小日向白朗学会 HP準備室BLOG

小日向白朗氏の功績が、未だ歴史上隠されている”真の事実”を広く知ってもらう為の小日向白朗学会公式HP開設準備室 情報など

2018年、独Spiegel誌は、NATOの軍備は貧窮していることを暴露

2025-02-26 | 小日向白朗学会 情報
 2025年2月26日、ウクライナがいよいよ停戦に合意することが確実となってきた。
  今から約2年前の2023年初頭、ウクライナ関連のニュースでは『戦局を動かすゲームチェンジャーか――ドイツ製戦車供与』との見出しが踊り、ドイツ製「レオパルト2」戦車の投入によってウクライナが戦争勝利の糸口をつかむと大きく報じられていた。
 ちょうどその頃、筆者は2023年2月27日に発表した『日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 4) -日本政府の隠蔽と虚言-』において、ウクライナとロシアの戦争の行方について自説を述べた。今回、停戦が目前に迫ったことを受け、その一部を再録することにする。

2018年5月22日付、Spiegel誌に「ドイツ空軍大ピンチ 使える戦闘機は4機だけ? 背景に「財政健全化」と「大連立」」(「Luftwaffe hat nur vier kampfbereite "Eurofighte」)[i]とする記事を掲載していた。
『……
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に深刻な問題が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも云われている。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかり。ロシアやイランの脅威がちらつくなかで欧州の盟主は内憂外患である。
……
空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などと予算不足の実情をあげているのだ。
……』
 上記の記事を補足するように、2019年02月11日、月刊PANZER「ドイツ「戦車王国」の黄昏 稼働するのは全盛期のわずか3%、どうしてそうなった?」[ii]では、レオパルト2の稼働率を公表している。
『……
ドイツ陸軍「レオパルト2」戦車の稼働数、68両――これは2017年12月に、ドイツ国防省から公表された「主要兵器システムの重要な運用準備に関する報告書」に記載された数です。桁(けた)が間違っているのではないかと、目を疑ってしまいます。この報告書によれば、ドイツ陸軍が保有するレオパルト2は244両ですが、うち176両は保管状態(その約70%は訓練なら使用可能)で、稼働状態にあるのは差し引き68両とのことです。
……』
 以上のように貧弱なドイツ軍であるが、その貧弱な空軍が2022年にわざわざ日本まで飛来しきている。その様子を、2022月8月15日、産経新聞「ドイツ空軍、戦闘機などインド太平洋に派遣 日米韓などと多国籍演習」[iii]から見てみる。
『……
ドイツ連邦空軍は15日から、主力戦闘機ユーロ・ファイターを中心とする軍用機群をインド太平洋地域に派遣する。独軍の発表によると、オーストラリアで多国籍空軍演習に参加するほか、日本や韓国、シンガポールを訪れる予定。安全保障で民主主義圏の連携に加わり、中国の軍事的威嚇に対抗する狙いがある。
ドイツ軍が、戦闘機をインド太平洋地域に派遣するのは初めてとなる。軍用機群はユーロ・ファイターが6機、輸送機A400Mが4機、多用途空中給油・輸送機A330MRTTが3機の計13機で構成する。今月19日から3週間、豪州で行われる多国籍空軍演習「ピッチブラック」に日米韓やシンガポール、英仏などと共に参加し、その後、日本を訪れる予定。独軍の発表では、日韓とは「価値を共有するパートナー」として、関係を深める意欲を強調している。
……』
 ドイツ空軍がわざわざ日本まで飛来した理由は、日本の自衛隊と組んでNATOの戦力を底上げしたいことは明らかである。NATOが張り子の虎であって抑止力に問題があるため、日本が関係国であり続けて欲しいためのデモンストレーションなのだ。
 ちなみに2021年IISS(The International Institute for Strategic Studies、国際戦略研究所)のデータによれば、ドイツの戦車台数は46位238台まで回復しているとされている。ちなみに1位はロシアで12850台、2位アメリカ6332台、3位中国5800台、日本は19位667台で、ウクライナは34位340台にすぎないのだ。また、昨今では、ドイツからウクライナに戦車が供給されることになっているというが、保有台数の実稼働数は良くて70%程度と考えると、その中から14台をウクライナに供与するとなると自国防衛用に残された戦車台数は明らかに不足することになる。例え、ウクライナに供与されても、メンテナンスや燃料、弾薬の補給を考えると、第一線に投入することは難しく、重要都市の防衛用に温存されるのが関の山だと考えられる。したがって、いかに優秀な戦車を投入しても、ウクライナの戦況をかえることは難しいであろう。

 ところで、NATOがウクライナに戦車を投入することに関しては、悲観的な結果を導き出す戦争の法則がある。それがランチェスター理論(Lanchester's Laws)の第2法則である。同法則によれば、ロシアの戦車数は開戦当初の2,927台から1,800台に減少したとされるが、ウクライナが要求する300台の戦車をすべて揃えたとしても、戦局が有利に変わることはなく、むしろウクライナが敗北する可能性が高いと考えざるを得ない。
 そもそも、デフォルト状態にあるウクライナには、300台もの主力戦車を購入する資金がなく、調達自体が困難である。ゼレンスキー大統領のように、国際条約を平気で破棄する指導者は、ランチェスター理論の基本さえ無視して主力戦車300両を求めたのだろう。仮にロシアとウクライナが戦車戦で対峙した場合、単純計算ではロシアの戦車残数が1,774台、対するウクライナは0台となり、結果は完敗である。
 実は、ウクライナが不利な状況にあることを最もよく知っていたのはイギリスとアメリカである。両国はランチェスター理論を用いて、ウクライナの敗北をすでに想定していたと考えられる。そもそも、この理論を国際的な軍備調整に初めて適用したのは、1921年11月11日に開催されたワシントン海軍軍縮条約において、戦艦比率を英米日=5:5:3に強行設定したイギリスとアメリカであった。それから100年後、ウクライナ支援に奔走する両国が、この理論を忘れているはずがない。
 それでもイギリスとアメリカがウクライナ支援を継続する理由は他にある。それは、NATOが掲げる「加盟国への攻撃は許さない」という抑止力が形骸化し、組織の崩壊につながることを恐れているためだ。
 この状況を見越してか、ポーランドは2022年7月27日に韓国との間でK-2戦車180両、K-9自走砲48門、FA-50軽戦闘攻撃機48機の導入契約を締結したと発表した。さらに2026年からは、ポーランド仕様のK-2PLを国内で820両生産する計画であり、達成時にはポーランド軍の主力戦車は合計1,000両となる。ロシアと国境を接するポーランドは、独自の試算に基づき、ロシアと対抗するために1,000両の主力戦車が必要だと結論づけたと考えられる。この数字は妥当であり、ポーランドがNATOの抑止力に見切りをつけ、自国のみでロシアに対抗しようとしている表れでもある。この動きは、いずれ他の加盟国にも波及し、最終的にはNATO解体へとつながる可能性がある。
 つまり、ウクライナが不利な状況にあるにもかかわらず、NATO本部は右往左往し、加盟国も有効な戦力を持たない現実を覆い隠すためにプロパガンダを展開しているのだ。その戦力投入も、逐次投入という最も愚劣な手法であり、戦車を東部戦線に送り込んでも、制空権がない状況では戦場にたどり着けるかすら疑わしい。
 しかし、日本国内には、まるでウクライナが善戦しているかのような情報を発信する集団が存在する。その中心は、RUSI(イギリス王立防衛安全保障研究所)および、その影響下にある日本の防衛研究所や関係者である。ウクライナが現状のままでは確実に敗北し、国土が廃墟と化すことは明らかである。真にウクライナを思うならば、速やかに停戦協定の締結を支援するべきである。それにもかかわらず、ウクライナに対して「ロシアを国境まで押し戻せ」と繰り返すのは、言語道断である。
 RUSIおよび日本の防衛研究所は、この悪質なプロパガンダを直ちに停止すべきである。
以上(寄稿:近藤雄三)
【参考】

[i] 「Luftwaffe hat nur vier kampfbereite "Eurofighte

https://www.spiegel.de/politik/deutschland/bundeswehr-luftwaffe-hat-nur-vier-kampfbereite-eurofighter-a-1205641.html (2025.02.26閲覧)。

[ii] https://trafficnews.jp/post/83385(2025.02.02閲覧)。

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またまたチャットGPTに聞きました。「米国はNATO脱退するのかな」???

