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グエルチーノ展

2015-03-28 23:24:22 | 一期一絵

3月20日と24日に鑑賞しました。

グエルチーノ(1591-1666年) は呼称で本名は ジョバンニ・フランチェスコ・バルビエーリだそうでイタリアのチェント市が誇る画家です。
17世紀イタリアバロック美術の第一人者で、スペインのベラスケスにも影響を与え、18世紀には大変な名声を得てイタリア美術の最大の画家の一人とまで言われました。ドイツのゲーテがイタリアに旅行した際、グエルチーノの作品を見るためにチェントに寄って紀行文にいろいろ感想を書かれたそうです。
そしてイタリアの美術アカデミーの基礎を築きました。

そんなイタリアバロックの粋のような画家でしたが、19世紀に入りこれまでのアカデミックな絵画から絵の内面や素朴な純粋さ、そしてオリジナリティが重視されるようになり評価が下がったそうです。
20世紀後半になってイギリスの美術史家であり収集家であるサー・デニス・マーンの研究や、年数が経って汚れた画面を洗浄して鮮やかな画面が再び現れたことにより再評価されました。

チェント市は2012年の5月20日と29日に大地震が起き、グエルチーノの作品を多く所蔵するチェント市絵画館は崩壊の危険性が高くなったそうで、絵画館はまだ再建のめどが立たないのだそうです。

絵画館内の作品は消防士が避難させてくれたそうです。
そして避難したグエルチーノの作品はチェントの地震を伝える使者となりました。
日本では、国立西洋美術館がグエルチーノの後期の作品を所蔵しているご縁があり、復興支援もかねて展覧会が開催されてます。
その際チェント市立絵画館だけでなく他の街が所蔵している作品も集まり日本では大規模な回顧展になったそうです。

これはみなくては☆
イタリアバロック絵画は私はあまり知ってませんでした。
今回その正真正銘の代表作を沢山見れるめったにない機会にして、見ることで復興支援にもなるのですから☆
だからこそ、3月に開催されるのに意味があるのでしょう。日本も大地震の痛みを知っている国ですから。


展示されている作品は全部で44作、そのうちグエルチーノ作品は39作品でした。
殆どがキリスト教に関する絵画で、一部神話や古代の人物の作品があります。殆ど独学で絵画技法を習得しましたが同時代の画家にも画力の高さを讃えられた技術を持ち、人物はがっしりとして骨太で、陰影がくっきり濃く塗られてます。薄暗い教会の中で見る人は人物が浮き上がって見えたのでは。
バロック絵画らしくドラマチックな演出がされてハリウッド映画を見てるような気分です。

絵の中には時々動物が描かれてつい顔がほころんでしまい、また赤ちゃんの絵は可愛らしく、少年は美しく素敵に描かれています。そんな要素が親しみやすく楽しんで見ることができました。


《聖母子と雀》1615-16年頃 
普通は聖母子のお顔に光をあてて描かれるのにあえて逆光にして二人の視線の先の雀の存在を際立たせてます。でもくっきりと浮かび上がったキリストの幼い横顔のシルエットが可愛らしい。ママの襟元を掴んでるお手てがまた赤ちゃんがよくやるしぐさでやっぱり可愛らしい。
雀はきっと宗教的に意味があるのだろうけど、グエルチーノは時々動物を可愛らしく絵に登場させて親しみやすい絵にしてます。
図像が見つかりませんでしたが《聖カルロ・ボッローメオの奇跡》(1613-14年)には竈に火をくべる女性をそばで見ているムクムクした虎猫の後姿が描かれてます。
当時猫はあまり縁起がよくない動物だったそうですが、この絵には飼い主と一緒にいて暖をとりながら様子を見ている何気ない様子で描かれていて見ると昔の人もほっこりしたかしら。


《キリストから鍵を受け取る聖ペテロ》1618年
赤と青と黄色が鮮やかではためく布、浮遊しながら布を支える天使の下でキリストが、金(天国)と銀(地上…カトリックの正当性を表現している)の鍵を聖ペテロに渡し、キリスト教の継承者(法皇)の座席へといざなうドラマチックな絵画。画面がかなり大きく壮大で、天使は本当に見上げて仰ぎ見ます。祈りの場でこの作品を見た人々は畏怖と感動をもつでしょう。
空の青はグエルチーノの中期の作品からよく使われていて、グエルチーノ作品を代表する色なんだそうです。

