認知症男性の列車事故 720万円損害賠償命令で波紋 社会で保障する仕組みを 

2013-11-07 | Life 死と隣合わせ

【ゆうゆうLife】認知症男性の列車事故 720万円損害賠償命令で波紋
 産経ニュース2013.11.7 09:00
 高齢の認知症の男性が平成19年12月、線路内に立ち入って列車事故で死亡し、男性の親族が鉄道会社へ代替輸送などにかかった費用約720万円を払うよう命じられた判決が今年8月、名古屋地裁であり、関係者に波紋を呼んでいる。地域での見守りで「家での暮らし」を支えようとする住民や自治体職員からも「ショックだ」との声が上がっている。(佐藤好美)
 判決などによると、JR東海の線路内で列車にはねられ、死亡したのは愛知県内に住んでいた当時91歳の男性。同居の妻(当時85)は要介護度1で、横浜市に住む長男の嫁が2級ヘルパーの資格を取って近隣へ転居。通いで老々介護を支えていた。
 男性は要介護度4で認知症日常生活自立度IV。親族の代理人弁護士によると、尿意はあってもトイレの場所は分からず、着替えの際は家族が衣類を順番に手渡す状態。しかし、生活は穏やかで、男性がゴミ出しや街路樹への水まき、草取りをする際には、家族がガラス戸越しに様子を見守り、男性が故郷へ「帰る」と言い出せば、長男の嫁がいつものカバンを持たせ、男性の気の済むまで後をついて歩いていたという。
 事故は男性が通所介護から帰宅後に起きた。妻と嫁の3人でお茶を飲んだ後、男性が居眠りしたのを見て、嫁は片付けに立ち、妻もまどろんだ隙に男性はいなくなった。その後、線路内に立ち入り、列車にはねられ死亡した、との知らせが来た。
 事故後、JR東海は男性の妻と4人の子供たちに振り替え輸送などにかかった費用約720万円を請求した。同社は「今回は痛ましい事故で気の毒な事情は承知している。ただ、輸送障害が発生すれば、特急券の払い戻しをしたり、振り替え輸送の費用を他の輸送機関に払う金額が発生したりする。列車の遅延が第三者に起因するときは必ず損害賠償請求はする。しかし、相続放棄をされていて訴訟に至らないケースもある」とする。
 訴訟では、本人の責任能力と親族の監督責任が問われ、名古屋地裁は本人の責任能力を「認められない」としたうえで、長男を「事実上の監督者」と認め、妻については「目を離さずに見守ることを怠った過失がある」とし、2人に請求額を払うよう命じた。
 ■24時間の見守りは不可能 新たなシステムづくり必要 
 判決は、在宅介護を支える人々に衝撃を与えた。全国在宅療養支援診療所連絡会会長の新田國夫医師は「認知症の人の判断能力はその時々で変わるので、譫妄(せんもう)に基づいた徘徊(はいかい)なのか、判断能力があるのにたまたま線路に出たのかは医学的にも判断できず、法律で問うこと自体に限界がある。24時間の見守りは、自宅介護の場合だけでなく、グループホームや施設でもできない。それを求めれば、拘束したり閉じ込めたりになりかねず、人権侵害につながる」と指摘する。
 「釧路地区障害老人を支える会(たんぽぽの会)」の岩渕雅子会長も「介護に携わっていなかった親族は責任を問われず、介護した家族が責任を問われるのでは誰も介護をしなくなる。認知症の人が外に出ないように、家族が外から五寸くぎを打ち付けて介護していた時代に戻ったら困る」と言う。
 北海道釧路市では20年前から、行方不明の認知症の人を地域ぐるみで捜索・保護するネットワークをつくってきた。今は行方不明者が出ると、警察が保健所や福祉事業所、連合町内会やラジオ局、ハイヤー協会、トラック協会など約360団体に呼び掛け、地域ぐるみで捜す。
 しかし、事故をゼロにするのは困難だ。岩渕会長は「鉄道事故が起きれば鉄道会社も経済的な負担を負う。それを会社が負うのもおかしい。認知症の人が交通事故に遭い、ひいた人が罪を問われるのも困る。新たなシステムづくりが必要だと思う」。
 別のある自治体では実際に見守りをしていた認知症の女性を事故で亡くした。女性は日に複数回の神社の掃除が日課。家族や自治体は女性が盛夏に脱水で倒れることを心配してチラシを作成。家から神社への道沿いの公的機関や地域の人に働き掛けて女性を見守り、行方不明になったら連絡網で捜す仕組みをつくった。しかし、うまくいっているかに見えた2年後、女性は事故で死亡した。
