■こならの森70号■1993.2発行
C・o・n・t・e・n・t・s
■こならの森3月号■
おぞねとしこのポエム………………3
結婚しました…………………………4
見知らんの5つの市…………………5
特集 現代の迷宮を探る…………6
JC・JOURNAL………………14
協賛店マップ…………………………16
インフォメーション94………………18
お得な情報コーナー…………………20
こならの森2月の情報………………22
海棠市子の辛口映画評………………24
書評・絵本紹介………………………25
MINIニュース……………………26
「ロッキンオンこなら」……………27
「こならの森流・マスメディア論」28
杜 皇が占う今月の運勢…………29
新・こならの森から…………………30
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【本文抜粋記事】
特集 現代の迷宮を探る
馬門町
その日の、日常的な一日とは別な時間をもつことによって、崇高な時間を供与することができる。それは、趣味に没頭することでも、ほとんどむだだと思えること、あるい非生産的で、発展性のないものであってもである。どこかに、日常とは掛け離れた世界を持たないことには、この複雑化された現代を生きて行けるはずはない。
新年早々こならの森編集室に届いたのは、年賀状よりも先に、佐野市大祝町在住T氏からのファックスだった。後に電話も入る。年末に集金をするため、東の産業道路を南に向かい、その帰りにとても信じられない町に迷い込んでしまったというのが、彼の電話の内容だった。
ファックスには、そのとき撮ったのだという写真があったが、解像力も悪く何が写っているのかまったく分からなかった。しかし、それがまた、好奇心を刺激したのかもしれない。ともかく、これでは何も分からないので、T氏の自宅まで出掛けることにした。写真もじっくり見てみたいし、どういう町だったのか詳しく聞いてみたくなったからだ。
T氏は、先頃足利市で結成されたミステリー・サークル「ロックホー」に所属しており、ルート293の霊魂や、みかもやまレジャーランドの幽霊といった市内の怪奇現象に詳しく、それをこならの森の企画に取り上げてほしいと何度か編集室にも電話をかけてきていた。
早速に写真を見せて欲しいと言ったのだが、あいにく「ロックホー」の会報に掲載するため、ほとんど送ってしまったという。しかたなく、残った写真数枚と、ネガを借り受け、それを見ながらいったいどういう町なのかと想像してみた。
彼が言うのは、まったく明治時代が、現代にタイムスリップして来たみたいなのだという。
「ともかく、集金が終わってほっと一息、さて会社まで戻ろうと思ったとき、どこをどう間違っ
たのか途方もな町に迷い込んぢまった。冬でも、昼下がりに日の光を受けながら、ぼやーっと車を運転していると、つい眠くなるまでも、伸びやかな気持ちになるもんじゃありませんか。そんな時に、帰る道を一つ間違えたんだと思いますよ。確か。回りは、全くの農村風景で、最初は『迷宮』だなんてとっても信じていませんでした。でも、河川敷沿いに車を走らせると、
とても想像できない出来事が始まったんです。」
………彼の体はかすかに震えているように思えた。目も笑っていない。いつもクールな男を自認する彼のこと、これは何かあると思った。とにかく彼らしくなくいつにもなく、取り乱している風だったのだ。
佐野に生まれて、佐野に育ったのだからこの辺の地理には詳しい。だから、〃佐野市内〃ならどこでも頭にあったはずだった。ちょっとくらい道を違えても、だいたいどこら辺りということは分かる。だからこそ、尚のこと気にかかったのかもしれない。と彼は言う。まったく見当違いだったのだ。もしからした、四次元空間とまでいわなくても、佐野市ではないところへ迷い込んだのかもしれないという。
そこまでいうのならこれは調査してみる甲斐はあると思った。 さっそく、忙しい激務の間を縫って、彼にも同行取材をお願いした。しかし、なかなかその地点の入り口が見つからない。現地に行って、地図を広げ見当をつけていた地点までやって来ていた。ここら当たりがその辺だと思うという東の産業道路をとにかく南に向かってみた。
佐野市と藤岡町の境まで来た。この辺あたりから、おかしくなったというのだ。まさしくこれは、「タイムゾーン」というやつだろうか。
ぼやーっとした頭のまま、居眠り運転ともつかないで、流れのままにハンドルを握っていると、いつしかあの町に紛れ込んでいたというのが真相らしい。こんなことはよくある。知らない土地で、地図を見ながら進んでいてぼやっとしていると、とんでもない方向へ進んでいても全く気が付かない。ということはよくあることだ。なんのことはない、私だって間違いないと思い込んでしまって、流れのまま前進して、どうもおかしいな、でも間違いないから、と言い聞かせ結局途方もない引き返せない所まで進んでしまったということをよく経験していた。
しかし、彼の出来事は佐野市内かあるいは〃そう遠くない〃地点での話だと聞く。いくらミステリーに興味があるからといって、この佐野市内でそんな事があるわけがない、というのが私(編集長)の意見なのだが。
その、佐野市と藤岡町との境目地点から、あちこち脇路を入ってみたり、引き返してみたりを繰り返したのだが、どうも彼の見た町の風景とは違っているという。ことわっておくが、この辺りの農産村風景は、関東平野ならどこでもみられる風景であり、農産村風景の村落の中に突如として、庄屋の大屋敷が現れたり、大谷石造りの歴史的な大倉庫群が君臨するといったことは決して珍しくはないのだから、これといって珍しがるところでもないというのが、私の見解だが、彼は納得しない。まだ半信半疑の様子。日が暮れるまでには、その〃迷宮〃の入り口を探し当てるといっていたが、どうも午後四時にもならないうちに、彼は急用が入ったらしく、携帯電話を切ると、いそいで帰っていったのだった。ここまで来てと思ったので、もう少し辺りを散策した後、帰路についた。これでは仕方ないと半ばあきらめながら、日が陰る方向へ向かって車を走らせていると、彼が力説した風景だと思える町並みが突如として迫って来た。
あわてて彼の携帯電話に連絡するが、応答がない。会社に電話を入れると、どうやら携帯電話は事務所にあづけていて他の会議に出席しているらしかった。こんなときに、と思ったが、これでは確認できない。しかし、「信じられないような、農寒村なのにちょっとした集落に時代を思い起こさせる、あるいは明治時代初期にタイムスリップしたと思えても不思議ではない風景が展開した。
「その風景の中に突如として、郵便局が表われた。」
「いわれありそうな寺院と、五百年はたったであろう樹木に覆われた鎮守の森の神社があった」「旅館や、洋品店といった店が当時のままの構えで営業していた」さらに「近代的な鉄筋建築の小学校があった。」
「それに付属するこれまた近代的な地区公民館も建っていて面食らってしまった。」いきなり現代に引き戻されたというのだ。 これは、まぎれもなく彼が口にしていた迷宮そのものではないか、しかし、どこかで見たことがある場所だなと思った。
それは、この角を曲がったときにはっきりとした。
昔見た映画で、自分が探していた極悪犯は実は自分自身だったという、なんともミステリアスであり、ホラーなものがたりだったが、これがまったくそのとおりになるとは思っていもいなかったのだが、この続きは次回に。