庭にコブラが!
ミャンマーで日本語教師をしていた時、3ヶ月経ってビザの更新でバンコクへ行った。6ヶ月や一年のWorking Visaも取れるんだが、逆に高くなる。ヤンゴン~バンコクの飛行機代は1万円前後だから、骨休めを兼ねてタイに行った方がよい。
自分は、約30年振りにバンコク在住の親友に会った。彼はタイ人の奥さんを貰い、主に報道カメラマンとして過ごしてきた。年賀のメールなどでは連絡を取っていたが、実際に会う機会はなかった。
久しぶりに訪ねたバンコクは、まるで知らない街のように変貌していた。20代の中頃、タイには半年住んでいたのだが、今のバンコクはヤンゴンより東京に近かった。物価も驚くほど高い。ああ、こんな街になったのか。日本にあるチェーン店の食堂がほとんどどれもあり、味も変わらないが、水まで有料(ペットボトル)だった。
高架の電車は便利だが、料金は高い。日本から直接来ればそうは思わないだろうが、ヤンゴン在住の自分には驚くほど高い。街角のお寺に参拝する人々などは昔と変わらないが、半世紀前のイメージで来た自分には、どこかよそよそしい。
タイでは、タバコが毒物のように扱われている。パッケージは、癌患者の肺の中とかこれでもかと気持ち悪い写真が使われている。コンビニのタバコは、レジの後ろの鍵付きの簡易シャッターの中に劇薬のように収められていた。
泊まったホテルも入り口が一つで、やたら管理の厳しい変なビジネスホテルだったが、ヤンゴンの生活に無い3つのものがあった。温水シャワーとエアコンとTVだ。町の散策を終えると、ホテルの部屋に籠った。極楽じゃー。
翌日、友人が奥さんと一緒に車で迎えに来てくれた。30年振りに友人に会った。おー、懐かしい。お互いに年を取ったな。奥さんの方が昔と変わらない。彼女は、日本語は聞く方は分かるが、ほとんどしゃべれなくなっていた。でもとても素敵な年の取り方をしていた。
友達の家に行った。30数年前に来て泊まっているのだが、全く記憶が戻らない。近所も変わったのかな。断片すら出てこない。しょうーもない事は、いくらでも覚えているんだが。彼の家で半日、昔話をして過ごした。お互い、全然違う時空。時間を過ごしてきたんだな。
芝の庭を見ていると、友人が言った。『この庭には4頭の飼い犬が埋まっているんだ。』『もう犬は飼わないの?』『うん。あそこの隅に埋めた犬の最期が忘れられなくて。』
或る日、庭にコブラが入ってきた。バンコクではそう珍しくはない。とくに雨期によく出てくる。犬は友人のまだ小さな子供を守ろうと、コブラに吠え掛かり立ち向かった。格闘の末、犬はコブラを食い殺したが、自身も噛まれた。友人夫妻は、急いで犬を病院に車で運んだが、毒の廻りが速く助からなかった。
悄然と帰宅した友人夫妻が、死んだコブラを捨てようとすると、隣人が気の毒そうに言った。『すみませんが、そのコブラを頂いてもよろしいですか?』
食べっちゃったそうだ。命がけで子供を守った犬の死後、友人は再び犬を飼う気になれなかった。