トランプは自分の責任を中国とWHOになすりつけるな(1)
中国とWHOには情報隠蔽も、対応遅延の事実もない
トランプ政権とメディアによる新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する反中国宣伝が強まっている。反中国を煽るための道具として、同時に感染症拡大阻止に失敗しニューヨークを飛散極まりない状況に叩き込んだトランプの、そして同様の状況にある英米の首脳の責任逃れと責任転嫁、そして米大統領選挙のための道具として持ち出している。
さまざまな反社会主義宣伝、中国非難が持ち出された。COVID-19が世界中に広がったのは中国のせいだ、中国の責任だというのが繰り返されるテーマだ。トランプは「中国ウィルス」とポンペオは「武漢ウィルス」と口汚く繰り返している。初めは、中国の「生物兵器説」という荒唐無稽なプロパガンダがまき散らされた。犯人は反中国、反社会主義のプロパガンダをまき散らすのを常とするサイトだ。何の根拠もない。しかし、多くのメディアがあたかも信頼性があるかのようにこれを取り上げた。
しかし、トランプの中国、WHO非難は一片の真実も含んではいない。英国の著名な医学雑誌ランセットの編集長リチャード・ホートンは4月25日付けで「トランプ大統領がWHOについて間違っている理由」というコメントを発表している。丹念に事実を確認して、ホートンは中国やWHOがCOVID-19に関する情報を隠蔽したり、対応を遅らせたりしたことはないと明らかにし、世界中での感染爆発を防止するためにWHOの力が必要なときに資金拠出を停止する裏切り行為を非難している。事態はトランプが言うような中国とWHOの情報隠蔽や対応の遅れではない。中国での発生とその後の状況は1月1日以降WHOを通じて米疾病予防管理センターCDCに逐一知らされていた。米の対応が犯罪的なまで遅れたのは、トランプこそが事態を全く甘く見ていたからであり、米国CDCの助言を聞かなかったからだ。
1月14日にトランプは中国側の取り組みについて「努力と透明性に大いに感謝する」と発言していた。2月2日にはWHOの公衆衛生上の緊急事態宣言を受けて中国からの入国制限に踏み出した。しかし、2月10日に「4月までに少し暖かくなれば新型コロナウィルスは奇跡のように消えてなくなる」と発言、27日にも「それは消えるだろう。ある日、奇跡のように消えてしまう」といい、パンデミック宣言の後の3月11日に「アメリカ人の大半のリスクは極めて低い」といい、何の根拠もない超楽観主義をばらまき、経済活動維持を優先してまともな準備と対策を取らなかったのだ。3月16日には外出自粛、10人以上の集会も自粛としながら、3月24日に至っても「イースター(4月12日)までに外出自粛をやめ、経済活動を復活させたい」と言い続けた。これが世界最悪の感染爆発を米国で生み出した原因だ。
中国・武漢で壮絶な感染爆発との戦いが行われているのを見ながら、それが欧州に拡大し大規模な医療崩壊が起こっているのを見ながら、そして米国内でもニューヨークを中心に大規模な感染爆発、医療崩壊の地獄絵が始まっているのをみながら、一貫して根拠のない楽観論を振りまき、深刻な感染爆発に対する準備をまともに行わなかったのは、当のトランプであった。その責任を他に擦り付けるために、中国とWHOに対する口汚い非難と事実無根のプロパガンダを行っているのだ。しかし、世界で初めて新種のウィルス感染症の武官での感染爆発と死闘しながら、世界中に警告を発し、世界のために貴重な2カ月を稼ぎ出した中国とWHOの役割を冒涜することなど許されない。
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The Lancet / Comment| Volume 395, ISSUE 10233, P1330, April 25, 2020
Offline: Why President Trump is wrong about WHO
Richard Horton
Published:April 25, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30969-7
オフライン:トランプ大統領がWHOについて間違っている理由
リチャード・ホートン(英医学雑誌ランセットの編集長;訳注)
公開日:2020年4月25日DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30969-7