2025-02-26 | 小日向白朗学会 情報
 ウクライナ支援でその凋落ぶりというか、結束の脆弱さというか、軍事力の劣化を世界に晒したNATOにアメリカは残り続けるのだろうか。アメリカが本気を出さない限りはNATOは張子の虎でしかない。そんな中で、AIに次の質問をしました。
「米国はNATOを脱退すると思いますか。」

ChatGPT:
現時点で、米国がNATO(北大西洋条約機構)から脱退するという兆候は見られません。NATOは、アメリカにとって長期的かつ重要な軍事同盟であり、特にヨーロッパとの安全保障において中心的な役割を果たしています。米国は、冷戦後もNATOを通じて国際的な影響力を維持し、同盟国との関係を強化してきました。
もちろん、米国国内で時折「アメリカ・ファースト」政策に基づく孤立主義的な声が上がることはありますが、NATOにおける米国の役割は、同盟国との協力や集団安全保障の枠組みの中で非常に重要です。特にロシアや中国の台頭を考えると、米国の安全保障にとってもNATOとの連携は大きな意味を持ち続けると考えられます。
政治的な変動や新たなリーダーシップが登場する中で、NATOに対するアメリカのアプローチが変わる可能性はありますが、完全に脱退することは現実的ではないと考えられます。

あなた:
「けれど、NATOにいることは米国にとって負担にこそなれ、利益はないトランプは考えているのではないでしょうか。」

ChatGPT:
確かに、ドナルド・トランプ前大統領は、NATOに対する強い懐疑的な姿勢を示していました。彼は、NATO加盟国が防衛費の負担を十分に分担していないことを批判し、「アメリカ・ファースト」の方針を掲げて、米国が同盟国の防衛費に過度に依存していると主張していました。トランプは、米国がNATOの枠組み内でリーダーシップを取ることに負担を感じ、その負担を減らすために、加盟国がもっと支出を増やすべきだと強調していました。
また、トランプは、NATOが冷戦後の新しい時代に適応するべきだという立場も取っており、特にロシアの脅威が以前ほど直接的ではないと考えていた節もあります。こうした意見から、NATOから脱退することを公言することはなかったにせよ、トランプの政策は米国の同盟に対する姿勢を根本的に再評価するものでした。
とはいえ、実際にはトランプがNATOを完全に脱退させることはなかったですし、彼の任期中も米国はNATOに残り続けました。これは、米国の戦略的な利益や安全保障上の理由から、完全に脱退することが現実的ではないと感じられていたからだと考えられます。
バイデン政権においては、NATOとの協力が再強化され、同盟関係の重要性が再認識されています。将来的にトランプのような孤立主義的なアプローチを取る大統領が再び登場すれば、NATOへの姿勢は再び議論になるかもしれませんが、現時点では米国がNATOを脱退する可能性は低いと見られています。

あなた:
「NATOを米国が脱退すればNATOは張子の虎になるでしょう。せいぜい英国の核しか評価はできなくなるでしょうし、その核もプラットホームを欠いたリアリティがないものだという意見もあります。つまり、すでに軍事同盟を結ぶメリットは失していると云う事にはならないでしょうか。ロシアも北朝鮮も中国も外交で対応できるのが現状だと思われます。なのでNATOは米国にとって単なる負担でしかないでしょう。」

ChatGPT:
確かに、米国がNATOから脱退すれば、同盟としての力が大きく損なわれる可能性が高いです。米国はNATOにおいて最も強力な軍事力を持つ国であり、そのリーダーシップが同盟の中心です。米国が脱退すれば、NATOは「張子の虎」のような状態になり、軍事的な威力や影響力が大きく低下することは避けられないでしょう。
また、仰る通り、NATOにおける英国の核兵器の重要性もありますが、その核兵器も確かにプラットフォームの問題、すなわち実際に使用できる状況が限られているという現実があります。英国の核は、米国との密接な協力によって成り立っている部分が大きいのですが、NATO全体にとっては限られた影響力にとどまるのが現状です。特に、米国が不在となった場合、その影響力は極めて小さくなります。
一方で、ロシア、北朝鮮、中国に対して外交で対応できるという見方も理解できます。確かに、軍事的な対立を避け、外交的手段で解決しようという動きは強くなっており、特に新冷戦的な状況においては、軍事同盟を維持する必要性が薄れているという意見もあります。例えば、米国は経済制裁や貿易政策を通じて中国やロシアに圧力をかける一方で、軍事的な衝突を避ける戦略を取る場合も増えていると言えます。
とはいえ、NATOが単なる負担となっているかどうかについては議論の余地があるところです。NATOは冷戦後、東ヨーロッパやバルカン地域への拡大を通じて、ヨーロッパ全体の安定に寄与してきた側面もあり、米国がその中で果たす役割は依然として重要だとする意見もあります。米国の軍事力は、アメリカ本土を守るだけでなく、グローバルな安定にも寄与するという視点です。
しかし、現実的に見て、米国の政策が「アメリカ・ファースト」にシフトしていく中で、NATOのような国際的な同盟を維持するコストと利益のバランスを見直す声は増えており、もし米国がその方向に進むならば、NATOの役割は大きく変わる可能性が高いです。その場合、軍事同盟としての機能は確かに薄れ、NATOが再編成されるか、もしくは全体としてその重要性を失っていくかもしれません。
結局、米国にとってのNATOの価値は、現状では依然として国際的な影響力やヨーロッパの安定に寄与する点にあるものの、それが「単なる負担」に見えることも理解できます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まっ、どうなんでしょうか。ヨーロッパの凋落はすでに伝説化しているのかもしれませんが、リアリズムに徹するトランプさんはどう出るのでしょうか。結構以前のことですが、ナオミクラインの指摘したショックドクトリンはネオコンとともに掻き消えてしまい、盛者必衰の理を表している、と言えるのではないでしょうか。そんな旧来の方程式では世界はわがものにはなるわけがないでしょう。(文責:吉田)

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ミンスク合意はロシア融資棒引きが失敗したための時間稼ぎ~2014年、ロイターによれば

2025-02-25 | 小日向白朗学会 情報
 少し古い話であるが、2022年12月10日、Reuters『ロシア、将来的にウクライナ協定 「ミンスク合意」は裏切り=プーチン氏』でメルケル元ドイツ首相は、衝撃的な証言を行った。
『……
[9日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は9日、ロシアは将来的にウクライナに関する何らかの合意を行う必要があるとしながらも、ウクライナ東部紛争の和平への道筋を示した「ミンスク合意」で裏切られたと感じていると述べた。
ミンスク合意は、2014─15年のウクライナ東部で起きた同国軍と親ロシア派武装勢力との紛争の和平への道筋を示す合意で、独仏が仲介してベラルーシの首都ミンスクでまとめられた。
プーチン氏はこれについて、同合意を仲介した独仏はロシアを裏切り、現在はウクライナに武器を供給していると非難した。
ドイツのメルケル前首相は7日付の独誌ツァイトに掲載されたインタビューで、ミンスク合意はウクライナが防衛力を強化する「時間を確保する」ものだったと発言。プーチン氏は9日、訪問先のキルギスで行った記者会見で、メルケル氏の発言に「失望した」と語った。
……』
 この記事の重要な部分は、メルケルが「時間稼ぎ」と発言したことである。この件を説明する前にマイダン革命前後のウクライナの状況を俯瞰することから始める。
2008年04月04日
 ルーマニアの首都ブカレストで開催かれたNATO首脳会議でアメリカ大統領ブッシュ(George Walker Bush)は旧ソビエト連邦のウクライナとジョージア(旧グルジア)をNATOに加盟させることを提案した。このブッシュの提案にたいして両国とも積極的にNATOに加盟することを目指すようになった。つまりウクライナとジョージア両国は、共にNATOの核の傘に入ることを希望したことになる。これに対してプーチンは、冷戦への逆行は否定したものの、NATOが旧ソ連圏へ拡大することには強い警戒感を示した。特にプーチンが反発を募らせたのは、ロシアと国境を接するグルジアとウクライナに対して、NATOが両国に対して将来は加盟することを認めたということであった。
 この会議でプーチンが強い反発を見せたのは、ロシアは広大な領土を抱えてはいるものの海洋にでることができるのはバルト海、黒海、そして日本海の三か所に限られるという潜在的な問題を抱えていた。ところが同会議では、この事情を知りながら、ウクライナにNATO加盟を呼びかけたということは、ウクライナ南部に位置し黒海に面したクリミアにあるロシア海軍基地セバストポリスがNATO基地にするということに他ならない。これはロシアが海洋に出る数少ない港湾が一つ減ることを意味していただけではなく、ロシアの腹部にNATOの核が仕掛けられることで、ロシアの安全保障にとってきわめて危険な状況が生まれることを意味していた。

2013年11月27日
 ロシアの抱く危機感とは裏腹に、ウクライナはEUとNATOに接近し、EUと経済や政治などで関係を強化する「連合協定」を締結するまで進んで行った。その日は2013年11月27日であった。ところが2013年11月21日、ウクライナ政府は、突然、その準備を停止することと、ロシアと関係を強化する道を選択したことを発表した[1]。
 このころのウクライナ経済は2009年の経済危機からの回復が遅れていて、欧州復興開発銀行(EBRD)によれば12年の実質国内総生産(GDP)成長率は2%と低迷し、13年にはマイナス0.5%の景気後退となっていた[2]。13年の景気後退は、干ばつによる農産物生産の不振、対外経済環境の悪化による輸出の低迷、2012年議会選挙後の国内需要は停滞、欧州サッカー選手権(12年に開催)後の投資の大幅な減少などによるものであった。されに財政難のウクライナ政府は巨額の債務返済期限が迫っていて「いずれかの形での資金援助を受けなければ、経済的な安定を維持できない状況にあった」[3]。
 ウクライナ・アザロフ首相によれば200億ユーロ(270億米ドル)の融資及び援助を必要としていた。そのためウクライナは、EUとロシアの両方に経済支援を打診していた。これに対してEUは6億1000万ユーロ(8億3800万米ドル)とロシアに比べると少額の融資を提供すると表明したものの、資金提供の見返りとしてウクライナに法律の改正及び改革を要求していた。このような条件を付加したEUの真意は、ウクライナが債務不履行後にIMF管理に移行することを想定していたと考えられる。
 対するロシアは150億ドルの提供と、ガス価格を千立方メートルあたり約400ドルから同268.5ドルに値下げすることを提案した。さらにロシアは、EUと違い融資に付帯条件を付けることはなかった[4]。ロシアが提示した金額には、ウクライナの天然ガス代金未払50億ドルが含まれていないことから実質は総額200億ドルとなるウクライナにとって非常に有利な提案であった。

2013年12月25日
 ウクライナ・アザロフ首相は、ロシアがユーロ建ウクライナ国債を購入することにより総額150億ドルと、天然ガス輸出価格の値下げすることことに合意した。また、アザロフは同月24日に既に初回分として30億ドルを受領済みであることも公表した。これら一連の動きに付いてアザロフ首相は「ロシアからの援助は、わが国の財政と経済を安定化させる重大な要因だ」と述べている[5]。このヤヌコヴィチ内閣の決断は、ウクライナがEU加盟手続きを進めても加盟となるのは長期の年月を要することから、当面の寒厳期をロシアの援助で乗り切ることを優先した結果であった。しかし、このヤヌコヴィチの発表に欧州統合支持者や政権汚職に反対する市民は納得せず大規模な反政府デモが発生することになった。特に2014年2月18日から20日にかけては100名以上の死者を出す大規模衝突に発展し、2014年2月22日にはヤヌコヴィチがロシアへ亡命することになった。

