わたしは福音を恥としない。
それは、ユダヤ人をはじめ、ギリシヤ人にも、
すべて信じる者に、救を得させる神の力である。
ローマの信徒への手紙 1章16章 JA1955
ハリストス復活大聖堂(サンクトペテルブル 世界遺産)
■産経ＭＳＮニュース2012年9月17日
【Ｖｉｖａ！ヨーロッパ】
数奇な運命が彩る「世界一の美」ロシア・サンクトペテルブルク
「血の上の教会」
「世界一美しい」との呼び声も高い教会は、街中にめぐらされた運河のほとりに静かにたたずんでいた。ロシア伝統のモザイク模様は季節によっても、天候によっても、一日の時間帯によってもまったく違った色合いを演出する。８月の夕暮れ時、オレンジ色の陽光に照らされ、赤みを深めたその外観は、この教会に宿命づけられた名称のごとく、血の色のように染まっていた。
■１００年経て世界遺産に
ロシア第２の都市、サンクトペテルブルク。帝政ロシアの首都であり、現在は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。ロマノフ王朝の文化芸術が結集された数々の建造物の中で、エルミタージュ美術館と並び、最も観光客を魅了するのがこの「血の上の教会」（公式名はハリストス復活大聖堂）だろう。
１９０７年に建造され、それほど歴史の長い教会ではない。しかし、この１００年超の間に教会は波瀾（はらん）万丈の出来事に見舞われ、幻想的な美しさはその数奇な運命があってこそ、引き出されているといえよう。
血－。それはロシア史を揺るがした暗殺を意味した。１８８１年３月１日、時の皇帝、アレクサンドル２世（１８１８～８１年）が爆弾テロにあった。文豪ドストエフスキー（１８２１～８１年）が、サンクトペテルブルクを舞台にして「罪と罰」を書き上げたその１５年後の出来事だ。主人公ラスコーリニコフと同じ殺伐とした社会を生きた２５歳の若者が、専制政治を打破しようと、皇帝の命を奪った。
■皇帝暗殺の場に建つ
後を継いだアレクサンドル３世（１８４５～９４年）は、父の御霊を弔うために、暗殺現場の運河のほとりに壮麗な教会を建てることを決めた。建築計画が練られ、デザインの検討に２年かかった。結局、モスクワ赤の広場にある聖ワシリー寺院のようなカラフルなネギ坊主を冠した外観を模すことになり、８３年に土台の基礎工事を開始。完成するまで２５年の月日を要したのである。
王朝の潤沢な資金がふんだんに投入された。最も高いもので８１メートルにもなる９つの尖塔にはロシア正教の十字架が施され、外壁には１０色のれんがやイコンのほか、国内の１４４の町を表わした紋章もはめ込まれた。
外装にもまして息をのむ美しさがその内装だ。絵画「英雄たち」の作品を残したヴィクトル・ヴァスネツォフ（１８４８～１９２６年）ら当時の一流画家２０人以上が約７５００平方メートルの壁や天井全面に、聖書の物語をモザイク画で描いた。
１９１７年のロシア革命後は不幸な出来事の連続だった。帝政ロシアを打倒した共産党政権ゆえ、ロマノフ王朝の象徴である教会は攻撃の対象となった。何度も略奪に遭い、スターリン時代の３４年には閉鎖。テロや暗殺を連想させる教会をスターリンが嫌ったからだといわれている。
４０年に破壊させられることが決まった。しかし、第二次世界大戦中の翌年に街（当時の名称はレニングラード）が独軍に包囲されるとそれどころではなくなり、教会は野菜を備蓄する倉庫として使われることに。教会を破壊から救ったのはナチスとも言えるのだ。戦後も荒廃する一方で、きらびやかな外観はすっかりと影をひそめ、近くのオペラ劇場の舞台装置の保管場所になった。
■６０年ぶり一般公開
そうして、７０年に管理権がイサク聖堂に譲渡されたのを機に、修復工事が行われることが決定。ソ連邦崩壊後のエリツィン政権時代の９７年に、約６０年ぶりに一般公開されたのだった。
当時、サンクトペテルブルクの人々は生涯一度も見たことのなかった教会を一目見ようと長蛇の列を作った。地元の旅行会社「スタトゥス・トラベル」でガイドを務めるガリーナ・ドルガーノワさんは「教会の復活はキリスト（露語ではハリストス）の復活を連想させ、宗教的にも大きな意義がある」と話す。
ガリーナさんが教会を最も美しいと感じるのは、運河に霧がかかり、白みがかかった空間にカラフルなネギ坊主が浮かび上がる時と、日が暮れて、薄暗い光でライトアップされる瞬間の光景だという。
（佐々木正明、写真も)
ＳＡＮＫＥＩ ＥＸＰＲＥＳＳ
2012.9.17 14:47
