刺身は「サシミヤー」に買いに行く。
いつも娘とオバァが店にいる。
30年前からオバァと呼んでいたくらいだから、
歳はいくつになるんだろう。
もともとは北市場で刺身屋をやっていた。
市場が取り壊しになって現在の場所で刺身屋をしている。
昔から美人と評判のオバァで、今でもその面影がある。
お客さんに刺身屋を紹介すると
「昔は綺麗な人だったんでしょうね。」と
よく言われる。そう、ホントに美しい人だった。
刺身をかいにいくとお店にいるが、コロナの影響で
フェイスガードとマスクをして座っている。
不特定多数の人が刺身を買いにやってくるのだから、
「オバァを店に出さないほうがいいのではないか」
とお節介なことを娘に言ったが、
「好きにさせているさぁ」という。
連日新規感染者の数字が新聞の一面に出る。
心配になってくる。
そんなオバァが最近、なんだか元気がない。
高齢ということもあるが、急に元気がなくなった
ような気がする。
いつもなら一言二言言葉を交わすが、最近は
遠くを見ているようで、目も合わさなくなった。
昔からまわりにはオバァと呼ぶ人が何人もいた。
いつまでもいるのが普通だと思っていた。
いつのまにかオバァと呼ぶ人がほとんどいなくなった。
オバァたちの私を呼ぶ声が聞こえるような
気がするときがある。
でも当然、そこには誰もいない。