2014年2月18日
 2010年にヤヌコヴィチが大統領に選出されると、憲法裁判所は2004年の改憲を違憲としたが、約2万人のユーロマイダンの抗議者はウクライナの2004年の改憲を復活させるよう求め、ウクライナ議会へ進んだ。マイダン革命である。

2014年2月26日
 プーチンはウクライナとの国境付近を含むロシア西部と中部での緊急軍事演習を命じた[6]。

2014年3月1日
 プーチン大統領はロシア系住民の保護を理由に、ウクライナへのロシア軍投入の承認を上院に求め、上院はこれを全会一致で承認した[7]。

2014年03月18日
 ロシアのプーチン大統領は、クリミアを独立国家として認める大統領令に署名している。同年03月20日には、ロシア下院がクリミアを独立国家とする批准した。反対票を投じた議員は1人だけだった。次いでロシア上院は、同月21日、ウクライナ南部のクリミア半島を自国に編入する条約を満場一致で批准した。同条約により、ロシア内にはクリミアおよびロシア黒海艦隊の基地があるセバストポリの2地方行政区が誕生した[8]。
これに対するウクライナの動きであるが、本来ならば2015年3月29日に行われる予定であったウクライナ大統領選挙を2014年5月25日に実施してポロシェンコが過半数を制し大統領に選出された。同年6月6日に大統領に就任することになった[9]。ちなみに同大統領選挙で2位となったのは、あの2004年のオレンジ革命の中心人物であり、ロシアから天然ガスを輸入する際に中間利益を加えたことからウクライナのガス価格が高騰しウクライナ経済に壊滅的な被害を与えた[10]、ティモシェンコ元首相であった。どちらの候補が勝利してもEUとNATO加盟を推進する立場であることから、政変後の大政翼賛選挙であったことは間違いない。

2014年4月6日
 親ロシア派武装勢力がドネツク州庁舎を占拠し、後に「ドネツク人民共和国」の樹立を宣言した。
またルハンシク州やハルキウ州でも同様の庁舎占拠が発生した。

2014年4月7日
 ドネツク州で「ドネツク人民共和国」の独立宣言されている。

2014年4月12日
 スラヴャンスクで親ロシア派武装勢力が警察署を制圧し、紛争が本格的に拡大した。
この一連の占拠行動は、ユーロマイダン後の政情不安とクリミア併合の直後に発生し、ウクライナ東部紛争(ドンバス紛争)の直接的な引き金となりました。

2014年4月30日
 同大統領選挙に先立ち、IMF理事会はウクライナへの約171億ドルの金融支援を正式に承認している。そして同年5月7日にウクライナ政府は第1回目の融資を受けとっている[11]。つまり大統領が就任前にIMFが融資しなければウクライナ経済は立ち至らなかったのだ。IMFがこれだけ柔軟かつ迅速に動いたということは、新政府はEU及びIMFと事前に審査を行うとともに何らかの協議をおこなっていない限り、あり得ない話なのである。やはりウクライナ新政権は、旧政府を崩壊させ政治的な継続性を遮断したうえでEUとNATOに加盟するために起こしたクーデターであったと考えられる。

2014年05月02日
 ウクライナ・オデッサ市で親ロシア勢力48名を生きたまま燃やしたことや、分離独立を主張した州ではやはり怒れる民衆により分離反対運動を展開しているなどなど、クリミアを併合したロシアに対する民衆の怒りは爆発寸前で、これら怒れるひ弱な民衆をリビアのようにNATOからの支援を受けて最後はクリミアをロシアから奪還するだけとなった。

2014年06月27日
 ウクライナ、グルジア、モルドバの旧ソ連3カ国は欧州連合(EU)と「深化した包括的自由貿易協定(Deep and Comprehensive Free Trade Area、DCFTA)を含む連合協定(Association Agreement)」に署名することになり、ウクライナは、同年5月25日に大統領に就任したポロシェンコが調印に臨んだ。ロシアは、この協定調印に強く反発したもののウクライナに対する影響力はなくなっていた。これでウクライナは、EUとNATOに加盟することが順調に進み、NATOの核抑止力でロシアの影響力から脱して安定を取り戻すだけとなった。

2014年9月5日
 ウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国がミンスク合意を調印した。
この合意についてメルケル元ドイツ首相は、2022年12月になって、ウクライナが防衛力を強化するために「時間を確保する」ものだったと発言して物議をかもした。

 ところで、Reutersは(2014年9月25日)に『焦点:ウクライナに債務不履行懸念、ロシア向け債権めぐる憶測で』[12]とする記事を配信している。この記事には、ミンスク合意は「ウクライナが防衛力を強化するために時間を確保する」ためのものではなかったことが書かれている。
『焦点:ウクライナに債務不履行懸念、ロシア向け債権めぐる憶測で
By Reuters
September 25, 2014 3:04 PM GMT+9Updated 10 years ago

[ロンドン 24日 ロイター] - ウクライナのドル建て債が売られたことで、ロシアが旧ヤヌコビッチ政権時代のウクライナから支援の一環として引き受けた30億ドルのユーロ債に関心が集まっている。投資家の間では、プーチン大統領がこの債務を利用してウクライナ政府の発行したユーロ債の幅広い銘柄に債務不履行を引き起こすのではないかと懸念が高まっている。
このユーロ債は昨年末に発行された。ウクライナの財政悪化に歯止めが掛からない場合、ロシア政府が即時返済を要求できる条項が盛り込まれている。
つまり西側諸国の貸し手はウクライナ向け融資の拡大を余儀なくされる可能性がある。またその可能性は低いとは言え最悪のケースでは、ロシア向け返済が期日を守れず、ほとんどのユーロ債に付随する「クロスデフォルト条項」(デフォルト発生時には債務者が抱える返済期日が来ていない残りの借り入れも不履行とみなす取り決め)が発効してウクライナが他のドル建て債についても返済を迫られることもあり得る。
プーチン大統領は経済的な影響力を最大限に駆使し、西側寄りのポロシェンコ・ウクライナ大統領が欧州連合(EU)と自由貿易協定を結ぶのを阻止する構えだ。
このユーロ債の問題の核心は、ウクライナの国債と政府保証債の対国内総生産(GDP)比率が一時たりとも60%を超えてはならないという、めったにない条項が付帯している点にある。
ウクライナは経済の悪化と通貨フリブナの下落が続き、債務の対GDP比率は既にこの上限を上回っているかもしれない。そうでなくとも、国際通貨基金(IMF)が見込む今年末の債務比率は67%だ。
スタンダード・バンクのアナリストのティム・アッシュ氏は「債務比率が限度を超えるのは間違いない。ロシアはこのユーロ債を使ってウクライナを苦しめる公算が大きい」と話す。
もっともロシアとしては即時返済を求めずともウクライナに対する立場を強める手段が他にもある。
<ロシアの影響力>
抜け目ないロシア政府は問題のユーロ債を英国法準拠とし、英国の裁判所が法的強制力を持てるような仕組みにした。だから返済要求をせずとも、ウクライナが債務再編に追い込まれた場合にロシア政府は全体の約5分の1を保有する債権者として強い影響力を持つ。
他に債権者は少なく、ロシア抜きなら債務再編は比較的簡単になるだろう。つまりウクライナにとってはロシア向けのユーロ債が償還期限を迎える2015年12月まで債務再編を遅らせて、ロシアが再編交渉のテーブルに着けないようにするのが得策だ。しかし今のところウクライナがそれまで持ちこたえられるようにはみえない。
一方、プーチン大統領のウクライナへの影響力行使はロシア政府にとってもリスクを伴う。
ロシアの銀行は既に一部が西側の経済制裁の影響にさらされているが、ウクライナが債務不履行に陥れば打撃を受ける。ズベルバンク、VTB、アルファの大手3行はウクライナでも大手の立場にある。ムーディーズの昨年の推計によると、ガスプロムバンク、VEB、ズベルバンク、VTBのウクライナ向けのエクスポージャーは合計で最大300億ドルに達する。
<不愉快な債務>
ウクライナの財政悪化にともない、債券市場は債務再編を織り込み始めた。
オックスフォード・エコノミクスのグローバル・マクロ・ヘッドのガブリエル・スターン氏は、ギリシャは2012年を期限とする債務120億ユーロの返済が大き過ぎて不履行に陥ったと指摘した。ウクライナにとっては50億ドル程度の天然ガス代金を除けばロシア向けユーロ債が最大の支払い案件だ。
スターン氏は「ウクライナはある時点で返済ができないと認めざるを得ないし、私のみるところ30億ドルの返済がそのときだ」と話す。
これまでのところウクライナがこの債務返済を拒否する兆しはみえないが、そうすべきだとの見方もある。
ジョージタウン大のアン・ゲルパーン教授はこうした主張を強く展開している1人。ウクライナはこの債務は「不愉快な債務(odious debt)」だとして支払いを拒否すべきだと主張し、英国の議会と裁判所もこのユーロ債の契約履行を拒否すべきだとしている。不愉快な債務とは、前体制が借りたもので、不適切、あるいは国民の利益に適わない債務を指す言葉だ。
一方、BNPパリバの新興国市場戦略部門ヘッドのデービッド・シュピーゲル氏は、裁判所が「不愉快な債務」という主張を認めたことはほとんどないと指摘。「ヤヌコビッチ氏が借りた債務なのは事実だし、同氏は公的な利益で動いていなかったという主張は存在する。しかしヤヌコビッチ氏が民主的な選挙で選ばれたという事実は変わらず、不愉快な債務という主張は裁判では通用しないだろう」と述べた。
(Sujata Rao記者)』