それは、ユダヤ人をはじめ、ギリシヤ人にも、
すべて信じる者に、救を得させる神の力である。
ローマの信徒への手紙 1章16章 JA1955
ハリストス復活大聖堂(サンクトペテルブル 世界遺産)
■産経ＭＳＮニュース2012年9月17日
【Ｖｉｖａ！ヨーロッパ】
数奇な運命が彩る「世界一の美」ロシア・サンクトペテルブルク
「血の上の教会」
「世界一美しい」との呼び声も高い教会は、街中にめぐらされた運河のほとりに静かにたたずんでいた。ロシア伝統のモザイク模様は季節によっても、天候によっても、一日の時間帯によってもまったく違った色合いを演出する。８月の夕暮れ時、オレンジ色の陽光に照らされ、赤みを深めたその外観は、この教会に宿命づけられた名称のごとく、血の色のように染まっていた。
■１００年経て世界遺産に
ロシア第２の都市、サンクトペテルブルク。帝政ロシアの首都であり、現在は、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。ロマノフ王朝の文化芸術が結集された数々の建造物の中で、エルミタージュ美術館と並び、最も観光客を魅了するのがこの「血の上の教会」（公式名はハリストス復活大聖堂）だろう。
１９０７年に建造され、それほど歴史の長い教会ではない。しかし、この１００年超の間に教会は波瀾（はらん）万丈の出来事に見舞われ、幻想的な美しさはその数奇な運命があってこそ、引き出されているといえよう。
血－。それはロシア史を揺るがした暗殺を意味した。１８８１年３月１日、時の皇帝、アレクサンドル２世（１８１８～８１年）が爆弾テロにあった。文豪ドストエフスキー（１８２１～８１年）が、サンクトペテルブルクを舞台にして「罪と罰」を書き上げたその１５年後の出来事だ。主人公ラスコーリニコフと同じ殺伐とした社会を生きた２５歳の若者が、専制政治を打破しようと、皇帝の命を奪った。
■皇帝暗殺の場に建つ
後を継いだアレクサンドル３世（１８４５～９４年）は、父の御霊を弔うために、暗殺現場の運河のほとりに壮麗な教会を建てることを決めた。建築計画が練られ、デザインの検討に２年かかった。結局、モスクワ赤の広場にある聖ワシリー寺院のようなカラフルなネギ坊主を冠した外観を模すことになり、８３年に土台の基礎工事を開始。完成するまで２５年の月日を要したのである。
王朝の潤沢な資金がふんだんに投入された。最も高いもので８１メートルにもなる９つの尖塔にはロシア正教の十字架が施され、外壁には１０色のれんがやイコンのほか、国内の１４４の町を表わした紋章もはめ込まれた。
外装にもまして息をのむ美しさがその内装だ。絵画「英雄たち」の作品を残したヴィクトル・ヴァスネツォフ（１８４８～１９２６年）ら当時の一流画家２０人以上が約７５００平方メートルの壁や天井全面に、聖書の物語をモザイク画で描いた。
１９１７年のロシア革命後は不幸な出来事の連続だった。帝政ロシアを打倒した共産党政権ゆえ、ロマノフ王朝の象徴である教会は攻撃の対象となった。何度も略奪に遭い、スターリン時代の３４年には閉鎖。テロや暗殺を連想させる教会をスターリンが嫌ったからだといわれている。
４０年に破壊させられることが決まった。しかし、第二次世界大戦中の翌年に街（当時の名称はレニングラード）が独軍に包囲されるとそれどころではなくなり、教会は野菜を備蓄する倉庫として使われることに。教会を破壊から救ったのはナチスとも言えるのだ。戦後も荒廃する一方で、きらびやかな外観はすっかりと影をひそめ、近くのオペラ劇場の舞台装置の保管場所になった。
■６０年ぶり一般公開
そうして、７０年に管理権がイサク聖堂に譲渡されたのを機に、修復工事が行われることが決定。ソ連邦崩壊後のエリツィン政権時代の９７年に、約６０年ぶりに一般公開されたのだった。
当時、サンクトペテルブルクの人々は生涯一度も見たことのなかった教会を一目見ようと長蛇の列を作った。地元の旅行会社「スタトゥス・トラベル」でガイドを務めるガリーナ・ドルガーノワさんは「教会の復活はキリスト（露語ではハリストス）の復活を連想させ、宗教的にも大きな意義がある」と話す。
ガリーナさんが教会を最も美しいと感じるのは、運河に霧がかかり、白みがかかった空間にカラフルなネギ坊主が浮かび上がる時と、日が暮れて、薄暗い光でライトアップされる瞬間の光景だという。
（佐々木正明、写真も)
ＳＡＮＫＥＩ ＥＸＰＲＥＳＳ
2012.9.17 14:47
