K.H 24

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短編小説 オールドストーリー

2020-03-31 14:14:00 | 小説



①誕生

地球上で、我々の先祖である霊長類が出現したのは約6500万年前と言われてる。そして、アフリカ大陸中央部のチャドで約600万年から700万年前と推測される人類の頭蓋骨が発見された。
 そして、哺乳類の多くは、雄と雌、男性と女性と言った性別があり、その異性が生活を共にする事で新しい命が誕生する事実が生じた。
 人は、直立二足歩行を獲得し、他の動物と比較するとユニークな脳の発達が可能になった。遺伝情報は、その枠組みくらいの情報しか持たないものの、この重力下環境の基、運動発達と共に脳を構成する神経細胞のストラテジーは個性的になった。また、社会環境や教育環境で脳は可塑的変化を持てるまでに進化した。
 そして、直立の姿勢では、胸部、腹部が視界に入り、股関節が伸展位保持するため、男女の性器も身体の前面に移動し、それらが男女のセックスアピールともなり、愛情が生まれた。男女が見つめ合い、胸部、腹部、性器を視覚的に捉える事で愛情が湧き上がるようになった。更には、言語化が可能となり、愛情表現は様々な像(かたち)を現した。
 しかし、現在に至っても、この進化は、失敗であった事を誰もが疑わず、当たり前かのように捉え、疑問すら持たない事態となってしまった。
 地球に生命体が誕生したのは、大気中の二酸化炭素、窒素、水が火山活動からの雷、いわゆる電気刺激と、太陽光線からの光刺激がアミノ酸や核酸塩基、糖と言った生命の材料である有機物を作り出したのが始まりで、単細胞生物が誕生した。その中のシアノバクテリアはクロロフィルで、光、二酸化炭素、水を利用して光合成し、酸素を発生させた。また、その増加した酸素の一部は雷との反応でオゾンとなり高度約25km上空にオゾン層を作り出した。すなわち、地球上の大気の酸素濃度が増え、太陽光からの紫外線照射が減少したのだ。 
 このように大酸化事変により、地球上の環境が劇的に変化し、多くの生物は、酸素から有害な恩恵を受ける結果となるが、酸素を上手く利用して生命活動を営むプロテオバクテリアが現れた。このバクテリアは、様々な真核生物に共生し、細胞小器官であるミトコンドリアとなった。
 ミトコンドリアは、細胞小器官にも関わらず、独自のDNAを持ち、ATPの生成以外にも細胞のアポトーシスや諸生命活動に重要な役割りを果たしている。例えば、ヒトの肝臓、腎臓、骨格筋、脳等、代謝が活発な細胞には数百、数千のミトコンドリアが存在し、細胞質の約40%がそれで、また、全身の体重の10%がミトコンドリアとも言われている。
 言い換えれば、地球上の大酸化事変がミトコンドリアの重要性を高め、多くの生命体はそれと共生せざるを得なくなった。したがって、元々、バクテリアの一種であったミトコンドリアがカラダの中で独自に活動し始めると多くの生命体がそれぞれのカラダを乗っ取られる事が懸念され、『パラサイト』として小説や映画に取り上げられたのだった。
 実は古の地球上に誕生したミトコンドリアは、好んで共生の道を選んだ訳ではなかった。古代の生命体は、我々が解明出来ない手段でコミュニケーションを取っていた。現在の学者でも細胞は意志を持つと主張する者もいる。
 ミトコンドリアを自分のカラダに取り込み、進化した節足動物が誕生した。共生ではなかった、命を繋ぐ手段でミトコンドリアの意識に反し取り込んだのだった。
 そのカラダは、紫外線の影響から全体は黒色で、眼は触角のように色んな方向に動き、眼腕は自由に伸び縮みする。これは、顔の位置が地面に近いからで遠方の敵や捕食対象を視覚的に捉えるよう発達した。また、その根元は蟷螂のような中央が最も厚みを帯びた逆正三角形の2つの上角に付いている。そして、下方に一角は横に広がる2つの牙が開閉し他の生命体を捕食する。特に、一定の生物を捕食する訳ではなく、時には共喰いさえしてしまう。その牙の後ろ側に綺麗な二等辺三角形のカラダが頭の6倍くらいの長さまで伸び、色合いからもステルス戦闘機の横幅を縮め、中心に膨みがある。
 移動の仕方は、前肢の先が2本の鉤爪になっていて二軸性の関節になっていて、広げると二等辺三角形のカラダと同じ長さで、その中央に一軸性の関節が見られる。そして、後肢は、それの倍以上の長さだか、同じように中央に一軸性の関節が存在する。よって、カラダの尾側が重く、長い後肢でカラダを支え、前肢は口の近くに被捕食生物を見つけると鍵爪で捉え、牙に運ぶ役割りとなっている。したがって、カラダ全体の重心を後方に位置させ長い後肢を細かく動かして、前肢は進行方向にあるものを識別するように、テクスチャーを探っている。普段は速いスピードで移動出来ないものの、危機的状況下や遠方に捕食対象をみつけると、後肢の脚力でジャンプし、そこから逃避したり、対象生物を捕らえるのだ。我々が知る昆虫に例えると、羽がなく空を飛べない、蟷螂が四つ脚で地面を這うように移動し、時には後肢でジャンプし遠くへ移動すると言った印象だ。そこで、呼び名をここでは黒さと顔、カラダ、四肢が三角形を作ってるように見える事から『クロサンカク』と名付ける。