 つまりマイダン革命を国際金融機関の立場から見ると、ロシアが融資した資金を帳消しにして、IMFを中心とする国際金融機関がウクライナに資金を貸付けるために実施したということなのである。ところが、ロシアのプーチン大統領は、イギリスの裁判所が法的強制力を持てるような仕組みを組み込んでいた。そのため、IMFを中心とする国際金融機関は、単純のロシアの債権を帳消しにすることができないことが判り、その言い訳としてメルケルの言う「ウクライナの防衛力を強化するために時間を確保する」という理由で、ミンスク合意を締結したのである。ウクライナ問題の本質は、メルケルの発言により巧妙に隠蔽されることとなった。
以上(寄稿:近藤雄三)

[1] ロイター「ウクライナがEUとの協定締結準備を停止、ロシアは歓迎

https://jp.rEUters.com/article/l4n0j70rh-ukraine-EU-russia-idJPTYE9AL03L20131122 (2023.02.02閲覧)。

[2] 「ウクライナの経済危機とビジネス環境」https://iti.or.jp/flash/223 (2023.02.05閲覧)

[3] 産経新聞(2013/12/18)「ロシア、ウクライナに1・5兆円財政支援、ガス価格も値下げ 首脳会談

https://www.sankei.com/article/20131218-UGJGXR5KQJLKZG6ATXAXHL6KDU/ (2023.02.08閲覧)。

[4] 産経新聞(2013/12/18)「ロシア、ウクライナに1・5兆円財政支援、ガス価格も値下げ 首脳会談

https://www.sankei.com/article/20131218-UGJGXR5KQJLKZG6ATXAXHL6KDU/ (2023.02.08閲覧)。

[5] 「ロシア、ウクライナに150億ドルの緊急援助へ」『ロイター』(2013年12月25日)

https://jp.rEUters.com/article/l3n0k40wy-ukraine-russia-bailout-idJPTYE9BO05S20131225 (2023.02.08閲覧)。

[6] AFP(2014年2月27日)「ロシア大統領、ウクライナ国境付近での軍事演習を指示

https://www.afpbb.com/articles/-/3009378 (2023.02.08閲覧)。

[7] テレビ朝日(2014/03/02)「緊迫のウクライナ ロシア上院が軍投入を承認

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000022409.html (2023.02.08閲覧)。

[8] AFP(2014年3月21)「ロシア、クリミア半島を自国編入へ 上院が条約批准

https://www.afpbb.com/articles/-/3010765 (2023.02.08閲覧)。

[9] ロイター(2014年6月6日)「ウクライナ、さらに領土失えばデフォルトの公算=S&P

https://www.rEUters.com/articlEUkraine-default-sp-idJPKBN0DL0WL20140505 (2023.02.08閲覧)

[10] (2011年8月9日)「ティモシェンコの裁判がキエフで再開されると抗議者が集まる

https://www.bbc.com/news/world-europe-14419216 2023.02.10閲覧)。

[11] JETRO(2014年5月23)「IMFの金融支援で当面のデフォルト危機を回避

https://www.jetro.go.jp/biznews/2014/05/537c16f2088b8.html (2023.02.08閲覧)

[12] (2014年9月25日)Reuters『焦点:ウクライナに債務不履行懸念、ロシア向け債権めぐる憶測で

https://www.rEUters.com/article/analysis-ukraine-default-possibility-idJPKCN0HK0CN20140925 (2023.02.08閲覧)(2025.02.20閲覧)。

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チャットGPTに聞きました。…もしも伊藤博文が暗殺されていなかったならば‥‥

2025-02-25 | 小日向白朗学会 情報
 AIに聞いてみました「明治40年帝国国防方針の制定に伊藤博文はかかわったのでしょうか。
ChatGPT:

はい、伊藤博文は明治40年(1907年)に策定された「帝国国防方針」の制定に関わっています。

伊藤博文は、明治時代の重要な政治家・軍事指導者であり、当時の日本政府の高官として、国防に関する政策立案にも重要な役割を果たしていました。特に彼が内閣総理大臣として活動していた時期には、日露戦争後の日本の国際的立場や防衛力の強化を重視し、その方針策定に貢献したとされています。

明治40年に策定された「帝国国防方針」は、日本の防衛を確立し、軍事力を強化するための指針であり、伊藤博文はその背景に深く関与していました。また、当時の政治的な動きの中で、伊藤博文は国家の安全保障を重要視し、外交や軍事における方針を強化していったのです。

したがって、伊藤博文はこの国防方針の策定において中心的な役割を果たしていたと言えます。

続けて聞いてみました。「中心的な役割を果たしたのは山縣有朋だと聞いています。伊藤はその後もロシアとの協調路線を取るべくロシアに接近しており、山縣たちのロシア敵視方針と対立しています。その辺をどう理解しますか。
ChatGPT:

おっしゃる通り、明治40年(1907年)の「帝国国防方針」の策定において、実際に中心的な役割を果たしたのは山縣有朋でした。山縣は当時の日本の軍事政策や国防計画の立案において強い影響力を持ち、特に陸軍の立場から日本の防衛強化に力を入れていました。

山縣有朋と伊藤博文の対立

山縣有朋は、日露戦争後の日本の立場を強化するため、特にロシアに対する敵視姿勢を強調しました。これは、ロシアの膨張主義に対する警戒心から来ており、また日本の国際的な防衛力を高めるための方針でした。そのため、山縣をはじめとする陸軍関係者は、ロシアと敵対する方向性を採り、軍備の強化と外交的な圧力を通じて日本の安全を確保しようとしました。

一方、伊藤博文は、日露戦争後もロシアとの協調路線を重視していました。伊藤は、平和的な外交を通じて日本の利益を確保し、ロシアとの関係を改善することで、国際的な安定を築こうと考えていました。特に、彼はロシアとの協定を結んで、日本の外交的立場を強化することを目指し、直接的な軍事対決を避けることが最善だと考えていたのです。

伊藤博文の外交路線と山縣有朋の防衛方針

伊藤と山縣の間での対立は、根本的には外交と軍事のアプローチの違いにあります。伊藤は外交を重視し、戦争を回避するために調整を図り、ロシアとの関係を安定させることを目指しました。一方、山縣は防衛の観点から、ロシアをはじめとする列強に対して日本が軍事的に備える必要性を訴え、軍事的優位を確保するためには対ロシアの強硬姿勢を取るべきだと考えていました。

このような対立は、当時の日本政府内部での外交と軍事戦略の意見の相違を反映しています。伊藤博文は外交的解決を試みましたが、実際には山縣の軍事的アプローチが日本の方針としてより強く支持され、特に日英同盟を基盤にした防衛体制や、対ロシアの姿勢が強化されていきました。

結論

伊藤博文がロシアとの協調路線を取っていたことは事実であり、山縣有朋の対ロシア強硬姿勢と対立していた点は理解できます。この対立は、時代の背景とともに、外交的な手段と軍事的な手段をどうバランスさせるかという大きな問題に起因していました。最終的には、日本は山縣の軍事的な立場に従い、ロシアに対する警戒を強めていきましたが、伊藤博文の外交的な努力も無駄ではなく、その後の日本の外交における一部の方向性に影響を与えたと考えられます。

 さらに突っ込んでみました。「2年後に暗殺されてしまえば伊藤路線の破綻は仕方がないでしょう。結果、昭和20年8月15日を予想させる経緯をたどることになったのではないでしょうか。
ChatGPT:

伊藤博文が暗殺されることによって、彼が推し進めていた外交路線が断たれ、その後の日本の政治・外交の方向性に大きな影響を与えたことは確かです。彼の死は、単に個人の命を奪われたということにとどまらず、彼が掲げていた「ロシアとの協調」や「平和的外交」の路線が失われることを意味し、その後の日本の国策に大きな変化をもたらしました。

伊藤博文の外交路線の破綻とその影響

伊藤博文の外交政策は、日露戦争後の日本にとって重要なものであり、特にロシアとの協調を目指していました。彼は日本が国際的に孤立しないように、外交面での努力を惜しまなかったのです。しかし、彼が1909年に暗殺されたことにより、この路線は急速に破綻し、その後を継ぐものが異なる方向性を取ることになります。

暗殺後、日本の政治は次第に軍部主導の方向に向かい、特に山縣有朋やそれに続く軍部の影響が強まりました。これは、山縣が主導したような対ロシア強硬路線、さらには「帝国国防方針」に象徴される軍事力を重視した政策へのシフトを意味しました。外交的な解決よりも、軍事的優位性を追求する傾向が強まり、日本の国際的な立場は次第に戦争に向かっていくことになります。

結果として昭和20年8月15日の経緯に繋がる

伊藤博文が生きていれば、彼の外交路線が日本の外交方針に影響を与え続けた可能性は高いですが、彼が暗殺されたことで、軍部の影響力が強まり、最終的に日本は対外的に戦争を選択することになりました。特に、日中戦争や太平洋戦争に至るまでの過程では、軍部が外交をコントロールする形となり、最終的には戦争に突入する方向に進んでいったのです。

昭和20年8月15日(終戦の日)は、まさにその結果として訪れた日であり、もし伊藤博文の外交政策が続いていれば、戦争回避の可能性もあったかもしれません。彼が取ったであろうロシアとの協調路線や、軍事的な対立を避ける姿勢が持続していれば、日本はもっと平和的な道を選んでいた可能性もあります。

ただし、当時の国際情勢や日本国内の軍事的圧力、または帝国主義的な野心など、さまざまな要因が絡み合っていたため、仮に伊藤が生き続けていたとしても、日本が戦争を回避できたかどうかは定かではありません。それでも、伊藤博文の死が日本外交に与えた影響は非常に大きく、その後の軍部の台頭と日本の戦争路線に直結したという点では、歴史的な転換点となった出来事でした。

