【和歌山毒物カレー事件】最高裁 判決文 【主文】本件上告を棄却する。 平成21年4月21日  

2009-04-21 | 死刑/重刑/生命犯

和歌山毒カレー事件 上告審 全判決文 
産経ニュース2009.4.21 17:10 
 【主文】
 本件上告を棄却する。
 【理由】
 弁護人安田好弘ほかの上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお、所論にかんがみ記録を精査しても、本件につき、刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
 すなわち、原判決の是認する第1審判示第1の殺人、殺人未遂の事実は、自治会の夏祭りに際して、参加者に提供されるカレーの入った鍋に猛毒の亜砒酸を大量に混入し、同カレーを食した住民ら67名を急性砒素中毒にり患させ、うち4名を殺害したが、その余の63名については死亡させるに至らなかったという事案(以下「カレー毒物混入事件」という)であるところ、被告人がその犯人であることは、(1)上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、被告人の自宅などから発見されていること、(2)被告人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から被告人が亜砒酸などを取り扱っていたと推認できること、(3)上記夏祭り当日、被告人のみが上記カレーの入った鍋に亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、被告人が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されていることなどを総合することによって、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されていると認められる(なお、カレー毒物混入事件の犯行動機が解明されていないことは、被告人が同事件の犯人であるとの認定を左右するものではない)。
 また、その余の事実についても、被告人の犯行(一部は夫、健治との共謀による犯行)と認めた第1審判決を是認した原判決は、正当として是認することができる。
 本件は、上記カレー毒物混入事件のほか、いわゆる保険金詐欺にかかる殺人未遂事件および詐欺からなる事案であるところ、とりわけ、食物に毒物を混入して無差別の大量殺傷を敢行したカレー毒物混入事件の罪質は極めて悪く、態様の卑劣さ、残忍さも論をまたない。
 殺害された被害者は、夏祭りを主催した自治会の会長(当時64歳の男性)および副会長(同53歳の男性)と、女子高生(同16歳)および小学生の男児(同10歳)であるが、いずれも何ら落ち度がないのに、楽しいはずの夏祭りの最中、突如として前途を断たれたものであって、その無念さは察するに余りある。遺族らの処罰感情が極めて厳しいのは当然のことである。
 また、最悪の事態は免れたものの、生死の境をさまよった重症者も多数に及び、その中には長期間後遺症に苦しんでいる者も存するのであって、その結果は誠に重大であるところ、同事件が、地域社会はもとより、社会一般に与えた衝撃も甚大であるといわなければならない。
 そして、被告人は、カレー毒物毒物混入事件に先立ち、長年にわたり保険金詐欺にかかる殺人未遂などの各犯行にも及んでいたのであって、その犯罪性向は根深いものと断ぜざるを得ない。しかるに、被告人は詐欺事件の一部を認めるものの、カレー毒物混入事件を含むその余の大半の事件については関与を全面的に否認して反省の態度を全く示しておらず、カレー毒物混入事件の遺族や被害者らに対して、慰謝の措置を一切講じていない。
 以上のような犯情などに照らせば、被告人の刑事責任は極めて重大であるというほかないから、カレー毒物混入事件における殺意が未必的なものにとどまること、前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、当裁判所も是認せざるを得ない。
 よって、刑訴法414条、396条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 平成21年4月21日
 最高裁判所第3小法廷
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〈来栖のつぶやき〉
 苛酷を極める取調室であったに違いないが自白は無く、証拠も無いなかで、最高裁は「死刑」に突っ走った。恐怖をすら感じさせる杜撰さ。
 判決【理由】の冒頭に、“弁護人安田好弘ほかの”と、ある。「安田」と弁護士名を付すところ、含みを感じてしまう。光市事件裁判に見られた、圧倒的多数の国民の持つ「安田」弁護士への負のイメージ、これを利用することを忘れていない。こんなことでは最早、安田さんは重大事件の刑事弁護はできなくなる。
 杜撰と悪意に満ちた判検一体の判決文。裁判所は、いつから偏向したか。裁判員裁判は1審で行われるが、お手本を示すべき最上級の裁判所がこのようなことで、裁判員への指導が可能だろうか。


1 コメント

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十年後、五十年後、百年後 (マサコ)
2009-04-21 22:42:22
この事件が、日本の裁判制度の歴史の中で、あるいは法曹界やジャーナリズムの教育素材としてどのように位置づけられることになるのでしょうか。

「林さんに公正な裁判を」の集会に一度参加しましたが、我々がいかに偏った情報の再生産の中で生きているかを思い知らされます。
ご指摘の「あの安田弁護士」というフィルターだけで、「ああ、それで十年も引っ張ってんのか」と解釈する人も少なくないでしょう。哀しいことです。
安田氏の著書で「100%無罪だという証拠集めをしても負ける。300%分くらい集めないと勝てない」という主旨の記述があったのが印象に残っています。

加えて「反省してない」からけしからんというまか不思議な理由をどう解釈すれば良いのでしょう。いつものことながら、理解に苦しみます。
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