派遣労働拡大の原点 「95年日経連報告書」

2008-08-05 | 社会

 HP午後のアダージォ http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/に  column6 派遣労働拡大の原点 「95年日経連報告書」 をupした。

派遣労働拡大の原点 「95年日経連報告書」

 格差問題の象徴といわれる派遣社員などの非正規雇用。すでに全雇用者の35,5%にまで拡大、不安定な待遇への不満から凶行事件も生まれ、政府はようやく派遣労働の規制強化に動き出した。
 この“非正規増大”の歴史を振り返ると、長期安定雇用を看板としていた日本企業を大転換させた一冊の報告書に行き着く。 リストラマニュアルともいうべき“原点”を検証した。(久原穏)
 
 「新時代の『日本的経営』--挑戦すべき方向とその具体策」。日本経営者団体連盟(日経連、現日本経団連)が1995年5月に発表した報告書がそれだ。
 当時はバブル経済崩壊から3,4年後。日本経済は長期不況に陥り、低賃金の新興国との国際競争が日増しに厳しくなったころだ。
 この報告書の「はしがき」に永野健会長(当時、故人)はこう記した。「低成長への移行、労働力不足から労働力過剰へ、円高による産業・雇用の空洞化、国際化の進展・・・(中略)・・・日本的経営のあり方が本格的に議論され、また実践上の指針が求められる動きにある時、本報告が何らかの参考になることを期待している」
 あたかも日本的経営は人件費が高いから国際競争力が弱く、だから地盤沈下したと透けて見える。バブル時代の放漫経営など経営者の責任から目をそらし、人件費上昇のせいとした。当時、日経連経済調査部次長だった紀陸孝・東京経営者協会専務理事「口で言っていただけのグローバル化がまさに現実化し、低成長が一気に押し寄せた。提言の目的は長引く景気低迷の改善にあったが、高賃金の日本企業の経営体質をどうやって変えるかが問われた」と振り返る。
 人件費が高すぎるとすればどうするか。日経連が出した答えは、終身雇用が前提の正社員を絞り込み、代わりに有期雇用の非正規社員を増やすことだった。そこで報告書では、労働者を3グループに階層化。従来の正社員と同じ長期継続雇用を前提とした「長期蓄積能力活用型」に加え、いつでも雇用を打ち切れる有期雇用として ▽専門性の高い「高度専門能力活用型」 ▽派遣やパートを念頭に置いた「雇用柔軟型」を明記。「日経連として初めて派遣社員活用に言及」(紀陸氏)し、人件費削減のために歴史的な転換を打ち出した。

 「それまでも正社員、非正規社員の問題はあった。決して人件費コスト削減だけを目的に雇用多様化の議論をしたわけではない。仕事の区分を再整理しただけ」と紀陸氏は強調する。
 しかし、慶応大の八代充史教授(労務管理論)は「こようの流動化は少しずつ進んではいたが、報告書は日本企業の良き慣行だった『家族主義』の建て前を崩した。巧妙に日本的経営の修整にかじを切った」と報告書の意味を読む。
 さらに日経連は、この報告書に対する企業の行動を“監視”するフォローアップ調査を翌96年と98年に実施。3つの階層の現状と将来(3年後)予測について各企業から聞き取りした。98年の第2回調査では長期雇用(正社員)の比率は現状の84,0%から72,7%に低下する一方、雇用柔軟型(派遣)は10,1%から15,9%に拡大させる結果となった。
 第2回調査の翌年、こうした企業側の強い雇用コスト削減要請に応じる形で労働者派遣法が改正され、派遣社員を活用できる業種は一気に増えた。それは日経連報告からの流れだった。

労働側に抵抗なく
 当時、日経連労務管理特別委員会副委員長として報告書づくりにかかわった茂木賢三郎・キッコーマン副会長の話
 2年ぐらい議論してまとめた。バブルがはじけ、賃金体系が右肩上がりのままでいくのは無理という危機感が経営者だけでなく労働側にもあって、抵抗感はもっていなかったのではないか。そういうふうに動かざるを得なかった経済環境だった。
〈報告書の持つ衝撃度が世間はわからなかったのでは?〉
 それはわからない。それまでの年功序列、終身雇用でいいんだという人はいなかったと思う。


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