75歳 やめられぬ万引き 「罪人の肖像」第3部 住所不定、無職 2021/6/15

2021-06-15 | 社会

 75歳 やめられぬ万引き
 罪人の肖像  第3部 住所不定、無職 
(1)再犯(上) 
 中日新聞 2021年6月15日 火曜日
 半年前の一月中旬。この時期にしては穏やかな陽気に誘われるように山野勝二(75)=仮名=は、名古屋市内のドラッグストアに歩いて向かった。 
 脳出血の後遺症で言うことを聞かなくなった足を引きずり、食品売り場を回って自動ドアを出た直後、男性店長(30)に肩をたたかれた。「お買い物忘れ、ありますね。警察を呼びます」。ズボンのポケットや上着の奥に未会計の粉末ココアとロールケーキを忍ばせていた。 
 実は数日前から目を付けられていた。店員と視線を合わせようとせず、商品棚の周りを行ったり来たり。「あの人、怪しいよね」。パート従業員の間で話題になっていた。店長は「普通のおじいさん。本当にこの人かな」と半信半疑で尾行し、商品を隠す瞬間を目撃した。 
 素直に万引を認めた山野。「もう、やばいんだ。施設を追い出される」。店の事務所の長いすで、弱々しくつぶやく。駆けつけた警察官に「やったよな」と問いつめられると、「偉そうにするな」と一瞬、態度を変えたが、おとなしくパトカーに乗った。
 逮捕という目の前の事実よりも、「追い出される」と心配したのは、ドラッグストアの近所にある有料老人ホームのことだった。2017年秋に刑務所を出て、支援団体の助けで生活保護を申請して入居したが、すぐに万引きで逮捕。2年8か月間、服役した後、身寄りのない山野の更生を信じて再び受け入れてくれた。だが、わずか2か月でまた事件を起こした。
 「二度も裏切った。どうしようもない」。逮捕の数日前、目的もなく外出する様子を不審に思った施設の職員から、「大丈夫だよね?」と声を掛けられた。「疑っているのか。出て行ったるわ」。その時はたんかを切った。でも、他に頼る当てはない。後日、「物を取ってしまいそうな自分がいて、不安でしょうがない」と打ち明けていた。施設の男性職員(41)は警察から逮捕を知らせれ、「注意して見ていたのに、うまくいかなかった」と悔やんだ。
 3月、名古屋地裁の証言台。「病気です。普通だったらやらないです。それをこの歳になって。自分はもう駄目かな」。出所後、施設に入り、所持金があったにもかかわらず、万引きした理由を投げやりに語った。
 40年近く、人生の半分を少年院や刑務所で過ごしてきた。元号が「平成」に変わった時は名古屋刑務所、「令和」が始まった日は神戸刑務所にいた。今回の判決は常習累犯窃盗罪で懲役3年6月。計514円のココアとケーキを盗んだ代償は高くついた。
 「同じようなことを繰り返していても、どんどん刑期が長くなってしまいますから、社会復帰後は二度とこのようなことをしないでください」
 裁判官は諭すように言った。伏し目がちの山野は、声を発せず、わずかにうなずくだけ。正直、更生を促す言葉は記憶に残らなかった。
 これで15回目の服役。「体が悪くて歩くのも大変。今度は3年半。もう、持たない」。受刑中だった5年前には脳出血で緊急入院した。被告人質問の答えは「病気」で済ませたが、獄中死の可能性が頭をよぎった。走馬灯のように、これまでの人生の出来事が、浮かんでは消えた。
       ◇
 第3部「住所不定、無職」は、社会に居場所を見いだせないでいる罪人たちを取り上げる。一度、歯車が狂った人生を挽回する難しさ。孤独感。そして、世間の厳しい目。もがく当事者と、支援する人たちの実像に迫る。 (連載は全六回です)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白 2021.6.15 Tues〉
 もはや私には、言葉もない。


「寂しさ紛れ」の末路 「罪人の肖像」 第3部 住所不定、無職 2021/6/16


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