監督:ヤエレ・カヤム (Yaelle KAYAM)

主人公はエルサレム東部のオリーブ山にあるユダヤ人墓地の中の家で暮らす若い主婦、ツヴィア。夫が仕事に、子供たちが学校に出ていった後は一人で家事を行っているツヴィアは、時折気を紛らわすように墓地を散策する。ある夜、衝動的に外に出たツヴィアは、墓地で人目をはばかることもなく抱き合っている男女を目撃する。その瞬間、ツヴィアの単調な日々の生活に大きな転機が訪れる……。ヤエル・カヤムの監督デビュー作となる本作は、イスラエルの厳格なユダヤ教徒の家庭を舞台に、慎ましい生活を送っていた主婦がこれまで想像もしなかった世界を発見するプロセスをストイックに描いた作品だ。2015年ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映された。

【感想レビュー】@東京フィルメックス
11/24(木)に観た4本目。コンペティション部門の1本。

厳格なユダヤ教徒の家庭(よりによってオリーブ山のユダヤ墓地の中に暮らしている…!)を描いたストーリーです。
エルサレムのオリーブ山といえば、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒にとって、神聖な場所。

ただこの映画は宗教という側面よりも、家庭という閉鎖的な空間で疲弊し、少しずつ、少しずつ、心が蝕まれていく様を描写しているのだと感じました。

煩悩との葛藤という側面も出てきます。

描かれていること自体、世界のどこにでも誰にでも存在しうる問題でした。

厳格なユダヤ教徒と聞くと、戒律が厳しそうだなぁ…とか、近寄り難いイメージを持ちますが、なんだか、ちょっと親近感も湧いたりしました

けっこうな描写が幾つかあって、これは宗教的に問題にならないのかしら…と驚きもしました

ラストの感じ方も、人によって正反対になりそうだし、また同じ人でも観る度に変わりそうな気も。

ネタバレを気にすると具体的には書けないのですが。。

飲食店とかでなく、無償で作った料理を毎日、同じ人に出すという行為は、日々を生きていく為なので、その行為が否定的に扱われた描写というのは、心が蝕まれて、少しずつ死んでいく様子をやはり描いていると思うのですが、、このシーンは本当にゾッとしました

結果、誰かに提供されたのか、あるいは誰にも提供されなかったのかは、定かではなかったように思うのですが、どちらにしても、物語の主人公の心が弱っていく様に、家庭という一つの単位の手詰まりを感じたりもしました


はぁ、ぶるぶる…


同日、この映画の前に観たナデリ監督の『山〈モンテ〉』は、受難に立ち向かっていく様子を力強く描いた作品でしたけど、次の1本でこのような葛藤を描いた作品を観るとは…。

恐ろしやフィルメックス…

ブラボー、フィルメックス…


開会式の19日、23日、24日で合計9本を観た今年のフィルメックス。

コンペティション部門を多く観れたのが嬉しかったです

ナデリ監督の新作も観れたし、サインも頂けましたし、嬉し過ぎる…!!むせび泣きです。

来年も楽しみです




『山<モンテ>』(2016)@東京フィルメックス

2016年12月01日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『山<モンテ>』(2016)@東京フィルメックス

【作品詳細】
イタリア、フランス、アメリカ / 2016 / 105分 / 監督:アミール・ナデリ (Amir NADERI)

前作『CUT』を日本で撮影したアミール・ナデリの最新作は、全編がイタリアで撮影された作品だ。時代設定は中世末期。主人公は山の麓の村で妻子と暮らすアゴスティーノ。巨大な山が壁のようにそびえているため、この村には太陽の光が十分に当たらず、作物も育たない。移住を勧める忠告に耳も貸さずアゴスティーノは村に住み続けるが、窮状は極まるばかりである。遂にアゴスティーノは、山そのものに挑戦するという驚くべき行動に出る……。何かに取り憑かれたかのように一つの行動を続けるというナデリ作品に共通する設定が、ある意味極限まで推し進められた異形の傑作。ヴェネチア映画祭での本作の上映に際し、ナデリに「監督・ばんざい!賞」が授与された。


