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光源氏のロイヤル托卵 

2023年11月30日 | 源氏物語・浮世絵・古典・伝統芸能
源氏物語には、どんなイメージをお持ちですか?

「プレイボーイ一代記」

というのが、一般的な理解ではないでしょうか。これは、『マリア様がみてる』の主人公、福沢祐巳のせりふです。

しかし、「源氏物語」は「プレイボーイ一代記」ではなく、実際には、源氏の父・桐壺帝、源氏、その子の薫(実は不義の子)、孫の匂宮(におうみや)の四代、七十年あまりの長編物語です。

このブログをご覧の人なら、「犬君(いぬき)が雀を逃しつる」というあどけない若紫の可憐な登場シーン、源氏の最初の妻・葵上(あおいのうえ)を苦しめる六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の物の怪(生霊)のエピソードなどはご存知かと思います。

ちょっと詳しい人は、桐壺帝の寵愛を一身に受けた源氏の生母・桐壺更衣に嫉妬した女官たちが、帝に会わせないように、渡り廊下におまるの中身をぶちまけた話もご存知でしょう。

「須磨帰り」ということばがあります。源氏物語全54帖のうち、第12帖の「須磨」で読むのをやめてしまう人が多いことを言い表したことばです。

たしかに、若紫や六条御息所のエピソードや、義母の藤壺女御との不義密通のシーンなどの「見どころ」は、第一部の序盤に集中しています。第一部の中盤、13帖の「明石」以降は、しばらく物語も停滞ぎみですから、読むのをやめてしまう気分もわかります。22帖からの「玉鬘十帖」は、現代の女性向けケータイコミックさながらの、源氏のセクハラ・パワハラ・モラハラ・変態中年ぶりを描いた、通俗性あふれるおもしろい物語なのですが。

「若菜を読まねば源氏を読んだことにならない」と折口信夫はいいました。源氏物語の真髄は「若菜」を中核にした第二部、そして「若菜」のテーマを引き継いだ「宇治十帖」をメインにした第三部にあります。残念ながら、そこまで読んでいる人は少ないです。

私の本が、瀬戸内寂聴先生、岡田嘉夫画伯らの激賞を受け、まさかの三版も重ねたのも、一般に知られていない、玉鬘十帖、第二部、第三部をおもしろおかしく訳していたからでしょうか。源氏物語って、こんな話だったんだと、みなさんお思いになったろうと思います。

たくさん感想のお手紙ももらえてうれしかったものです。ある全国紙のプレゼント企画に、拙著もラインナップに加えてもらったとき、たくさんのご応募をいただきました。いちばんうれしかったのは、生活保護を受けている女性から、自分の本を持てたのは数十年ぶりです、というお礼のはがきを受け取ったこと。すべての少女と少女だった人たちに捧げた本が、そのターゲットに届いたことには、感動しかありませんでした。

さて、ツイッターを眺めていたら、こんなツイートが。



ふむ!


「日本最古の育成シミュレーション型エロゲ」には、思わず笑ってしまいました。

私もかつてこんなことを書いています。

源氏は要するに『Fate』のような大河ギャルゲーだと思えばわかりやすい。
青い子をまず攻略し(紫の上ルート)、赤い子に翻弄され(撫子こと玉鬘ルート)、最後は白く可憐に見えた黒い子に地獄に落とされる(女三の宮ルート)。宇治十帖は、お人形さんの運命と救済の可能性を描いた幻のイリヤルートに相当すると、こじつけておこうか。

育成シミュレーションゲームで有名なのは、「プリンセスメーカーシリーズ」でしょうか。
このほか、「THE IDOLM@STERシリーズ」「艦隊これくしょん -艦これ-」「刀剣乱舞」「ウマ娘 プリティーダービー」などが知られています。「たまごっちシリーズ」もそうですね。


『源氏物語』第一部序盤は、たしかに、元祖「プリンセスメーカー」でした。「エロゲ」というわりに、エロいか?といわれると、微妙ですが。源氏物語のヒロインで、愛の喜び……はっきりいってしまえばセックスの喜びを感じているのは、物語最強の不美人キャラの末摘花、エッチなおばあちゃんキャラの源典侍(げんのないしのすけ) 、そして匂宮に寝取られた浮舟くらいではないでしょうか。あとは奔放な朧月夜? 冒頭の人妻の空蝉(うつせみ)との逢瀬も、若紫の初夜シーンも、レイプも同然で、女性たちはセックスに苦痛や煩わしさしか感じていない描写が目立ちます。

若紫の登場シーンも、『あさきゆめみし』では、桜の妖精が現れたかのような美しい描かれ方ですが、これは大和和紀さんによる創作・脚色です。原作では、着物は糊気が落ちてよれよれ、人前で走るは、野生動物を虐待(!)するは、将来性は感じられるけれど、お姫様にあるまじき野生の少女でした。原石ですね。





しかしこうして可憐に登場した若紫=紫上のその後の運命は、あまりに不憫すぎます。

「最も寵愛を与えられた『孤独なかごの中の鳥』」

ほんとうにそのとおりです。





「ロイヤル托卵」かあ。

桐壺帝は、もしかしたら、それでもいいと思っていたかもしれませんね。

いや、原作には源氏と藤壺の不義密通に、桐壺帝が気づいている描写はないわけですが、このあたりは、またの機会に。

安原 禄さんのfunbox。

桐壺更衣、藤壺女御にそっくりですね。うん。残念ながら息子さんは下衆です。しかしあの源氏も、ダメ世襲の子の薫や孫の匂宮に比べたら「まとも」に見えてしまうこの現象を、なんと表現したらいいのでしょうか。

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