まとめ

伊藤博文の死後、日本は軍部主導の政策へとシフトし、最終的に戦争に突入することになります。この経緯は、結果として昭和20年8月15日の終戦に繋がるものであり、伊藤の外交路線がもし続いていれば、戦争を避ける方向性が強化されていた可能性があると言えます。それにより、彼の暗殺が日本の戦争への道を決定づける重要な分岐点となったと言えるでしょう。

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だそうですよ。あなたはAIのレスをどうみますか。(文責:吉田)
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プーチンが開戦直前に語ったこと、、、ウクライナというNATOの切り口

2025-02-23 | 小日向白朗学会 情報
 NHKは2022年5月25日に侵攻直前の「プーチン大統領演説 2022年2月24日」と題してプーチン演説を配信していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そしてロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。それは、私たちの特別な懸念や不安を呼び起こすもの、毎年着実に、西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に、無遠慮に作り出している、あの根源的な脅威のことだ。つまり、NATOの東方拡大、その軍備がロシア国境へ接近していることについてである。
 この30年間、私たちが粘り強く忍耐強く、ヨーロッパにおける対等かつ不可分の安全保障の原則について、NATO主要諸国と合意を形成しようと試みてきたことは、広く知られている。私たちからの提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。軍事機構は動いている。繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。西側諸国が打ち立てようとした“秩序”は混乱をもたらしてきた
なぜ、このようなことが起きているのか。自分が優位であり、絶対的に正しく、なんでもしたい放題できるという、その厚かましい態度はどこから来ているのか。私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。
 答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。当時起きたことの一連の流れは、今でも私たちにとってよい教訓となっている。それは、権力や意志のまひというものが、完全なる退廃と忘却への第一歩であるということをはっきりと示した。当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。説得や懇願ではどうにもならない。覇権、権力者が気に入らないことは、古風で、時代遅れで、必要ないと言われる。それと反対に、彼らが有益だと思うことはすべて、最後の審判の真実かのように持ち上げられ、どんな代償を払ってでも、粗暴に、あらゆる手を使って押しつけてくる。賛同しない者は、ひざを折られる。私が今話しているのは、ロシアに限ったことではないし、懸念を感じているのは私たちだけではない。これは国際関係のシステム全体、時にアメリカの同盟諸国にまでも関わってくるものだ。
 ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、そのうち最も重要で基本的なものは、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものであるが、それが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。もちろん、実務において、国際関係において、また、それを規定するルールにおいては、世界情勢やパワーバランスそのものの変化も考慮しなければならなかった。しかしそれは、プロフェッショナルに、よどみなく、忍耐強く、そしてすべての国の国益を考慮し、尊重し、みずからの責任を理解したうえで実行すべきだった。しかしそうはいかなかった。あったのは絶対的な優位性と現代版専制主義からくる陶酔状態であり、さらに、一般教養のレベルの低さや、自分にとってだけ有益な解決策を準備し、採択し、押しつけてきた者たちの高慢さが背景にあった。事態は違う方向へと展開し始めた。例を挙げるのに遠くさかのぼる必要はない。
 まず、国連安保理の承認なしに、ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを、絶え間なく爆撃した。この事実を思い起こさなければならない。というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた。リビアに対して軍事力を不法に使い、リビア問題に関する国連安保理のあらゆる決定を曲解した結果、国家は完全に崩壊し、国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、国は人道的大惨事にみまわれ、いまだに止まらない長年にわたる内戦の沼にはまっていった。
 リビアだけでなく、この地域全体の数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、北アフリカや中東からヨーロッパへ難民の大規模流出を引き起こした。
シリアにもまた、同じような運命が用意されていた。シリア政府の同意と国連安保理の承認が無いまま、この国で西側の連合が行った軍事活動は、侵略、介入にほかならない。ただ、中でも特別なのは、もちろん、これもまた何の法的根拠もなく行われたイラク侵攻だ。その口実とされたのは、イラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。それを公の場で証明するために、アメリカの国務長官が、全世界を前にして、白い粉が入った試験管を振って見せ、これこそがイラクで開発されている化学兵器だと断言した。後になって、それはすべて、デマであり、はったりであることが判明した。イラクに化学兵器など存在しなかったのだ。信じがたい驚くべきことだが、事実は事実だ。国家の最上層で、国連の壇上からも、うそをついたのだ。その結果、大きな犠牲、破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった。
 世界の多くの地域で、西側が自分の秩序を打ち立てようとやってきたところでは、ほとんどどこでも、結果として、流血の癒えない傷と、国際テロリズムと過激主義の温床が残されたという印象がある。私が話したことはすべて、最もひどい例のいくつかであり、国際法を軽視した例はこのかぎりではない。アメリカは“うその帝国”NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。繰り返すが、だまされたのだ。俗に言う「見捨てられた」ということだ。確かに、政治とは汚れたものだとよく言われる。そうかもしれないが、ここまでではない。ここまで汚くはない。これだけのいかさま行為は、国際関係の原則に反するだけでなく、何よりもまず、一般的に認められている道徳と倫理の規範に反するものだ。正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。ちなみに、アメリカの政治家、政治学者、ジャーナリストたち自身、ここ数年で、アメリカ国内で真の「うその帝国」ができあがっていると伝え、語っている。
 これに同意しないわけにはいかない。まさにそのとおりだ。しかし謙遜する必要はない。アメリカは依然として偉大な国であり、システムを作り出す大国だ。その衛星国はすべて、おとなしく従順に言うことを聞き、どんなことにでも同調するだけではない。それどころか行動をまねし、提示されたルールを熱狂的に受け入れてもいる。だから、アメリカが自分のイメージどおりに形成した、いわゆる西側陣営全体が、まさに「うその帝国」であると、確信を持って言えるのには、それなりの理由があるのだ。
 我が国について言えば、ソビエト連邦崩壊後、新生ロシアが先例のないほど胸襟を開き、アメリカや他の西側諸国と誠実に向き合う用意があることを示したにもかかわらず、事実上一方的に軍縮を進めるという条件のもと、彼らは我々を最後の一滴まで搾り切り、とどめを刺し、完全に壊滅させようとした。
まさに90年代、2000年代初頭がそうで、いわゆる集団的西側諸国が最も積極的に、ロシア南部の分離主義者や傭兵集団を支援していた時だ。当時、最終的にコーカサス地方の国際テロリズムを断ち切るまでの間に、私たちはどれだけの犠牲を払い、どれだけの損失を被ったことか。どれだけの試練を乗り越えなければならなかったか。私たちはそれを覚えているし、決して忘れはしない。
実際のところ、つい最近まで、私たちを自分の利益のために利用しようとする試み、私たちの伝統的な価値観を破壊しようとする試み、私たちロシア国民を内側からむしばむであろう偽りの価値観や、すでに彼らが自分たち側の国々に乱暴に植え付けている志向を私たちに押しつけようとする試みが続いていた。
それは、人間の本性そのものに反するゆえ、退廃と退化に直接つながるものだ。こんなことはありえないし、これまで誰も上手くいった試しがない。そして今も、成功しないだろう。
 色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。すべては無駄だった。アメリカの立場は変わらない。彼らは、ロシアにとって極めて重要なこの問題について私たちと合意する必要があるとは考えていない。自国の目標を追い求め、私たちの国益を無視している。そしてもちろん、こうした状況下では、私たちは疑問を抱くことになる。「今後どうするべきか。何が起きるだろうか」と。
 私たちは、1940年から1941年初頭にかけて、ソビエト連邦がなんとか戦争を止めようとしていたこと、少なくとも戦争が始まるのを遅らせようとしていたことを歴史的によく知っている。そのために、文字どおりギリギリまで潜在的な侵略者を挑発しないよう努め、避けられない攻撃を撃退するための準備に必要な、最も必須で明白な行動を実行に移さない、あるいは先延ばしにした。
最後の最後で講じた措置は、すでに壊滅的なまでに時宜を逸したものだった。
その結果、1941年6月22日、宣戦布告なしに我が国を攻撃したナチス・ドイツの侵攻に、十分対応する準備ができていなかった。敵をくい止め、その後潰すことはできたが、その代償はとてつもなく大きかった。大祖国戦争を前に、侵略者に取り入ろうとしたことは、国民に大きな犠牲を強いる過ちであった。最初の数か月の戦闘で、私たちは、戦略的に重要な広大な領土と数百万人の人々を失った。
 私たちは同じ失敗を2度は繰り返さないし、その権利もない。世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。それを私たちは知っているし、経済分野において常に私たちに対して向けられている脅威を客観的に評価している。そしてまた、こうした厚かましい恒久的な恐喝に対抗する自国の力についても。繰り返すが、私たちはそうしたことを、幻想を抱くことなく、極めて現実的に見ている。
 軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。また、防衛技術などのテクノロジーは急速に変化している。この分野における主導権は、今もこれからも、目まぐるしく変わっていくだろう。しかし、私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける、絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。
 すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。しかも、ここ数日、NATOの指導部は、みずからの軍備のロシア国境への接近を加速させ促進する必要があると明言している。言いかえれば、彼らは強硬化している。起きていることをただ傍観し続けることは、私たちにはもはやできない。私たちからすれば、それは全く無責任な話だ。NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。もちろん、問題はNATOの組織自体にあるのではない。それはアメリカの対外政策の道具にすぎない。
 問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。
 一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。誇張しているわけではなく、実際そうなのだ。これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。そんな中、ドンバスの情勢がある。
2014年にウクライナでクーデターを起こした勢力が権力を乗っ取り、お飾りの選挙手続きによってそれを(訳注:権力を)維持し、紛争の平和的解決を完全に拒否したのを、私たちは目にした。
 8年間、終わりの見えない長い8年もの間、私たちは、事態が平和的・政治的手段によって解決されるよう、あらゆる手を尽くしてきた。すべては徒労に帰した。先の演説でもすでに述べたように、現地で起きていることを同情の念なくして見ることはできない。今やもう、そんなことは到底無理だ。この悪夢を、ロシアしか頼る先がなく、私たちにしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。まさに人々のそうした願望、感情、痛みが、ドンバスの人民共和国を承認する決定を下す主要な動機となった。さらに強調しておくべきことがある。NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。彼らは(訳注:民族主義者ら)、クリミアとセバストポリの住民が、自由な選択としてロシアとの再統合を選んだことを決して許さないだろう。当然、彼らはクリミアに潜り込むだろう。それこそドンバスと同じように。戦争を仕掛け、殺すために。大祖国戦争の際、ヒトラーの片棒を担いだウクライナ民族主義一味の虐殺者たちが、無防備な人々を殺したのと同じように。彼らは公然と、ロシアの他の数々の領土も狙っていると言っている。全体的な状況の流れや、入ってくる情報の分析の結果が示しているのは、ロシアとこうした勢力との衝突が不可避だということだ。それはもう時間の問題だ。彼らは準備を整え、タイミングをうかがっている。今やさらに、核兵器保有までも求めている。そんなことは絶対に許さない。前にも述べたとおり、ロシアは、ソビエト連邦の崩壊後、新たな地政学的現実を受け入れた。
私たちは、旧ソビエトの空間に新たに誕生したすべての国々を尊重しているし、また今後もそのようにふるまうだろう。それらの(訳注:旧ソビエト諸国の)主権を尊重しているし、今後も尊重していく。その例として挙げられるのが、悲劇的な事態、国家としての一体性への挑戦に直面したカザフスタンに対して、私たちが行った支援だ。しかしロシアは、今のウクライナから常に脅威が発せられる中では、安全だと感じることはできないし、発展することも、存在することもできない。2000年から2005年にかけ、私たちは、コーカサス地方のテロリストたちに反撃を加え、自国の一体性を守り抜き、ロシアを守ったことを思い出してほしい。
 2014年には、クリミアとセバストポリの住民を支援した。2015年、シリアからロシアにテロリストが入り込んでくるのを確実に防ぐため、軍を使った。
それ以外、私たちにはみずからを守るすべがなかった。