 職員の中からは「在宅にこだわり過ぎた結果ではないのか」との声も出た。しかし、取り組みをするまでには、本人の意思をおもんぱかり、家族にどう暮らしたいかを確かめ、自治体の地域包括支援センターや福祉職が連携し、周囲でできることを検討し、地域で共通認識をつくって取り組んだ経緯がある。
 事故後も家族の気持ちを聞き、地域の人の意見を聞き、関係者間で話し合った。「本人の意思には添えた。それをもって良しとするしかない」(同自治体職員)と結論付けた。
 取り組みをやめれば楽だし、家族の介護負担を一緒に担わなくても自治体は責任を問われない。だが、今も取り組みを進める。認知症になっても、それ以前と変わらぬ暮らしができる町にするのが願いだ。
 「本当にあれで良かったのか、今も整理がつかない。しかし、プロセスを丁寧に積み上げ、関係者の合意で意思決定をした。これで良いというやり方はない。今後も一件一件、個別に考えて対応していくしかない」(同)と話している。
 ■社会で保障する仕組みを
 認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子部長の話「認知症の人を地域で支えるには、理解と合意を積み上げて行動を起こすのが回り道に見えて最短の道だ。鉄道会社にも見守りのネットワークに参加してもらうことで網の目は細かくなっていく。それでも事故は起こる。個人や鉄道会社にのみ責任を負わせるのではなく、鉄道事故や自動車事故などで生じる損害は社会で保障する仕組みが必要。判決を機に、社会的な見守りや支え合いの合意をつくり、損害をどう分かち合うかを議論し、人と費用と制度の重層的な支えをつくっていく必要がある」
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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子どもの事故 「偶然」で親の責任免除認める判断 最高裁 2015/4/9
 子どもの事故「偶然」で親の責任免除認める判断
 NHK NEWS WEB 2015年4月9日 17時09分
 親の目の届かないところで幼い子どもがした行為で、他人がけがなどを負ったとき、親がどこまで賠償責任を負うべきかについて、最高裁判所は「子どもの行為が通常なら危険がないもので、偶然起きてしまった事故の場合には、原則、親の責任は免除される」という初めての判断を示しました。
 子どものしつけなど、親の対応にも限界があることを考慮した判断で、ほとんどの場合で親に責任を負わせてきた司法判断の流れを変えるものとなりました。
 11年前、愛媛県今治市の小学校の校庭で、6年生の男子児童が蹴ったサッカーボールが外の道路に飛び出し、バイクで走ってきた85歳の男性が避けようとして転倒する事故が起きました。
 男性はその後亡くなり、遺族が児童の両親に損害賠償を求めた裁判で、1審と2審は幼い子どもの過失は親が代わりに賠償責任を負うとする民法の規定を基に、両親に1000万円を超える賠償を命じていました。
 この裁判の判決で、最高裁判所第1小法廷の山浦善樹裁判長は「親は、目の届かないところで子どもが他人に危険が及ぶような行動をしないよう、日頃からしつけをする義務がある。しかし、校庭でサッカーゴールに向かってボールを蹴るといった、通常は危険がない行為によって、偶然事故が起きてしまった場合は、原則、親の賠償責任は免除される」という初めての判断を示し、遺族側の訴えを退けました。
 9日の判決は、子どものしつけなど、親の対応にも限界があることを考慮したもので、事故の状況にかかわらず、ほとんどの場合で、子どもの過失の賠償責任は親が負うとしてきた司法判断の流れを変えるものとなりました。
 最高裁判所の判決を受けて、サッカーボールを蹴った児童の父親は弁護士を通じてコメントを出しました。この中で父親は「被害者の方にけがを負わせ、結果的に死亡したという事実を厳粛に受け止め、親としての道義的責任を痛切に感じています。息子もずっと罪の意識を持ちながら歩んできました。一方で、1審と2審の裁判で『親のしつけ、教育がなっていない』と断じられたことは大変ショックでした。最高裁の判決が出て、まだ気持ちの整理もできておりませんが、主張が認められたことでひとまず安どしています。ただ、被害者のことを考えると、苦悩が終わることはありません」と述べています。
