お里が知れる。
その社長は口がうまかった。カリスマ的とは言えないが、人をその気にさせたり説得するのが得意だ。特にプロジェクトを立ち上げて、一口乗りませんかと金を出させるのが上手だった。インチキ商売とは言い切れない(社長本人は案外いけると思っている)が、結局大して儲からないか、元を取るまでに10年も20年もかかる。そうなると出資者が2度目は乗らないから、常に新しいカモ、生贄を探さなければならない。
ところで他の社長達が彼の話にのるのは、説得されたからではない。彼の肩書きを信用したのだ。彼は一級建築士だったが、それは別にどうという事はない。もう一つの肩書きは大学の教授(実は講師)だった。しかもかなり有名な大学だ。日本の社会はアカデミーな権威に弱い。大学の先生というだけで頭から信用してしまう。全く信じられないくらいチョロイ。海千山千のダンナがコロっとなる。
この社長の本業は建築とは全く関係が無い。過去その建築一点に於いて、猛烈に勉強して学問上の実績があったのだろう。大学で教えているのは事実で、よく学生のレポートや論文、テストの採点等を会社の秘書にやらせていた。大学の授業は週に数回で給与は雀の涙だろうが、充分なお釣りを商売で得ていた。
ところが社長、ビジネスの世界で飛び切りの切り札(トランプのジョーカーのような)となるこの肩書きを、夜の世界(バーやキャバクラ)でもやたらと振りかざす。女の子は「まあ、すごい。」とか口では言うが、本心ではバカにしている。夜の女性には何の効力も持たないのが、周りからすれば見え見えなのに、何故か本人にはそれが伝わらない。社長の肩書きだけなら大得点なのに、先生を加えるからマイナスになる。夜の世界で、三大スケベ&ケチとして「僧侶、先生、警察官」は嫌われているのを知らないのかな。
社長はよく一流会社の部長などを昼飯に接待する時、チェーンのうどん屋とかに連れて行っていた。大学の先生の肩書きがあるから相手も怒らない。結構珍しがる客もいる。気取らない人なんだ、と思われたら成功だ。昼飯代も安上がり。でもそのあざといやり方を一目で見抜く人たちも、割りといたのに違いない。
とはいえ社長、流石に口がうまい。そのプレゼンに同席したことがあるが、大したものだ。その時のプレゼンの相手は、日本語の達者な台湾の当務長だった。社長の話は狭い応接室で熱を帯び、黒板に図を書いての演説は30分を超えたがテンションは落ちない。ところが何かの拍子に社長が、このシーンでは何々と言って黒板に書いた。CienA.はっ?SceneA.のこと?いくらなんでも大学の先生がSceneをCienって書くか。その 一瞬、ほんの一瞬、自分と客は目を合わせてしまった。いかん、俺は社長をアシストする立場だ。
あーあ、プレゼンはそこまでだった。8割方説得されていた客は、ストンと素に戻ってしまった。それに気がつかない社長が更に熱を帯びてCienB, CienCと書くうちに、客はどう切り上げて帰ろうかと思案していた。この先生、社長は建築の事以外はまるでアホーだった。だが何が利口で何が馬鹿というのだろう。大学の権威をビジネスに利用したのは、実に頭がよい。英語を知らなくても、一般常識がなくても、本当に阿呆なのは騙された社長たちだった。
彼の会社は勢いに乗っていい所までは行くが、そこで社員に去られ良い所を持って行かれる。また奮起して業績をあげるが、ポシャる。どこまで行っても、いつまでたっても一流にはなれない。疲れるだろうなー、しんどいよなー、着想はすごくいいのに。まるで賽の河原の石積みだ。
あのさ、これならエッセーでなくて小説になるよね。小悪魔と夢見る真面目女をからめてさ。でもサラリーマン小説なんて読みたくもないもん。
その社長は口がうまかった。カリスマ的とは言えないが、人をその気にさせたり説得するのが得意だ。特にプロジェクトを立ち上げて、一口乗りませんかと金を出させるのが上手だった。インチキ商売とは言い切れない(社長本人は案外いけると思っている)が、結局大して儲からないか、元を取るまでに10年も20年もかかる。そうなると出資者が2度目は乗らないから、常に新しいカモ、生贄を探さなければならない。
ところで他の社長達が彼の話にのるのは、説得されたからではない。彼の肩書きを信用したのだ。彼は一級建築士だったが、それは別にどうという事はない。もう一つの肩書きは大学の教授(実は講師)だった。しかもかなり有名な大学だ。日本の社会はアカデミーな権威に弱い。大学の先生というだけで頭から信用してしまう。全く信じられないくらいチョロイ。海千山千のダンナがコロっとなる。
この社長の本業は建築とは全く関係が無い。過去その建築一点に於いて、猛烈に勉強して学問上の実績があったのだろう。大学で教えているのは事実で、よく学生のレポートや論文、テストの採点等を会社の秘書にやらせていた。大学の授業は週に数回で給与は雀の涙だろうが、充分なお釣りを商売で得ていた。
ところが社長、ビジネスの世界で飛び切りの切り札(トランプのジョーカーのような)となるこの肩書きを、夜の世界(バーやキャバクラ)でもやたらと振りかざす。女の子は「まあ、すごい。」とか口では言うが、本心ではバカにしている。夜の女性には何の効力も持たないのが、周りからすれば見え見えなのに、何故か本人にはそれが伝わらない。社長の肩書きだけなら大得点なのに、先生を加えるからマイナスになる。夜の世界で、三大スケベ&ケチとして「僧侶、先生、警察官」は嫌われているのを知らないのかな。
社長はよく一流会社の部長などを昼飯に接待する時、チェーンのうどん屋とかに連れて行っていた。大学の先生の肩書きがあるから相手も怒らない。結構珍しがる客もいる。気取らない人なんだ、と思われたら成功だ。昼飯代も安上がり。でもそのあざといやり方を一目で見抜く人たちも、割りといたのに違いない。
とはいえ社長、流石に口がうまい。そのプレゼンに同席したことがあるが、大したものだ。その時のプレゼンの相手は、日本語の達者な台湾の当務長だった。社長の話は狭い応接室で熱を帯び、黒板に図を書いての演説は30分を超えたがテンションは落ちない。ところが何かの拍子に社長が、このシーンでは何々と言って黒板に書いた。CienA.はっ?SceneA.のこと?いくらなんでも大学の先生がSceneをCienって書くか。その 一瞬、ほんの一瞬、自分と客は目を合わせてしまった。いかん、俺は社長をアシストする立場だ。
あーあ、プレゼンはそこまでだった。8割方説得されていた客は、ストンと素に戻ってしまった。それに気がつかない社長が更に熱を帯びてCienB, CienCと書くうちに、客はどう切り上げて帰ろうかと思案していた。この先生、社長は建築の事以外はまるでアホーだった。だが何が利口で何が馬鹿というのだろう。大学の権威をビジネスに利用したのは、実に頭がよい。英語を知らなくても、一般常識がなくても、本当に阿呆なのは騙された社長たちだった。
彼の会社は勢いに乗っていい所までは行くが、そこで社員に去られ良い所を持って行かれる。また奮起して業績をあげるが、ポシャる。どこまで行っても、いつまでたっても一流にはなれない。疲れるだろうなー、しんどいよなー、着想はすごくいいのに。まるで賽の河原の石積みだ。
あのさ、これならエッセーでなくて小説になるよね。小悪魔と夢見る真面目女をからめてさ。でもサラリーマン小説なんて読みたくもないもん。