 今もそれと同じことが起こっている。
きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を守る方法は、私たちには1つも残されていない。この状況下では、断固とした素早い行動が求められている。ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。
また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない。私たちは誰のことも力で押さえつけるつもりはない。同時に、ソビエトの全体主義政権が署名した文書は、それは第二次世界大戦の結果を明記したものだが、もはや履行すべきではないという声を、最近、西側諸国から聞くことが多くなっている。
 さて、それにどう答えるべきだろうか。第二次世界大戦の結果は、ナチズムに対する勝利の祭壇に、我が国民が捧げた犠牲と同じように、神聖なものだ。
しかしそれは、戦後数十年の現実に基づいた、人権と自由という崇高な価値観と矛盾するものではない。また、国連憲章第1条に明記されている民族自決の権利を取り消すものでもない。ソビエト連邦が誕生した時も、第二次世界大戦後も、今のウクライナの領土に住んでいた人々に、どのような生活を送っていきたいかと聞いた人など1人もいなかったことを思い出してほしい。私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。そして、今のウクライナの領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。これに関し、ウクライナの人々にも言いたい。2014年、ロシアは、あなた方自身が「ナチス」と呼ぶ者たちから、クリミアとセバストポリの住民を守らなければならなかった。クリミアとセバストポリの住民は、自分たちの歴史的な祖国であるロシアと一緒になることを、自分たちで選択した。そして私たちはそれを支持した。
 繰り返すが、そのほかに道はなかった。目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。
どんなにつらくとも、これだけは分かってほしい。そして協力を呼びかけたい。できるだけ早くこの悲劇のページをめくり、一緒に前へ進むために。私たちの問題、私たちの関係を誰にも干渉させることなく、自分たちで作り上げ、それによって、あらゆる問題を克服するために必要な条件を生み出し、国境が存在するとしても、私たちが1つとなって内側から強くなれるように。私は、まさにそれが私たちの未来であると信じている。ウクライナ軍の軍人たちにも呼びかけなければならない。
 親愛なる同志の皆さん。
あなたたちの父、祖父、曽祖父は、今のネオナチがウクライナで権力を掌握するためにナチと戦ったのではないし、私たち共通の祖国を守ったのでもない。
あなた方が忠誠を誓ったのは、ウクライナ国民に対してであり、ウクライナを略奪し国民を虐げている反人民的な集団に対してではない。その(訳注:反人民的な政権の)犯罪的な命令に従わないでください。直ちに武器を置き、家に帰るよう、あなた方に呼びかける。
 はっきりさせておく。
 この要求に応じるウクライナ軍の軍人はすべて、支障なく戦場を離れ、家族の元へ帰ることができる。もう一度、重ねて強調しておく。起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、ウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている。さて、今起きている事態に外から干渉したい思いに駆られているかもしれない者たちに対し、言っておきたい大変重要なことがある。私たちに干渉しようとする者は誰でも、ましてや我が国と国民に対して脅威を作り出そうとする者は、知っておくべきだ。ロシアは直ちに対応し、あなた方を、歴史上直面したことのないような事態に陥らせるだろうということを。私たちは、あらゆる事態の展開に対する準備ができている。そのために必要な決定はすべて下されている。私のことばが届くことを願う。
 親愛なるロシア国民の皆さん。
国家や国民全体の幸福、存在そのもの、その成功と存続は、常に、文化、価値観、祖先の功績と伝統といった強力で根幹的なシステムを起源とするものだ。
そしてもちろん、絶えず変化する生活環境に素早く順応する能力や、社会の団結力、前へ進むために力を1つに集結する用意ができているかどうかに直接依存するものだ。力は常に必要だ。どんな時も。しかし力と言っても色々な性質のものがある。冒頭で述べた「うその帝国」の政治の根底にあるのは、何よりもまず、強引で直接的な力だ。そんな時、ロシアではこう言う。「力があるなら知性は必要ない」と。
 私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。もしそうだとしたら、まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。このことに同意しないわけにはいかない。
 親愛なる同胞の皆さん。
自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。結局のところ、歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。それはつまり、下された決定が実行され、設定された目標が達成され、我が祖国の安全がしっかりと保証されるということだ。
 あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。(以上、NHK配信記事より)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 プーチンさんは2004年のオレンジ革命や10年後のマイダンについては多くを語らない。オデッサの虐殺についても一言も語らないが、開戦直前の演説でその思いを吐露していると言ってもよいのではないだろうか。ソ連解体後に飛び跳ねるように有頂天になってわが世の春を謳歌し、「世界はわがもの」との思いをそのままに世界中に火の粉をまき散らし始めたネオコン、例えば「ウォルフォウィッツ ドクトリン」、まさにその計画の途上でもあった2022年にプーチンさんは、この動きに異を唱えたともいえるだろう。ウクライナの戦いは一筋縄ではいかないが、そろそろ流血の“喜劇舞台”は閉じてしまわなければならない。ゼレンスキーさんの出番は終わった。(文責:吉田)


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台湾問題に対するトランプ政権の対応は流石である

2025-02-20 | 小日向白朗学会 情報
 2025年2月17日、ロイターは「米、「台湾独立支持せず」をサイトから削除 台湾は歓迎」とする記事を配信した。
『…
[台北16日 ロイター] - 米国務省は、台湾独立を支持しないとするウェブサイト上の記述を削除した。
13日に更新された台湾に関する最新のファクトシートで、「われわれは台湾独立を支持しない」との記述を削除したほか、米国防総省の技術・半導体開発プロジェクトへの台湾の協力に関する言及を追加し、米国は「該当する場合」に台湾の国際機関加盟を支持するとも記した。
台湾の電子機器企業は米テキサス州への投資拡大を計画中で、トランプ大統領の就任から100日に合わせて5月に発表する可能性がある。業界団体のトップが2月18日に明らかにした。2018年3月、台北で撮影(2025年 ロイター/Tyrone Siu)
台湾、中国の「いずれの側からの一方的な現状変更にも反対する」との立場は維持し、「台湾海峡両岸の相違が、強制のない平和的手段によって、両岸の人々が受け入れられる形で解決されることを期待する」とした。
台湾外交部(外務省)は16日、林佳龍外交部長(外相)が同ウェブサイトで示された「米台関係に対する支持と前向きな姿勢を歓迎する」との声明を出した。
米国務省や中国外務省はコメント要請に応じていない。
…』
 一方、この報道をもってトランプ大統領がペロシ前下院議長の訪台に端を発した台湾有事を煽ったバイデン政権の政策に回帰するとの見方は誤りである。トランプ外交を考察するにあたり、2020年8月13日にドナルド・トランプ大統領、アブダビ皇太子ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフが締結した「アブラハム和平協定合意」が重要な参考となる。同合意に「アブラハム」と冠した理由は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の始祖であるアブラハムが、ユダヤ民族(イサク)とアラブ民族(イシュマエル)の共通の父祖であるためである。
 この思想はトランプ政権の中東およびウクライナ政策の根底にあり、台湾海峡や朝鮮半島問題においても同様の枠組みである。トランプ政権は、1972年にニクソン大統領が中国を訪問し、1979年に米中が国交を樹立して台湾と断交した外交路線を踏襲している。しかし、中国大陸と台湾、いわゆる「一つの中国」という地域では、1945年以降、蒋介石率いる国民政府軍と毛沢東率いる中国共産党軍が第二次国共内戦を継続しており、現在に至るまで正式な休戦や停戦協定は締結されていない。この長期的な内戦状態が続いた要因の一つは、アメリカが蒋介石側に立って介入したことにある。
 1956年1月、毛沢東は「国共はすでに二回合作している。いま我々は第三回目の合作を準備している」と発言し、国共内戦が継続していることを認めた。中国人民解放軍は国共内戦を「解放戦争」または「革命戦争」と位置づけ、国民党政権の打倒を目的としていた。現代の人民解放軍は原油事業への関与、アメリカ政界への政治献金、病原菌研究への関与など国際的に問題視される活動を展開しているが、その根底には「祖国解放戦争」の継続という大義が存在している。この戦争状態が続く限り、人民解放軍の存在は保証され、異議を唱える者は「祖国解放戦争の妨害者」として徹底的に敵視される。
 バイデン政権は、この人民解放軍の盲目的な敵愾心を巧みに利用し、ペロシ元下院議長の台湾訪問を契機に台湾有事を煽った。その結果、日本と台湾は莫大な兵器をアメリカから購入するに至り、日本の自民党政権は防衛費の大幅増額に踏み切った。これに伴い、政府は他の補助金や税制優遇措置を縮小し、その結果として「6公4民」と揶揄されるような財政状況を招いた。こうした政策に対して国民の間では自民党への不信感が強まり、同党がかつての支持を取り戻すことは困難な状況にある。
 今回の「台湾独立を支持しない」という文言削除は、単にアメリカが中国の内戦問題に関与しない意向を示しただけではない。1945年以来続く国共内戦の終結を促し、両陣営が現状の支配地域を相互に確認することを求める明確なメッセージでもある。
 中国共産党と国民党の関係性に目を向けると、2015年11月7日、シンガポールにおいて中国共産党総書記・習近平と中華民国総統・馬英九が首脳会談を実施し、関係修復への道を模索した。しかし、それから10年が経過しても内戦状態が解消されなかった背景には、人民解放軍が自己の存在意義を保つため終戦に消極的であったことや、馬英九が自己保身と利権維持に執着していたことが大きく影響している。
 結局のところ、トランプ大統領の真意は「アブラハム和平協定合意」に通じるものであり、台湾と中国が国共内戦を終結させ、別々の国家として同一地域内で平和的に共存すべきだという考え方に基づいているのである。
 中国共産党と国民党は、早期に国共内戦終結に向けて努力し、人民解放軍の最大の任務である「祖国統一」から解放してやるべきである。これは人民解放軍にとっても負担軽減となり、ひいては世界平和への最大の貢献となるはずである。以上(寄稿:近藤雄三)
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チャットGPTに聞いてみました「池上さんはUSAIDから資金提供を受けているのですか」って????

