それも金春流というマニアックな流派で、
師匠の櫻間金太郎先生(故人)は当代随一のシテ方能楽師だった。
能楽の演目のほとんどは、世阿弥の手によっている。
世阿弥は、日本のみならず中国の古典にも通暁していて、
それらを題材にして「能」というまったく新しい芸術を完成させた。
世阿弥は演者としても超 A 級だったはずで、
能はその創始の時代に最大の巨人を得たことになる。
さて、世阿弥作の謡曲に、「杜若」(カキツバタ)がある。
僕は、お仕舞いの稽古はつけてもらえなかったけど、
連吟(お謡)では役付(ワキ)に抜擢された。
「杜若」は、「伊勢物語」の第九段「東下り」の在原業平(らしき男)の歌を題材にしている。
唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ
この歌は、在原業平が、三河国の八橋に差しかかったとき、
一面に咲き誇っていたカキツバタにインスパイアされて詠んだとされている。
この歌の凄味は、それぞれの句の頭をピックアップすると、
「か」「き」「つ」「ば」「た」
になることだ。
つまり…
「か」らごろも 「き」つつなれにし 「つ」ましあれば 「は」るばるきぬる 「た」びをしぞおもふ
と、いうことだ。
歌意は、自信はないけど、
「唐衣の着慣れたのと同じように、慣れ親しんだ妻を都に残して、はるばる遠くまで来たこの旅を、しみじみと思う」
というところだろうか?
「杜若」は、女性が主役の鬘物(かずらもの)といわれるスローな曲調で、シテ(主役)の動きも少なく、
初心者には退屈なものだけど、僕はなぜか好きだった。
不遜なことだけど、美人の先輩が「杜若」(お仕舞い)を舞う姿には胸がときめいたものだ。
先日、山口県を車で走らせていると、
「カキツバタ群生地」という看板が目に入り、思わず立ち寄った。
わざわざ看板を立てるくらいだから、野生のカキツバタは貴重なんだろう
その可憐な花を見てたら大学時代が偲ばれて、
ガラにもなく、すこしセンチメンタルな気持ちになった。
僕のセンチメンタリズムなど業平のそれとは別趣なものであることはいうまでもないが、
業平のこの歌がふと頭をよぎった。
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