民主党の仙谷由人政調会長代行が16日、“原発を全部止めると言うことは、日本が集団自殺するようなことだ”と発言した。
※仙谷氏、原発停止続くなら「日本は集団自殺」(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120416-OYT1T01020.htm
「電力なしに生活できないことは、昨年の東京電力の計画停電騒ぎで極めて明らかだ。止めた原発を一切動かさないなら、日本は集団自殺するようなことになってしまう」。
「原発いらないと言うヤツは電気なしで生活しろ」
「江戸時代に戻れというのか」
というのは以前にはよく聞かれた議論だ。
「原発なし」を「電気なし」にすり替え、また、「停電」を「電気なし」にすり替え、原発がなければ日本の経済や社会システムが崩壊するかのような恐怖を煽る典型的な詭弁論法である。
同時に、国民の安全や安心よりも日本経済やコストを優先させるという営利追求最優先、企業第一の発想がある。
さらにこの言葉の中には、経済拠点のある都市部がその経済や社会インフラを維持し快適な生活をするためには原発立地点に一方的に犠牲を押しつけることをやむなしとする「国内植民地主義」とも言うべき思想が根底にある。
仙石氏は、「日本が集団自殺する」と言うとき、そうしないために原発立地点に限定して原発事故のリスクと放射能汚染を押しつけるという選択を含んでいる。原発を動かして事故がおこってもその被害は立地点に限定される・・・そして基本的には自分は事故被害を免れることができるという幻想があるのだ。福島事故以降の政府の無責任きわまりない対応がそれを表している。
このような倒錯した犠牲転嫁のイデオロギーを真正面から批判するのが『犠牲のシステム 福島と沖縄』(高橋哲哉著 集英社新書 2012年1月22日発行)である。
高橋哲哉氏は都市部と原発立地点の関係を、「犠牲のシステム」と呼ぶ。日本経済は、原発立地点を踏み台として犠牲を押しつけ発展してきたまさに隠れた「植民地主義体制」であり、それはちょうど沖縄に基地と基地被害を押しつけ「安全保障」を手に入れてきた構図と全く同じである。
この本を読むまで、高橋氏が福島県出身とは知らなかった。彼は哲学者・思想家として「犠牲のシステム」を問題にするだけでなく、犠牲を押しつけられた福島の当事者として発言することになるはずだ。
しかし、やはり東京大学を出て現在東京大学の教授である高橋氏の口から出る言葉は、沖縄に対する思いと同様、都市部が地方を「植民地化」している事に対する強い自己批判である。
高橋氏は、文化論として「福島の人には悪いが、原発を無配慮にすすめてきたことに対する警告だ」という「天罰論」「天恵論」、「日本がんばれ」「日本は一つ」というナショナリズムに対して少ししつこすぎると思えるほどていねいに批判している(ちなみに彼は、「日本がんばれ」論は、近代化の過程で或る種の積極的意味をもったナショナリズムというより、“日本ナルシシズム”というほうが適切ではないかと言っている)。おそらくそのしつこさは、そのような論調への共鳴が原発反対を表明する人たちの間にも根強く存在していることを考慮してのものではないかと思われる。そしてナショナリズムが国家翼賛体制に転化することに対して警告を発している。
さらに、原発めぐる国民投票が、「民意」を語りながら、実際には事故によって被害を受けない都市部の住民の意向が色濃く反映されてしまうという点で強い危機感を表明する。
それはちょうど、「沖縄に基地をおいておくのがいいか」という問いを「本土」で国民投票をするようなものであると。
高橋氏は久間防衛庁長官(当時)が沖縄基地について語った「90人の国民を救うために10人の犠牲はやむを得ないとの判断はありうる。」(朝日新聞2003年6月30日)との言葉が俎上に上る。
これを延長すれば、日本の1億2000万人を救うためには1200万人の犠牲はやむを得ないということになってしまう。
これは、仙石氏の言葉とうり二つだ。日本が集団自殺をしないためには、原発立地点にに犠牲を押しつけろというのである。
「あとがき」の中の次の一文はとても興味深い。
高橋氏は書いている、この本が「東京のインテリの上空飛行的監察に陥ることを少しでも免れているとしたら、それは彼の地で被災した親しい人々、放射能汚染と闘っている友人・知人達との対話から教えられたおかげである」
高橋氏が福島出身者としてというより、あくまでも「東京のインテリ」という自覚をもって謙虚に原発問題に向き合っていることが、都会に住む私たちに厳しく問いかけるものとなっていると思う。
最後に、仙石氏が発言した4月16日の段階で、日本の原発54基中53基が止まっているが、電力供給という点での問題は生じていない。日本は集団自殺していないし、原発立地点での事故リスクは大きく下がっていることを付け加えておきたい。そして他方では、福島原発周辺の広大な地域がいまだに放射能に汚染され、最低でも16万人もの人々が避難生活を強いられ、まともな賠償さえなされないまま放置されているのである。
(ハンマー)