2025-02-16 | 小日向白朗学会 情報
  チャットGPT無料版では次のように答えてくれました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
池上彰さんがUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)から直接的な資金提供を受けて情報発信を行っているという具体的な証拠は見当たりません。 しかし、池上さんが関与するメディア活動や組織が、USAIDと関連性を持つ可能性が指摘されています。 例えば、JICA(国際協力機構)はUSAIDと緊密な関係を持ち、池上さんがJICAの活動に関与しているとの報告があります。 また、池上さんが執筆した記事がJICAのPR記事として掲載されている事例もあります。 さらに、NHKがUSAIDが設立したメディアネットワークに参加しているとの指摘もあります。 これらの情報から、池上さんが関与するメディア活動がUSAIDと何らかの形で関連している可能性は考えられますが、直接的な資金提供を受けているかどうかは不明です。 したがって、池上さんがUSAIDから実質的な資金提供を受けて情報発信を行っているという主張には、現時点では確固たる証拠がないと言えます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さすが、チャットGPTでは下手な独断はしていないですね。(文責:吉田)


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トランプ大統領の相互関税。日本の場合は「消費税還付金」が問題となる。 自動車課税25%の可能性も!?

2025-02-16 | 小日向白朗学会 情報
  2025年2月14日、Reutersは「トランプ米大統領、「相互関税」を表明 日本やEUも調査対象」を配信した。
『……
[ワシントン 13日 ロイター] - トランプ米大統領は13日、米国の輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと発表した。同盟国と敵対国の双方を標的とした新たな貿易措置となる。
トランプ氏は相互関税の導入を公言してきたが、この日の指示は具体的な導入に至るものではなく、代わりに貿易相手国が米国製品に課している関税の調査開始を指示するもの。対応策の策定まで数週間から数カ月かかるとみられている。
対象には日本のほか、中国、韓国、欧州連合(EU)が含まれる。
トランプ氏は大統領執務室で記者団に対し「公平性の観点から相互関税を課すと決定した。各国が米国に課している関税と同額を課す。それ以上でもそれ以下でもない」と述べた。ホワイトハウスは、こうした関税措置は米国の経済、国家安全保障の強化につながるとの見方を示している。
トランプ氏は、他国が課している関税に対応する相互関税の算出開始と、非関税障壁への対抗措置を指示する覚書に署名。商務長官が国別に対応していくと述べた。
……』
トランプ大統領の真意を知る意味で、少々古いが次の記事が参考になる。
それは、「週プレNEWS」に岩本沙弓『最大の障壁は国内の反対勢力ではなくトランプ政権? アメリカが日本の「消費税引き上げ」を許さない理由』(2018年12月07日)という消費税とトランプ政権に関する記事である。
『……
米韓FTA、カナダ、メキシコとのNAFTA再交渉でアメリカに有利な条件を引き出したトランプ大統領が、日本の消費税を「非関税障壁」と見なすアメリカが日本にも厳しい条件を突きつけてくるのは必至?
短期集中シリーズ「消費税を疑え!!」2回目では消費税引き上げをめぐる、思わぬ「外圧」の正体に迫る! 来年10月からの2%消費増税を進める安倍政権に立ちはだかる最大の壁は国内の増税反対勢力ではなく......、アメリカのトランプ大統領だった?
なぜアメリカが日本の消費税に口を挟むのか? その背景を徹底解説する!
■消費増税に反対する「巨大な外圧」の存在
来年10月に8%から10%への引き上げが予定されている消費税。「深刻な財政難のなか、少子高齢化に伴い増え続ける社会保障費の財源を確保するには消費増税しかない」というのが、財務省や政府の一貫した主張だ。
一方、立憲民主党など野党の一部は「日本経済がいまだにデフレ脱却を果たせていない状態で消費税を引き上げれば経済に深刻な悪影響を与えかねない」と、増税に反対の姿勢を見せている。
ところが消費税の引き上げにおいて、こうした国内での議論とは別に日本が無視することのできない「巨大な外圧」があるという。それは消費税という制度そのものに否定的で、消費税を「非関税障壁」と見なすアメリカの存在だ。
「来年以降、『アメリカ・ファースト』(アメリカ第一主義)を掲げるトランプ政権との貿易交渉が本格的にスタートするこのタイミングで、日本が消費税10%引き上げへ向かえば、アメリカの強い反発を招くことは避けられません」
と語るのは、金融コンサルトで『アメリカは日本の消費税を許さない』(文春新書)の著書がある岩本沙弓(さゆみ)氏だ。
「日本やヨーロッパなど、約140の国と地域で採用されている消費税(日本以外では付加価値税と呼ばれる)ですが、実はそこに連邦国家アメリカは含まれていません」
ヘー、これだけ多くの国で採用されているのに、アメリカは国税として採用してないんだ。
「ただ、アメリカには商品の小売り段階でのみ消費者に課税する『小売売上税』という州税があります。しかしこれは、原材料の仕入れから、製造、流通、卸売り、小売りに至るまで、すべての商取引の段階で課税される『消費税』や『付加価値税』とは根本的に異なるものです。
アメリカでも過去何度も消費税導入が議論されたことがありますが、そのたびに退けられてきました。その背景には、消費税や付加価値税を『不合理で不公正な税制』ととらえるアメリカの考え方があります。そのため、この税制に関して、アメリカは一貫して否定的なスタンスを取り続けてきたのです。
もちろん、消費税を採用している国から見れば、アメリカは『少数派』ということになりますが、多くの政策で独自路線を突き進み、公平な市場環境を訴えるトランプ政権が『こちらに歩調を合わせるべきだ』と言いだしても不思議はないのです」(岩本氏)
■輸出企業への還付は不正なリベートか?
なるほど。すでに消費税や付加価値税を導入している日本やヨーロッパが常識だと思っていることが、アメリカにとってそうとは限らないということがよくわかった。
だが、アメリカが消費税導入に否定的だとしても、彼らが他国の税制に「不公正だ」「非関税障壁だ」と不満を訴えているのはなぜなのか?
その最大の理由は、日本も含めた消費税導入国が自国の輸出企業に対して行なっている「輸出還付制度」の存在だ。アメリカはこれを「自由競争の原則を歪(ゆが)める制度」だとして問題視しているという。岩本氏が解説する。
「先ほど説明したように消費税は仕入れから小売りまで、すべての段階で課税されます。そして事業主は基本的に、最終的な売り上げにかかる消費税(購入者から預かった消費税)から、その前の段階の仕入れなどにかかる消費税を差し引いた額を税務署に申告することになります。ただし、インボイス制度未採用(*)の日本で正確に計算ができるのかという問題がまずあります。
仕入れから製造までを国内で行なう企業がその製品を海外に輸出する場合、消費税は実際に消費が発生する輸出相手国の税制に沿って課されることになります。
仕入れの段階でも日本の消費税を払っているので、このままでは輸出相手国と国内とで2度消費税が課されることになる。そうした『二重課税』が起きないよう、輸出製品については仕入れなどにかかる消費税が国から還付されることになっています。これが『輸出還付制度』です」
(*)日本の消費税は、ヨーロッパの付加価値税のように取引に関する個々の請求書、領収書ベースで消費税額を計算するインボイス制度を採用していない。
例えば、日本の自動車メーカーが国内から部品を調達していれば、そのメーカーは国内の下請け企業に「部品代+消費税」を支払っていると見なされ、そのクルマを輸出して海外で販売した場合は、国内で払った消費税分が全額還付されるのだ。これは消費税制度のないアメリカに輸出する場合も例外ではない。
「そのアメリカはこの還付金を、政府が輸出企業に与える『実質的なリベート』だと見なしていて、強い不満を訴えています。消費税制度のある国からアメリカに輸出する企業は消費税免除により『輸出還付金』の形でリベートを受け取るのに対し、アメリカ国内の企業にそうした制度はなく、輸出先の相手国の消費税を課税されている。これがアメリカからすると『不公正だ』という主張です」(岩本氏)
ではアメリカにとって日本の消費税引き上げはどんな意味を持つのだろう?
「もちろん、こうしたアメリカ側の主張については、さまざまな異論もあると思います。しかし、あくまでアメリカ側の立場で見れば、日本の消費税の8%から10%への引き上げは、『日本の輸出企業へのリベートの引き上げ』と『日本向けアメリカ輸出企業への実質的な課税強化』ととらえることになる。当然、アメリカが強く反発するのは避けられないでしょう。
アメリカは日本だけ目の敵にしているわけではありません。欧州の付加価値税や日本の消費税のような間接税については還付制度を認め、直接税では認めないWTO(世界貿易機関)のルール自体を変えるべきだと主張しているのです」(岩本氏)
■自工会が増税支持から懸念表明に転じた理由
実は、そうしたアメリカ側の空気に最も敏感に反応しているのが、日本の自動車メーカーによる業界団体で、トヨタ社長の豊田章男氏が会長を務める「日本自動車工業会」(自工会)だ。
これまで基本的に政府の「消費税引き上げ」という方針を支持してきた自工会が、今年9月20日に発表した「平成31年度税制改正に関する要望書」では増税反対という明確な表現は避けながらも、消費税10%への引き上げについて国内市場縮小への懸念を強く訴えている。
岩本氏は、こうした自工会の消費税に対する姿勢の変化に、彼らの日米関係に対する「シビアな現状認識」が表れているとみている。
「韓国とのFTA(2国間貿易協定)の見直しに続いて、10月にはメキシコとカナダとのNAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新たな協定(USMCA)の合意にこぎ着けたトランプ政権が、『次のターゲット』として日本を視野に入れるのは当然でしょう。
日本はこれから、自動車関税25%への引き上げをチラつかせるトランプ政権と、2国間貿易協定の交渉に臨みます。しかし、前述したようにアメリカは日本の消費税に対して、強い不満や不信感を抱いている。
そんな状況で日本が消費税の引き上げを強行すれば、日米交渉のテーブルではアメリカ側が態度をさらに硬化させ、場合によっては自動車関税25%発動という、自工会にとって最悪のシナリオを招きかねません」
なるほど。アメリカはどこまで本気なのか?
「今年9月25日、国連総会出席のため訪米した安倍首相に同行した茂木敏充経済再生担当大臣がUSTR(アメリカ通商代表部)のライトハイザー代表と会談しましたが、このライトハイザー氏は消費税の『輸出還付制度』を一貫して不当なリベートだと訴え続けてきた人物として知られています。
安倍首相の訪米直前のタイミングで、自工会があえて『消費増税への懸念』を表明したのも、アメリカ側に配慮した自工会のメッセージではないかとみています。
また、先ほど述べたUSMCAでは、アメリカへの関税が免除される製品に関して『部品の現地調達率』などの条件が大幅に強化されており、これまでメキシコでの現地生産でNAFTAの恩恵を受けていた日本企業にとって、かなり厳しい内容になっています。
日本の自動車メーカーにとってはトランプ大統領の言う『メキシコ国境の壁』がつくられたも同然で、今後アメリカ市場での拡大があまり期待できないことを考えれば、『消費税引き上げで国内市場まで縮小されてはたまらない』というのが自工会の本音ではないでしょうか」(岩本氏)
もちろん、税制は日本の重要な「内政問題」だ。それに消費税を採用せず、輸出還付制度を不公正なリベートと見なすアメリカの考え方が必ずしも正しいとは限らない。
だが、世界にはアメリカのように消費税に対して否定的な超大国もあるということ。そして、そのアメリカの姿勢がさまざまな形で日米関係に大きな影響を与えかねないという現実があることは理解する必要があるだろう。
何しろ相手は「アメリカがルールだ」と公言してはばからないトランプ政権である。日本の税制をめぐる大切な議論が、日米貿易交渉の「取引材料」に使われる可能性もないとはいえないのだ。
……』
 それから7年が経過した。日本の消費税還付制度の実態は変わらず、アメリカの現大統領も「アメリカ・ファースト」を標榜している。このため、7年前にアメリカが主張した「自由競争の原則を歪める制度」という見解は、現在も有効であると考えられる。
したがって、トランプ大統領のいう相互関税の対象には、日本からの輸入車に対する「自動車関税25%」の適用が含まれる可能性がある。今後の展開によっては、日米貿易交渉がさらに緊迫することが予想される。
トランプ大統領の真意は、今後徐々に明らかになっていくだろう。以上(寄稿:近藤雄三)
「図1.輸出企業に対する還付金」

