日本の安全保障政策は、朝鮮戦争を継続することで成り立っていることを如実に示す事例が明らかになった。2024年4月28日、沖縄タイムス『オランダ軍が県内で訓練 北部訓練場で米軍の日程に参加 識者「日米安保条約違反が常態化している」』とする記事である。
『……
オランダ軍の海兵隊が3月、米軍北部訓練場で行われた米海兵隊の訓練プログラムに参加していたことが27日分かった。沖縄防衛局はオランダ軍の来沖を把握していなかったが、第3海兵師団の交流サイト(SNS)が訓練の動画を流していた。在日米軍基地で米軍以外の他国軍が訓練することは日米安全保障条約で認められないが、条約を逸脱して他国が訓練に参加するといった事例はたびたび起きている。識者は「事実上の安保条約違反が常態化している」と問題視している。
……』
この記事では、オランダ軍が沖縄にある在日米軍基地で訓練をすることは条約違反だとしているが、これは、間違いである。
オランダ軍は沖縄で訓練をすることはできる。
それを可能とする協定がある。それが1953(昭和28)年に朝鮮派遣国軍との間に締結した「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定(国連軍地位協定)」である。この協定の関係国は、朝鮮国連軍参加国(18か国:オーストラリア,ベルギー,カナダ,コロンビア,デンマーク,フランス,ギリシャ,イタリア,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,フィリピン,韓国,南アフリカ,タイ,トルコ,イギリス,アメリカ)と国連軍地位協定締約国(12か国:日,オーストラリア,カナダ,フランス,イタリア,ニュージーランド,フィリピン,南アフリカ,タイ,トルコ,イギリス,アメリカ)である。
したがってオランダ軍は、朝鮮戦争に参戦したことを根拠に沖縄にある在米軍基地で訓練を行っているのだ。また、最近、日本政府がフィリピンの安全保障に介入しているのも、同協定が存在するからである。では、この協定の期限であるが、同協定に次の決まりがある。
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第二十四条
すべての国際連合の軍隊は、すべての国際連合の軍隊か朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。この協定の当事者は、すべての国際連合の軍隊の日本国からの撤退期限として前記の期日前のいずれかの日を合意することができる。
……』
つまり、朝鮮戦戦争が終結するまで同協定は有効なのである。ところが、朝鮮戦争が終戦となる直前まで話が進んだことがある。それが、トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、2018年6月12日に会談を行い朝鮮戦争終結に合意したことである。この合意により、朝鮮戦争が終戦となると日本が国連軍各国と締結した「国連軍地位協定」は失効することになる。たとえ日米に「安全保障条約」があったとしても、アメリカ軍は日本に駐留する権利は消滅する。これと同時に、日本の安全保障政策の基本であった駐留アメリカ軍は日本から完全に撤退して在日米軍基地は「もぬけの殻」となる。慌てた日本政府は、朝鮮戦争に参戦した「国連軍地位協定」を締結した国々と、朝鮮戦争終戦後の対応策を準備してゆくことになった。
それが、「日英円滑化協定(Japan-UK Reciprocal Access Agreement)」という協定である。同協定の開始日が定められている。
『……
第四条
…
3 この協定は、千九百五十四年二月十九日に東京で署名された日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定に基づいて国際連合の軍隊として行動する間の連合王国の軍隊が実施するいかなる活動についても適用しない
……』
つまり、日本とイギリスが締結した「日英円滑化協定」は「国連軍地位協定」が有効な間は適用しないというものである。したがって「日英円滑化協定」が実際に動き出すのは、朝鮮戦争が終戦となった時なのである。
最近では、アメリカ大統領選挙でトランプ大統領が再選される可能性が高くなっている。もしも、トランプ大統領が再選されると、今度こそ、NATO解体と朝鮮戦争終結は現実のものとなり日本の安全保障政策を牛耳ってきた自由民主党はその存在価値を失う。そのため日本政府は、「国連軍地位協定」を締結した国々に「日英円滑化協定」と同様の協定を結ぶことで、風前の灯火となった日本の安全保障政策の失敗を糊塗しようと奔走しているのが現状である。その対象国は、フィリピンでありオランダということになる。
沖縄からオランダ軍を放逐するのは、朝鮮戦争を終戦にさせて自由民主党政権を崩壊させることである。自由民主党を崩壊させても、朝鮮戦争が終戦とならなければ、第二次保守合同によりゾンビの第二の自由民主党が生まれるだけで本質的な変化はないことになる。
アメリカ大統領選挙の行方が注目される所以である。
【参考】
「国連軍地位協定」及び「日英円滑化協定」につては下記スレッドにその詳細を纏めてあります。
トランプ氏とNATO問題
・(2023年02月06日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回) -日本政府の隠蔽、虚言-』
・(2023年02月13日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-1) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年02月13日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-2) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年02月22日)『「日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 3) -日本政府の隠蔽と虚言-」』
・(2023年2月27日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回4)-日本政府の隠蔽と虚言-』
トランプ氏と朝鮮戦争終戦問題
・(2023年02月27日)『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 4) -日本政府の隠蔽と虚言-』
・(2023年11月05日)『毎日新聞さま「何時、朝鮮戦争は終戦になったのでしょうか」 -日英部隊派遣の円滑化協定を初適用-』
バイデン政権となったのちの動き
・(2023年08月16日)『韓国尹錫悦政権が最も恐れる「朝鮮戦争終戦」』
・(2023年08月18日)『キャンプデービッドで2023年8月18日に開催される日米韓首脳会議』
・(2023年8月21日)『「国連軍地位協定」と「BRICSヨハネスブルグ首脳会議」』
・(2023年8月10日)『麻生太郎自由民主党副総裁という大馬鹿者』
・(2023年8月14日)『自由民主党外交政策が大失策となった原因』
朝鮮戦争が終戦となることを見込んだ処置
・(2023年10月03日)『「日英円滑化協定」は「国連軍地位協定」のスペア -自由民主党は イギリスにも国家主権を売ると決めた-』
・(2023年11月2日)『RT「トランプ大統領、NATOからの米国撤退を計画」!? -再び朝鮮戦争終戦が持上る-』
・(2023年11月16日)『日本経済新聞さま「朝鮮戦争は、何時、終戦となったのでしょうか」』
以上(寄稿:近藤雄三)