今日もお母さんのお店へ。
今夜も結局2時間近く過ごしたのかな。
帰り道がわからなくなり、弊社の受付を訪ねてきたおばちゃんの話から、『鶴瓶の家族に乾杯』のロケ地の三条とお隣の燕市の確執と、話題が尽きません。そして、このあたりの昔の話に。
「昔はお風呂なんかひと月に一回だけやったで。このあたりも畑ばかりで、銭湯、遠かったもん」
と、お母さんがいうのに、そういえば、私の家にも風呂はありましたが入浴は週に一、二回だったことを思い出しました。毎日お風呂に入るようになったのは、「朝シャン」が流行り始めた1980年代以降かな?.
そんな話から、小説にしようと構想中の、摩耶山に暮らしていたというある家族をモデルのはなしになりました。彼らが麓の町の銭湯に行くのは、冬の間は月に一度のぜいたくで、その他の季節は渓流で水浴びしていたのだろう、と私は語りました。その彼らが暮らしていたかもしれない廃墟を自分は探索しているのだ、と。
「その廃墟って、どこにあるん?」
お母さんがなぜかその話題に食いついてきました。某有名ゲーム会社に勤務のお孫さんが、ロケ地になりそうな廃墟を探しているんだそうです。イメージに合致しそうな、れんのハイキング日誌でもおなじみ?の「廃墟の女王マヤカン」こと摩耶観光ホテルを紹介しておきました。
お母さんがお孫さんに話を聞いたのはかなり前のようなので、もう解決済みかもしれません。しかし大阪生まれで、今やワールドワイドに活躍するお孫さんには、マヤカンを知っておいてほしいな。いつかマヤカンがホラーゲームに登場するかも?
お母さんは滋賀県にセカンドハウスを持っています。
「お母さん、『成瀬は天下を取りにいく』、知ってる?」
と、質問すると、本好きのお母さんも知っていました。テレビで本屋大賞を受賞したことが報じられていたらしいですね。滋賀県が舞台ということで、気になっていたらしいです。
ネタバレにならない程度に紹介すると、興味津々だったので、早速本をお貸しする約束をしました。これで最近出た続刊も買うモチベーションも高まりますね。
『成瀬は天下を取りにいく』は、滋賀県大津市膳所に暮らす、一風変わった女の子の成瀬あかりを、同じマンションで生まれ育った幼なじみの島崎みゆきの視点から描いた青春ストーリーです。新潮社のサイトの紹介文より。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
古風でときに尊大に聞こえる男ことばの成瀬の口調は、作中ではRPGの村人にたとえられていますが、私が思い出したのは、『マギアレコード魔法少女まどか☆マギカ外伝』の和泉十七夜(いずみかなぎ)でした。
元々、気になっていた作品ではありますが、『リコリス・リコイル』の魅力を教えてくれた百合の伝道師(二世)氏が、本書に言及していなければ、私は本書を手に取ることもなかったでしょう。
私もいろいろ小説を読んできたほうですが、『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬は、はじめて出会うタイプです。
本書を読んで、『魔女ジェニファと私』と『光抱く友よ』のふたつの作品を思い出しました。
しかし、1960年代後半発表のE.L. カニグズバーグ『魔女ジェニファと私』のジェニファは白人社会の学校でただひとりの黒人であり、語り手のエリザベスは白人でした。
『光抱く友よ』の語り手の涼子は小市民育ちの優等生ですが、不良少女の松尾は、シングルマザー家庭、母親はアルコール依存症。涼子と松尾の間にも、越えがたい断絶があります。
しかし、『成瀬』の成瀬と島崎は、同じマンションの住民で、家庭環境そのものには、そんなに差異はないんですよね。
『成瀬は天下を取りにいく』は、以下の6章構成です。
ありがとう西武大津店
膳所から来ました
階段は走らない
線がつながる
レッツゴーミシガン
ときめき江州音頭
「ありがとう西武大津店」は、ここで試し読みできます。
M-1出場をめざして、島崎も巻き込んで漫才コンビを結成する「膳所から来ました」もよかったです。
「レッツゴーミシガン」のミシガン号には、もう何年も前になるのですが、労組の厚生行事でみんなで乗りに行きました。
ミシガン号の旅は楽しかったなあ。だれでも舵を自由に動かせるスペースがあるのですが(もちろん、本体の運行には影響ない)、あのとき、大喜びで舵を切っていた幼稚園児のKくんも、今や小学六年生。私も年をとるわけです。
同じ小中学校出身で、高校でクラスメートになる大貫視点の「線がつながる」も、女子の関係のややこしさが丹念に描かれてよかったです。大津っ子が東京に行ったら訪ねる聖地といえば……
しかし、極めつけは、最終章、成瀬視点の『ときめき江州音頭』でしょう。成瀬と島崎の関係性が本当に素晴らしいです。まだご存知ない方は、ぜひご一読を。