■親が賠償を負う根拠は
 民法は、他人に損害を与えた未成年者が、自分のしたことの重大さを十分理解できるまで成長していなければ、本人に賠償責任を負わせられないとしています。一般的に小学生以下の子どもがこの対象となります。しかし、そのままでは被害者が救済されなくなるため、民法は別の規定で、損害を生じさせた人を監督する義務のある人が代わりに賠償責任を負うと定めています。このため、子どもの監督義務者である親が責任を負うことになるのです。
 この規定は、状況によっては責任が免除されることも認めていて、『監督義務を果たしていたとき』と『義務を果たしていても避けられなかったとき』を挙げています。ところが、具体的にどのような状況であればこの場合に当てはまるのか、判断基準がなく、これまでの裁判では、ほぼ一律に親に賠償責任を負わせる結果となっていました。
■過去の裁判は「親に責任」
 学校生活や友だちとの遊び中、幼い子どもたちが親の目の届かない場所で思いがけない事故やトラブルなどを起こし、他人にけがを負わせることがあります。そうした場合、親が損害を受けた相手から裁判で訴えられると、どういう事情があったとしても賠償責任を免れないと考えられてきました。
実際にあった裁判の例です。
▽友だちと自転車で遊びに出かけていたときに、よそ見をして歩行者に衝突。相手の足にけがを負わせ、親は250万円の賠償責任。
▽運動公園で児童2人がキャッチボール中、ボールがそれて、近くにいた別の子どもの胸に当たった。子どもは亡くなり、2人の両親に6000万円を超える賠償命令。
学校の教師など大人が近くにいるケースでも、親の責任が認定されてきました。
▽授業中の教室で子どもたちが騒いでいて、そのうちの1人が友だちに足を掛けて転ばせ、3週間のけが。学校の責任は問われなかった一方で、親には70万円の賠償責任。
▽少年団のキャンプに参加し、引率した大人の指示で竹とんぼを飛ばしたところ、近くにいた別の子どもの目に当たり、視力が低下。親はキャンプに同行していませんでしたが、引率者と連帯して700万円の賠償責任があるとされました。
いずれのケースでも、家庭でふだんのしつけが足りないなどとして、親は損害を賠償しなければならないと判断されています。こうした子どもの過失などで親がどこまで責任を負うべきか、これまで最高裁が具体的な考え方を示したことはありませんでした。
■子ども以外の裁判に影響の声も
 今回の裁判で焦点となった、「事故の原因を作った人を監督する義務のある人に賠償責任を負わせる」という民法の規定が適用されるのは、親と幼い子どもの関係だけではありません。認知症や精神的な障害で自分のしたことの重大さを理解できない人が起こした事故でも、その人を介護をしている家族が代わりに賠償を求められることがあります。
 愛知県で認知症で徘徊していたとみられる91歳の男性がJRの電車にはねられた事故を巡り、JRが運行の遅れで損害が出たと訴えた裁判では、この規定を基に、男性の介護をしていた高齢の妻が360万円を支払うよう命じられました。
 今回の判決は子どもの事故のケースでしたが、専門家からは、民法の同じ規定を基に判断された認知症の裁判などにも影響を与えるのではないかという声も出ています。
 ◎上記事の著作権は[NHK NEWS WEB]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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認知症の男性が電車にはねられたのは家族が見守りを怠ったから…JR東海が遺族に賠償を求めた訴訟
認知症事故と損害賠償/(上) 介護現場に衝撃の判決 
認知症事故と損害賠償/ (下) 在宅ケアの流れに逆行、鉄道会社の責務、厳密な見守り義務ない
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