【感想レビュー】@東京フィルメックス
11/24(木)、この日の3本目。特別招待作品の1本です。
待ちに待ったナデリ監督の最新作
前作の『CUT』は、三部作の構想と仰っていたので、これはその二作目に当たる作品です。

上映前にナデリ監督の舞台挨拶があり、この作品を西島秀俊さんに捧げます!!!…と壇上から熱い熱い熱いメッセージを客席の西島さんへ送る一コマがあり、会場は拍手に包まれました
私の席から振り返ると、西島さんは、キリっと立って(口は真一文字だったと思う…)お辞儀をされているのが見えました


『山〈モンテ〉』

もう、もう凄まじいエネルギーの放出でした!!


旧約聖書の申命記に出てきそう…!!と圧倒されっぱなしで観ました。

ロケ地はイタリアということですし、時代設定も中世末期とのことなのですが、申命記に出てくるシナイ半島の荒れ野やシナイ山頂から見る山々は、もしかしてこういう世界観なのかしら…、とイメージがどんどん膨らみながら…

山の音が不気味に轟き、太陽から見放されたような不毛な土地。ちっぽけな立場の人間に一体何ができるというのか、来る日も来る日も問い掛けられる。
その土地を見限った者も多いが、決して諦めないアゴスティーノ。

決して諦めない、という強靭な精神力が、凄まじいんです。
ナデリ監督はこれを、『不可能を可能にする』という言葉で表現されていましたが、まさにそういう映画でした。

受難に立ち向かっていくアゴスティーノ。


ラストの方で、父親と息子が山に立ち向かっている様のカットが交互に差し込まれて、テンポアップしていくところは、もう臨界点…!!

並べたら向き合うようになる構図が、あたかも二人が互いを痛めつけているようで、でもそれは違い、実際は各々が山に立ち向かっているわけで、これが、己との闘いであることを強烈に印象づけるシーンでした。

こういうシークエンスは、交響曲を聴いている感覚に似ていて、高揚してくるのですが、Q&Aで、ナデリ監督はワーグナーの楽劇をよく聴くと仰っていたので、クラシックのピアノ弾きとしては、ものすごーく嬉しくなって、もっとその部分を詳しくお聞きしたくなってしまいました


また、まるで絵画のように美し過ぎるシーンもあって、妻の髪を優しく優しく梳かすシーンなんて、もう、もう…

映画のどこを切り取っても画になるような、
どのシーンもなんだか聖書に出てきそうで、確かにこれは日本では撮れないのだろうな…と思いました。


上映後のQ&Aも、会場は熱気で興奮冷めやらずといった具合。放心状態といった感じでした。


ナデリ監督から放出されるエネルギーの強さ…!!!!
作品とナデリ監督の一体感…!!!!


まさに『不可能を可能にする』映画でした


フィルメックスHPより
Q&A
http://filmex.net/2016/news/monte_qa






主演のアンドレア・サルトレッティさんの話

前日(11/23)、ナデリ監督に恐れ多くも、友人達とわらわら話しかけた時にそばにいらして、監督が、彼はモンテの主役俳優さんだよ、とご紹介してくれたんですね、すると彼は、明日みんな来てくれるよね?と気さくに英語で話しかけてくれました
イケメンさんのお顔が超至近距離に…

そらもう、震えました

その印象があったのですが、翌日は上映前に、ロビーで一人ポツンと俯き気味にいらして、シャイな雰囲気で、凄い俳優さんだろうに、なんか完全にアウェイに居る感にまたくすぐられてしまいました…

前日も思ったのですが、映画の中でも、主演のアンドレア・サルトレッティさんは、ちょっと西島さんに似てらっしゃいました

ナデリ監督の好みなのかしらん。
なんか外見だけでなく内面から醸し出す雰囲気とか…。


観てちょうど1週間。『山〈モンテ〉』の魂に胸が熱い状態が続いております。