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ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

成瀬は信じた道をいく

2024年05月05日 | 読書
びわ湖観光大使の制服の成瀬にひとめぼれ。ざしきわらしさんの描く装画の成瀬も、この作品の大ヒットに大きく貢献していると思います。

ミステリ趣向の作品もあって、第一作よりおもしろさはさらにグレードアップしています。

シリーズ第二作は五章構成。

「ときめっ子タイム」
語り手は、大津市立ときめき小学校四年生の北川みらい。前作の最終話、成瀬と島崎の漫才コンビ「ゼゼカラ」が司会を務める「ときめき夏祭り」で、マイメロディのピンクの財布をなくして、泣きながら探していた少女です。幕間の成瀬に声をかけられ、本部に届いていたお財布を受け取って以来、「ゼゼカラ」はみらいの「推し」となっています。総合学習の時間「ときめきっ子タイム」で取り上げることにしたのは、ときめき小の先輩でもある成瀬・島崎の「ゼゼカラ」です。
この取材をきっかけに、みらいは成瀬に弟子入します。みらいと野原結芽(ゆめ)ちゃんとの関係は、成瀬と島崎を彷彿させるものもありました。

ときめき小学校はさすがに実在しないようですが、ときめき坂は実在していました。

作者の宮島未奈氏が、成瀬あかりにインタビューするという趣向の舞台の膳所(ぜぜ)の紹介記事より。

駅前のロータリーにはさっそく「ときめき坂」と書かれた地名碑が立っている。ときめき坂は琵琶湖方面になだらかに下る五百メートルほどの坂で、膳所駅と今はなき西武大津店を結んでいた。
「成瀬さんはときめき坂のネーミングをどう思いますか」
「わたしが生まれたときからときめき坂だから、良し悪しを考えたことがないな」
 公募でときめき坂と名付けられたのは1989(平成元)年のこと。西武大津店の売上高のピークが1992年度だったというから、当時のヤングはまさに胸をときめかせて坂を歩いていたに違いない。現在も飲食店や医療機関が建ち並んでいるが、土曜日の昼間でも人通りはまばらだ。


「ときめき坂」かあ。バブルの香りがしますね。当時はバブル崩壊直後とはいえ、まだその余燼は残っていました。ただ、当時「ヤング」だった私も、このネーミングセンスには、考え込んでしまいます。まあ、生まれたときから「ときめき坂」なら、良し悪しなど考えないものなのかもしれません。

「成瀬慶彦(よしひこ)の憂鬱(ゆううつ)」
京大入試を2週間後に控えた成瀬。しかし、家族共用のパソコンに残された、「京都 一人暮らし 物件」の検索履歴。京大までは電車とバスで1時間。当然、自宅から通うと思っていた父・慶彦の憂鬱が始まります。ちょっとしたミステリ仕立ての作品です。

「やめたいクレーマー」
語り手は呉間言美(くれまことみ)36歳。平和堂フレンドマート大津打出店の常連にして、常連クレーマーです。この日のクレームは、レジで自分の順番になったのに、すでに会計を終えたご婦人がレジ袋を持ってきて精算を始め、3分のロスが生じた、というもの。レジの優先券は自分にあり、ご婦人も列に並び直すべきではないのか、というものです。「レジあるある」ですね。そんな彼女が、飲酒禁止のイートインスペースでストロング缶を飲んでいる男性を見つけ、またお客さまの声を記入していると、「君が呉間言美だな」と話しかけてくる若い女性店員がいます。平和堂フレンドマートでバイト中の京大生・成瀬あかりです。
本作の後段では、成瀬は話そうと思えば敬語で話せることが明らかになっています。呉間が店内で見かけた万引き犯のことも「お客様」扱いする常識も持ち合わせています。それなのに、なぜ年上、常連客の呉間には、タメ口で、呼び捨てなのか(途中から「氏」付けにはなっていますが)。なぜこの話し方になったのかは興味深いですね。


「コンビーフはうまい」
びわ湖大津観光大使の選考会場から物語はスタート。語り手は成瀬とともに観光大使に就任する篠原かれん。冒頭で、大学合格発表を控えた成瀬が、スマホを持っていないことが明らかになります。「コンビーフはうまい」は、彼女の自宅の電話番号の語呂合わせです。父は大津市議会議員、母の実家は大津でも有名な和菓子屋、母も祖母も観光大使。篠原にとって十九歳で観光大使になることは生まれたときからの定めでした。
実は鉄道好きの篠原のキャラクターがいいですね。島崎とは違った意味で、生涯の親友になりそうな予感がします。

「探さないでください」
大トリの本編の語り手は、久しぶりに大津に帰ってきた島崎。大晦日の日、成瀬の母だけに連絡して、成瀬本人にはサプライズで泊まりに来たのです。しかし、成瀬は「探さないでください あかり」という謎の書き置きを残して姿を消してしまったのです。大学入学とともに母に契約してもらったスマホも置きっぱなし。しかし愛用のけん玉とびわ湖大津観光大使の制服が部屋からなくなっています。この年末に観光イベント? 最初は成瀬父と島崎の二人、そこにみらいが加わり、フレンドマートで呉間夫妻に出会い、最後に撮り鉄に混じってラッピング列車の撮影をしていた篠原も加わって、「成瀬捜索班」が結成されます。しかし何の手がかりもなく、成瀬父・島崎・あかり・篠原の四人が成瀬の自宅に戻って昼食のそばをたぐっていると、関ヶ原古戦場の「天下統一スタンプラリー」会場のテレビ中継に、観光大使コスチュームの成瀬の姿が。「成瀬ガチ勢」のあかりは、次に向かうスタンプ会場はまだ成瀬が行ったことのない名古屋と予想、四人は名古屋をめざすのでした。
成瀬は一体どこに行こうとしているのか。意外な結末には、思わずうなされました。
島崎が篠原に出会い、「成瀬の相方は自分しかいないと思っていたのに」と軽く嫉妬しているところがよかったですね。しかしその嫉妬は、すぐに好意に変わります。観光大使の立場でカムフラージュしているとはいえ、鉄道好きを隠さなくなってきたところも、成瀬の影響でしょうか。

弟子のみらい、パートナーの篠原、ツンデレの呉間、本作でも新しいキャラクターたちが登場しましたが、しかし幼なじみの島崎は別格のようです。成瀬は本当に島崎が好きなんだなあと再確認できた一作でもありました。

作者の宮島美奈氏のインタビューによれば、成瀬シリーズは、現在連載中の第三作で完結のようです。少しさびしい気もしますが、それくらいが妥当なのかもしれませんね。次回作は恋愛小説だそうです。守備範囲外ですが、心理描写が実に巧みで、久しぶりに恋愛ものも読んでみたくなりました。




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