出所:国商工新聞:https://www.zenshoren.or.jp/2023/11/27/post-29301」
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八潮市の道路陥没問題は、2001年に資金運用部資金法を改定したから!

2025-02-06 | 小日向白朗学会 情報
 2001年まで「財政融資資金法」が存在していた。同法の第一条には次のように定められていた。
『……
 第一条
この法律は、財政融資資金を設置し、政府の特別会計の積立金及び余裕金その他の資金で法律又は政令の規定により財政融資資金に預託されたもの、財政投融資特別会計の財政融資資金勘定の積立金及び余裕金並びに当該勘定からの繰入金を統合管理し、その資金をもつて国、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人に対して確実かつ有利な運用となる融資を行うことにより、公共の利益の増進に寄与することを目的とする。
……』
 しかし、2001年の財政投融資改革により、財政投融資制度の資金調達方法や事業対象が抜本的に見直された。その主な内容は以下の二点である。(「図1.2001年財投改革」)
  1. 郵便貯金・年金積立金の運用部預託義務の廃止
     いわゆる「入口」と「出口」の切り離しを行い、政府保証のない財投機関債の発行を導入。これにより、資金調達を「市場原理」に基づくものとした。
  2. 「政策コスト分析」の導入
     事業の全期間にわたる補助金投入額を試算する仕組みを導入した。
 この改定により、財政投融資を行うためには国債を発行し、金融市場から資金を調達する方式へと移行した。その結果、「資金運用部資金法等の一部を改正する法律」が制定され、「資金運用部資金法」の第8条から第11条までが削除された。これにより、以下のような財政融資資金の運用対象が廃止された。
『……
第十条 財政融資資金は、次に掲げるものに運用することができる。
一 国債
二 国に対する貸付け
三 法律の定めるところにより、予算について国会の議決を経、又は承認を得なければならない法人の発行する債券
四 前号に規定する法人に対する貸付け
五 地方債
六 地方公共団体に対する貸付け
七 特別の法律により設立された法人(第三号に規定する法人を除く。)で国、第三号に規定する法人及び地方公共団体以外の者の出資のないもののうち、特別の法律により債券を発行し得るものの発行する債券
八 前号に規定する法人に対する貸付け
九 外国政府、国際機関及び外国の特別の法令により設立された外国法人の発行する債券(次項において「外国債」という。)
 十 財政融資資金をもつて引受け、応募又は買入れを行つた債券であつて政令で定めるものの金融機関その他政令で定める法人に対する貸付け
……』
 この改定により、郵便貯金や年金を財源として財政投融資を行うことができなくなった。従来、地方自治体は地方債を発行し、政府資金を活用して上下水道などのインフラ整備を進めてきた。しかし、2001年以降、政府資金を利用することができなくなり、自治体が自ら資金を確保しなければならなくなった。その結果、規模や財務状況によっては資金調達が困難になる自治体が現れるようになった。
 こうした状況下で政府が推奨したのが、「コンセッション方式(公共施設等運営権)」である。同方式は、公共施設の所有権を公共主体が保持したまま、運営権を民間事業者に付与するという仕組みだが、実態としては公共財の切り売りにほかならない。(「図2.コンセッションのイメージ」)
 財政融資資金法の改定により、地方自治体が上下水道整備の費用を自前で賄わなければならなくなったため、資金不足により老朽化したインフラの維持管理が困難になった。その結果、多くの自治体がコンセッション方式を採用せざるを得なくなったのである。つまり、八潮市の道路陥没問題も、政府の財政投融資制度改革によってインフラ投資が制限されたことが根本原因なのである。
年金運用の問題点と財政投融資の意義
 現在、年金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用しているが、その実績は運用開始以来年率4.26%程度にとどまる。一方、政府が財政投融資として国債を発行し、5%程度の金利で運用すれば、はるかに安定した資金確保が可能となる。これにより、インフラ投資を通じた公共サービスの向上と、年金資産の安定運用を両立できるはずである。
 GPIFの運用利回りが4%前後にとどまるにもかかわらず、財政投融資のための資金調達を市場原理に委ねたことで、年金積立金の活用が制限され、財政投融資の規模が縮小された。この結果、財政投融資制度が弱体化し、地方自治体は資金調達に苦しむこととなった。
 政府は今後、八潮市のインフラ問題を増税や使用料の引き上げによって解決しようとするかもしれない。しかし、この論理には決して乗ってはならない。本来、財政投融資制度を適切に活用すれば、地方自治体のインフラ整備を安定的に支援できたはずである。2001年の財政投融資改革が地方財政と公共インフラの脆弱化を招いたことを認識し、根本的な制度改革の必要性を議論すべきである。
以上(寄稿:近藤雄三)
【参考】
図1.201年財投改革
図2.コンセッションのイメージ
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