カトリック教会はプロテスタントへの対抗宗教改革活動を進めるため、盛んにわかりやすくドラマチックな宗教画を画家に依頼したそうです。そしてプロテスタントは重きを置かないキリスト以外の聖人もカトリックは積極的に絵画にして人々の信仰を集めます。その中には数年前まで生きてた枢機卿も清冽な人生を讃えて聖人になって絵画となり信仰の対象となったようです。


《聖フランチェスコの法悦》 1620年
聖フランチェスコは12~13世紀に生きた人。彼の不思議な体験を絵にしてます。やはり独特の空の青。天使の肉感的な表現。まるで目の前で奇跡が再現されているように見えます。


そしてグエルチーノの絶頂期の4作品はあの独特の青色の壁に展示されてました。その中から3点載せます


《聖母被昇天》1622年
もとは天井画です。見上げると本当に天に上るように見えたでしょう。天使たちに持ち上げられて昇天した日は、8月15日。天使の赤ちゃんみたいな姿が愛らしい。


《放蕩息子の帰還》1627-28年頃
この作品が一番大好きです。
財産を分与した長男と次男。堅実な長男と違い次男は放蕩を尽くし無一文となり豚飼いで飢えをしのぎ、これまでの放蕩を悔いて父のもとに帰り、父は暖かく迎え入れる。
悔い改める人への慈悲を著してるのだそうです。
次男はボロボロの布を腰に纏い、すっかり日焼けして髪の毛がくしゃくしゃです。父は嬉しそうに上等な服を長男に持ってこさせてますが長男はちょっと複雑な表情です。その長男と次男はよく似ていて、まだ十代位の年頃に見えます。そして次男の事を覚えていた飼い犬が嬉しそうにじゃれついているのが可愛い♪きっと次男に随分かわいがられていたのでしょうね~
盛大に宴会まで催す父に真面目に生活した長男が、どうしてかと聞いたら、死んだと思っていた息子が帰ってきたのだからこんなに嬉しいことはないと答えたそうです。
甘やかしてるのかもしれませんが、その父の気持ちはよくわかるな~(´ー`)
子供が自分を頼って帰ってきたのですから。まずは暖かく迎えてあげたい。なによりこの絵のように幼さが残る息子を見捨てたりできないですよね。
勿論また放蕩されちゃこまるから、ペナルティはその後対処するのかと思いますが。



《聖母のもとに現れる復活したキリスト》1628-30年
こちらは文豪ゲーテが18世紀にこの作品を見て感想を書いた文章(の邦訳)が壁に書かれてましたので、その文をそのまま書き写します。
「復活のキリストが、母のもとにあらわれたところを描いた絵は非常に私の気に入った。聖母はキリストの前に跪きながら、えも言えぬ心情を込めて彼を見上げ、彼女の左手はキリストの気味の悪い、画面全体を痛めるばかりの傷のすぐ下に触れている。キリストは自分の左手を母の頸のまわりにおき、母をよく眺めようとして、体をいくぶんそらせている。これはキリストの姿態にあえて不自然とまではいわないにしても何かしら異様な感じを与える。それにもかかわらず、この像は限りなく気持がよい。母を眺めている哀愁を帯びた眼差しは独自のものであって、あたかも自分や母のうけた苦悩の思いが復活によって直ちに消しさられることなく、高潔な彼の魂の前に漂っているごとくである。」(1786年「イタリア紀行」より)
また「あの絵を見ずしてグエルチーノがなんであるかを知ることはできない」とまで言われた代表作です。


後半の絵画は人物の動きが穏やかになり、陰影も柔らかくなり、次の時代の古典主義絵画へと変化します。


《スザンナと老人たち》1649-50年
庭で入浴してた美しい人妻スザンヌがのぞき見した老人に関係を迫られ毅然と断る説話より。
・・・という話を分かりやすく描いたのだとはわかるけど、スザンヌさん大っぴらに脱いじゃってそそらせちゃっているような・・・
当時の住宅事情もあって庭で入浴するのは仕方ないにしても、せめて外側に衝立とか幕をつけりゃあいいのに、と思ってしまったです。
これはたぶん注文主が女性のヌードの絵が欲しかったので説話の形にして描かせたのではと勘ぐりました。

そういえば、図像は見つからなかったけど、ギリシャ神話でアポロンが半人半馬のマルシュアスの手足を縛って生きたまま皮をはいでいる絵がありました。マルシュアスは絶叫が聞こえそうな苦悶の表情。この絵を注文したのはフィレンツェのコジモ2世だと書いてありました。コジモ2世といえばウフィツィ家の第四代当主で病弱な人だったそうで・・・けっこうあぶない趣味の人だったのかも。