2020年4月14日:トランプ大統領はホワイトハウスで演説し、「今日、私は、コロナウイルスの感染拡大について重大な管理上の誤りと隠蔽における世界保健機関WHOの役割の評価見直しが行われている間、世界保健機関の米政府の資金援助を停止するよう指示した。WHOの中国の情報公開への信頼が、世界中で20倍の増加を引き起こした可能性が高く、それよりもはるかに多いかもしれない。WHOは、これらの懸念の1つにさえ答えようとせず、自分の過ちを認める真剣な説明も提供しない・・・。多くの死は彼らの過ちによって引き起こされたのだ。」と発言した。しかし、以下が事実です。
中国当局は、2019年12月31日に中国の武漢市で非定型肺炎の患者が存在することを最初に北京のWHO中国事務所に報告した。インシデント管理サポートチームが翌日設立された。2020年1月4日に、WHOは「中国湖北省武漢市で肺炎の集団感染(クラスター)が起こったこと、死亡者はいないこと、この病気の原因を特定するための調査が進行中であることを公表した。1月5日、当局は公式の疾病発生ニュースで「原因不明の肺炎」について説明した。1月7日までに、中国の科学者たちは原因物質を新しいタイプのコロナウイルスと特定した。中国は1月12日に遺伝的配列を情報提供した。病気の詳細は中国当局によってWHOに報告された。最初の41例のうち、最も初期の感染者は12月8日に始まった。また、1月12日、WHOは「人から人への感染の明確な証拠はない」と報告した。彼らは、中国当局が「2020年1月3日以降、追加の症例は検出されていない」と言っていると指摘した。1月13日、WHOは、テドロス博士(事務局長)が国際保健規制(IHR)緊急委員会のメンバーと協議した。この緊急委員会は、WHO事務局長に対して、公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を宣言するのに十分な証拠があるかどうか助言するグループです。1月14日、WHOのマリア・ヴァン・ケルホーヴがWHOの記者会見で人から人への感染の可能性を提起した。(1月24日にランセットに掲載された論文で、ジャスパー・フク・ウー・チャン氏らによって確認された)。一方、北京の中国人専門家は、発生を調査するために武漢を訪問し、1月20-21日にWHOのチームが後を追った。IHR緊急委員会は1月22日から23日に会合を開いた。彼らは1月30日に再会合し、感染拡大はテドロス博士が同日に正式に宣言したPHEICの基準を満たしたと結論付けた。
この時系列から結論を出すことができることは何ですか? WHOは、この新しい非定型肺炎の存在を世界に知らせるのにわずか4日しかかからなかった。WHOがPHEICを宣言するのにわずか30日要しただけだ。従って、トランプ大統領の非難(事実を隠ぺいした、遅らせた等;訳注)は根拠がない。2月24日にトランプ大統領は「米国疾病予防管理センターCDCとWHOは、一生懸命、とても賢く働いている」とツイートした。WHOに対する彼の現在の攻撃は、WHOに対する彼の以前の賞賛と矛盾している。人と人への伝播の問題について、WHOは彼らが持っていた事実をそのまま報告した。彼らは、重度の急性呼吸器症候群(SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)を引き起こしたのと同じタイプのコロナウイルスであることを考慮し、1月14日までに人から人への感染が可能であることを知り、そのことを公表した。
それでも、筋の通った質問もある。まず第1に、時系列に12月8日から12月31日の間空白がある。湖北省と北京の中国当局は、この期間中に何をしたのか? 第2に、なぜ中国当局は1月11-12日にWHOに、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の追加症例は1月3日以降に検出されていないと伝えたのか? 第3に、先週、中国当局はCOVID-19の武漢死亡率推定値を50%上方修正した。しかし、WHOによると、これは中国のCOVID-19死亡者の総数を4642人にしたに過ぎない。その数字は信じられるか?などだ。
WHOに対して根拠のない申し立てを行い、世界的な健康危機の間にWHOに必要な多額の財政拠出を止めることによって、トランプ大統領は彼のオフィスと彼の政府の高潔さを損なった。グローバルな保健とグローバル保健の安全保障は強力なWHOを必要としており、WHOを支援するために強力な米国政府が必要だ。世界の人々の健康と幸福を守ることを唯一の目的とする機関WHOに危害を加えるというトランプ大統領の決定は、人道に対する罪である。これは、世界の人民に対する故意の非人道的な攻撃です。彼はWHOへの拠出金を直ちに回復し、WHOに彼の完全かつ無条件の支援を提供する必要があります。
(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30969-7/fulltext)