 一方、ミトコンドリアを避けた生命体がいた。それらは、クロサンカクより大きなカラダを持つ哺乳類で、光合成と解糖系でエネルギーを産出していた。したがって、日光が当たる面積を広くするため、カラダの大型化が必要だった。特に、空へ向かって縦へ伸び、後肢は下肢となり前肢は上肢となった。まるでヒトのような見た目である。クロロフィルが体表を覆いその上、水分量が全身の85%以上を占め、ゼリーのような、グミのような透明感がある。しかし、骨や内臓等は透けている訳ではない。それと女性である。いや、性別が無いのだ。加えて、感覚-知覚-運動過程が確立し大きな眼と手の協調動作、更に、左右の手の合目的的な協応動作が可能である。これは、ヒトのように頭の位置が上方にあり、視界が広がり、両手をカラダの中央で使うようになり、更に、平衡感覚も発達し、脳活動が増加したからであった。それに反して、鼻は、左右の眼の間の下に2つ小さな孔があり、口も小さい。ここでは、『グリフィル』と名付ける。
 さて、ミトコンドリアを細胞に取り込んだクロサンカクは、どのような進化を遂げたのか。先ず、脚力が増しジャンプする距離が増した。その時に前肢を広げ方向を調整するようになり、コウモリのような羽が前肢から脇腹の間に生えて来た。そのため、地面での移動がし辛くなり、木の上や絶壁の飛び出した岩の上で過ごす事が多くなった。高い位置に身を置き、眼腕を伸縮させる必要がなくなったが、眼球が大きくなった。低い位置に居る捕食対象を視覚的に捉えるためだ。
 また、繁殖期には雄が雌と交尾した後、雄は射精眠、いわゆる冬眠のような状態に入る。これは、雄の射精にはかなりの体力が必要で、その後は空を飛んで移動する事が出来なくなる。よって、力つき他の生物に食べられてしまうか、死に尽きて土へ帰ると言う状況に陥る。したがって、意中の雌をみつけると、求愛行動を取りながら3日かけて地面に穴を掘り寝床を作る。そして、出会って4日目に1日かけて交尾する。その後、掘った穴に埋まり3ヶ月間仮死状態になるのだ。中には雌に見染められない雄もいたりと、クロサンカク達は、身を守る備えが優れてるか否かを基準に遺伝子を残しているようだ。
 交尾を終えた雌は、数体の雌同士で木の上に巣を作り、出産を待つ。約40日後に子を産み、その雌から食料調達役や敵からの防衛役を担い、新しい命を育んでいく。基本的には1体しか出産出来ないため、子が巣立ちする約半年間は、雌同士巧みな連携を取る。しかしながら、互いの出産のタイミングが悪いと、バランス良い役割分担が出来ないため、全滅の可能性が高まる。正に弱肉強食である。とは言え、雄よりは産前産後の雌は体力がある。だが、産まれてすぐの子にも自分達と同じ物を食べさせなくてはならず、『攻め』と『守り』の雌達の協力体制は必須である。
 一方、ミトコンドリアを拒絶したグリフィルの繁殖期は、性別が女性のみで、かつ、捕食対象がなく水分を口から補給すれば充分な訳だから、ただ、水が豊富でカラダを隠せる緑が生い茂る場所、更には、酸素が薄い環境に限定されてしまう。しかしながら、光合成で酸素を大量に産生する森には身を隠せず、主に、湿気が多く苔が茂った場所が選ばれる。グリフィルにとってそのような環境は個体数と比し少ないため、一生涯繁殖活動が出来ない個体が少なくは無い。それらは、自分のカラダを食料として繁殖行動をするグリフィル達に自ら提供する。それは、雨量が極端に少ない場合に限るが、種の保存に対して懸命な思想を持っている。
 また、グリフィルの体内には、ヒトで言う精巣と卵巣を持ち合わせていて、光合成が秀でた機能を備えた個体が母親となる。そして、その優れた光合成を発揮出来る個体には、3体のグリフィルが付き、4体で生殖行動、子育てをしていく。
 生殖行動は、先ずはグリフィルの生殖器はヒトの形に似ており、膣があり子宮まで繋がっている。そして、母親になれない個体は、陰核が勃起し、ヒトの男性器のように膣へ挿入し精子を射精する。要するに、1個体のグリフィルに3個体のグリフィルが勃起した陰核から子宮へ精子を放出する。この行為はヒトとは違い瞬時に終える。そして、精子を受けたグリフィルは、3つの卵子に精子を受精させ子宮壁に24時間以内に着床させる。これで生殖活動は終了となる。そして、約90日後に出産する。確実に3体の子が産み落とされる。100%の出生率である。
 子を産んだ母親は乳房が産前の約2倍にまで肥大し、乳首と乳輪の色が新生児が見分け易い真っ白に変わる。因みに母乳の色はクリアグリーンである。そして、1月程度授乳し、3体の子に優れたクロロフィルが引き継がれ、2月目から光合成が可能となり水を飲み始め、1歳になると、親と同じ身長になり親離れする。
 こう言った生命体が地球の奇跡的な環境から誕生した。しかし、その後、恐ろしい事態が偶然なのか、必然なのか、誰もが判断し得ない事が起こってしまう。

つづく
次回、最終話『争いの果てに』