《洗礼者聖ヨハネ》1644年
まだ少年の面影が残る横顔が美しい洗礼者聖ヨハネ。個人礼拝用に描かれたそうです。手にしてる帯に書かれているのは“ECCE AGNUS DEI”(見よ、神の子羊を)。

そのヨハネの絵の真向い対峙しているのは

《説教する洗礼者聖ヨハネ》1650年 
こちらはもう少し年齢が経っていて、新しい救い主の到来を高らかに予言しています。


《父なる神》1646年
注文されたサイズと描いた絵のサイズが違ったため一日でサイズに合わせて描き直した作品。
もう色や構図は決まっていたとはいえ、一日でここまで描き上げてしまう技術力がすごい!若い頃の陰影のくっきりした絵ではなく柔らかい色合いが美しい。


 
《狩人ディアナ》1658年 
《エンデュミオン》1657-58年
ギリシャ神話の月の女神ディアナが狩りをしているときに美青年エンデュミオンに一目惚れし、父ゼウスにエンデュミオンが老いてしまわないようにしてくれと頼んだら、歳をとらない代わりに永遠に眠りにつかせディアナは毎夜添い寝したという神話から。対になっている絵だそうです。
永遠に笑顔を見たり、話をしたり一緒に歩いたり抱きしめあったりできないなんて・・・ゼウスも意地悪ですねえ。ディアナも人間が老いる運命なのをどうして受け止められなかったのだろう。好きな人の人生を自分のエゴて奪うなんて….
そんな理不尽さを感じつつ、エンデュミオンは巻き毛の素敵な美青年なので見ていて楽しい。
ディアナには体の引き締まったグレーハウンドが嬉しそうに主人を見上げてます。その表情が生き生きしていて、「放蕩息子の帰還」にもかわいいワンコが描かれていたしグエルチーノは犬好きだったのだろうなあと思いました。

そして。国立西洋美術館が所蔵している作品


《ゴリアテの首を持つダヴィデ》1650年頃
ダビデは上のエンデュミオンと似てますね~。ゴリアテの額に石をぶつけて気絶させてから首を切り取ったので、ゴリアテのおでこはぶつけられて凹んでいます。
後期の評価の高い作品だそうです。


全部で44作品展示と展覧会の中では作品数は少ない方ですが、一つ一つ見ごたえがあり時間をかけてゆっくり鑑賞しました。また作品と作品の間隔がゆったりしているので見やすかったです。

ミュージアムショップでグエルチーノ展にちなんだラスク2種類を買いました。


5月31日まで開催されてます

入口の窓ガラスにもワンコちゃん♪

開催中にイタリアバロック美術の粋を感じに見に行く方が多いことを願ってやみません。

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(今日でblog開始から1000日経ちました。続けられたことに感謝です)



2 コメント

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宗教の (パブロ・あいまーる)
2015-03-30 20:42:18
お話よくわからんけどw、でも、あちらの宗教関連の絵画はどれも素敵だと常々思ってます^^

でも、宗教と関係のない、放蕩息子の帰還にチョウ惹かれました(笑)
ぶるーさんの解説で、いろんなことを妄想しました(爆)
放蕩してる間の出来事とか、その後どーなるのか、とか、いろいろなお話が期待できるよね(笑)

そう思うと、各々1枚1枚で、いろんなストーリーを創作できそうだよね(^w^)
綺麗な絵の数々、楽しませていただきました(^^)v
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やっぱり見た目☆ (blueash)
2015-04-01 11:28:24
P子さん☆
コメントに気づくの遅れちゃいすみません(汗)
いつも、今度こそは簡潔で読みやすい記事にしようとおもいつつ、いざ画像を集めるとあれもこれもといれたくなり、やっぱり長くて読みづらい記事になってしまって・・・(滝汗)
そんな長い記事を読んでくださり、コメントもくださり嬉しいです
「放蕩息子の帰還」は映画の1シーンみたいな絵だなと私も思いました。とてもリアルに描かれていて、兄弟はキュートだしワンコも可愛いし。
みんなに絵を見てほしいからやっぱり親しみやすい絵を意識して描いてるのでしょうね~♪
放蕩している間と帰還後はどんな物語をもっているのだろう

各々1枚1枚で、いろんなストーリーを創作できそう

ホントにそれがこの時代の絵を見る醍醐味ですよね☆映画やテレビが存在しない時代に絵を見てみんないろいろな物語を感じてたのだろうな。やはり見た目は大切だなあって思います

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