新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

志摩リンの本棚 みずうみにきえた村

2024年04月19日 | 読書
ねぇ、あんたの故郷、どこ?」


「冷てぇだろうさ」


「……?」


「ダムの底だ」


『トラック野郎』で、菅原文太演じる桃次郎が、マドンナに故郷を問われて答えるシーンが、幼な心に印象に残りました。


『男はつらいよ』の寅さんには帰る家があり、自分を見捨てないやさしい家族がいますが、故郷喪失者の桃次郎にそんなものはありません。私が好きだったのは、寅さんでなく桃次郎です。

文太さんは、『仁義なき戦い』も『太陽を盗んだ男』も『獅子の時代』も大好きでした。ある意味、少年時代、いちばん決定的な影響を受けた人かもしれません。

私は考古学に進みたかったのですが、そのきっかけは、『琵琶湖水底の謎』で水中考古学を知ったことです。この水中遺跡への興味関心も、桃次郎の二度と帰ることができない、ダムの底の故郷への哀切な思いへの共感が、どこかにあったように思うのです。

だから、『ゆるキャン△』サードシーズンの小学生リンちゃんがダムに興味を持ってくれたのは、素直にうれしかったのですね。

しかし……というわけです。

リンちゃんは、私の知る範囲でいうと、「文学少女」天野遠子、「ハルヒ」の長門有希、「それ町」の嵐山歩鳥、「ブラック・ラグーン」の鷲峰雪緒、「マギレコ」の夏目かこに並ぶ、アニメ界屈指の読書少女です。

しかし、その趣味はかなり独自です。

ある人が、アニメに出てくるリンちゃんの読んでいる本をまとめてくれていました。


『超古代文明Xの謎』
『はじめてのアウトドアめし』
『九龍城からの使者』
『徳川埋蔵金の謎』
『UFO遭遇ファイル』
『宇宙と数学』
『ソトメシ』
『南極への道』
『三ツ星心霊スポット』
『UMAの正体』
『オーパーツを追う』


うーむ! いわゆるオカルト系の本ばかりですね。



『三ツ星心霊スポット』を読み耽るリンちゃん。



リストにはありませんでしたが、『秘密結社のつくりかた』なんて本も読んでいたんですね。

『ゆるキャン△』には、「秘密結社ブランケット」が登場しますが、秘密結社といえば、お父さん(おじいちゃん?)世代には、 澁澤龍彦『秘密結社の手帖』(河出文庫)です。

その他、秘密結社「四季協会」を率いた不屈の革命家、オーギュスト・ブランキの評伝、ギュスターヴ・ジェフロワ『幽閉者――ブランキ伝』、岩波文庫で文庫になったブランキ『天体による永遠』、クセジュ文庫のセルジュ・ユタン 『秘密結社』、ロラン エディゴフェル『薔薇十字団 』、フェルナン ニール 『異端カタリ派』 なども独習指定文献でしょうか。ミハイル・プリーシヴィン『巡礼ロシア その聖なる異端のふところへ 』もおすすめです。


専門外ですが、アウトドア、キャンプ、サバイバル、バイク関連の名作にも触れてほしいものです。デフォーの『ロビンソン・クルーソー』、ソローの『森の生活』、コリン・フレッチャー『遊歩大全』などは基本ですよね。このほか、吉村昭『漂流』、谷口 尚規 +石川 球太 『冒険手帳: 火のおこし方から、イカダの組み方まで 』、加村一馬『洞窟おじさん』などもおじさんのおすすめです。梨っこなら、富士登山のルーツである富士講の歴史に迫った、新田次郎『富士に死す』もぜひ読んでほしい。

バイクとなると完全に守備範囲外ですが、原田 宗典『時々、風と話す』、山田深夜『千マイルブルース』、角野栄子『ラン』などなど、おもしろそうな作品がたくさんありますね。私が知っているのは、片岡義男の青春小説であり、『750ライダー』であり、『汚れた英雄』であり、女性ライダーを主人公にした、小道迷子『風します?』などですが、さすがに時代を感じます。

ここでダムの話に立ち返れば、かこさとし『ダムをつくったお父さんたち』(偕成社)などの名著が思い浮かびます。鹿島建設の「だんだんできてくるシリーズ」の『だんだんできてくるダム』、「ドボジョママに聞く土木の世界」シリーズの『ダムのたんけん』 (星の環社)などもおもしろそうです。

小学生がダムに興味を持つきっかけとして、福音館書店のたくさんのふしぎシリーズの『こんにちは、ビーバー!』の可能性も考えました。私もビーバーを知り、自分もダムを作りたいと思いましたから。しかし、リンちゃんの趣味関心は、そうした土木系・技術系のテーマではないような気がします。

読書リストのなかに、『沖縄海底遺跡の謎: 世界最古の巨石文明か』なんかもありそうな、普通に言えばオカルト好き、よくいえばロマンチックなリンちゃんの趣味に合致するのは、たとえばこんな本ではないでしょうか。

ディヴッド・アーモンド+レヴィ・ビンフォールド『ダム、この美しいすべてのもの』。



以下、絵本ナビより。


イギリス、ノーサンバーランド州。ダムが完成する前に、父と娘は村を訪れ、だれもいなくなった家々でバイオリンを奏で、歌をうたった。かつてここにいた人たち、生き物たち、草花、精霊たちに捧げるために。ダムができてからも、人々はここに集い、音楽の伝統は引き継がれていった……本当にあった出来事をもとに、国際アンデルセン賞受賞作家とケイト・グリーナウェイ賞受賞画家が美しい命の賛歌を謳いあげます。

愛娘のために買った本なのですが、文章も絵も美しい、すばらしい本なんです。
しかし、この本は2018年邦訳で、リンちゃんが小学4年生(原作準拠2009年、第三期リアルタイム2017年)当時には、まだ刊行されていないんですよね。

と、いうことは、リンちゃんが読んだのは、ジェーン・ヨーレン+バーバラ・クーニー『みずうみに消えた村』だったのかもしれません。

こちらは初版1996年で、今も版を重ねており、小学4年生のリンちゃんが手にした可能性は大いにあります。以下、あらすじ紹介。




「あたりまえのように感じていた、自然のすばらしさや、やすらぎを与えてくれた故郷の村が、ダム建設のため、水の底に沈められてしまった、そのようすを、ひとりの少女の目を通して、叙情的に描いた作品」


『ゆるキャン△』サードシーズンに登場した矢作ダムも、百軒以上の家が水没しています。おじいちゃんの名字(リンちゃんのお母さんの旧姓)の由来になった新城市の宇連ダムも、貯水率ゼロになったときに、水没した幻の村が復活して話題を呼びました。


みずうみ(ダム)の底に沈んだ村。ロマンチックなリンちゃんが、興味を持ちそうなテーマだと思いませんか? 

彼女のキャンプ趣味と風変わりなオカルト趣味が、なかなか結びつかないできましたが、彼女が『ダム、この美しいすべてのもの』や『みずうみに消えた村』のような優れた児童文学に出会っていたのなら、十分ありそうです。高校生になった今も、彼女は湖を渡る風に、水底でかつて暮らした人たち、生きものたち、精霊、草花の物語に想いを馳せているのかもしれませんね。




最新の画像もっと見る