一度の戒めがさとき人に徹するのは、
百度の懲らしめが
愚かな人に徹するよりも深い。
『箴言』 17章10節 旧約聖書 口語訳
私たちはイエスにしているかのように
貧しい人々に仕えてはいけません。
彼らはイエスその方だから仕えるのです。
マザーテレサ『愛と祈りのことば』より
★柔道監督、暴力 日本のスポーツ文化 未熟さ露見
「殴って教える時代でない」
■産経新聞 1月31日 7時55分配信
※近年の柔道をめぐる主な体罰や暴力
柔道女子日本代表を率いる園田隆二監督(39)らから、暴力やパワーハラスメントを受けたとして日本オリンピック委員会(JOC)にロンドン五輪女子代表選手ら強化選手15人が告発文を提出した問題は、かつて世界を舞台に活躍をしたアスリートや指導者らの間にも波紋を広げた。世界のトップを目指し、全国からえりすぐられた彼女たちに何が起きたのか。
「正座させられたり、たたかれたりするのが嫌なので、私は必死に練習した。それで辛抱強くなって結果につながったのも事実」
自分の経験を元に話すのは、昭和39年の東京五輪で金メダルを獲得し、「東洋の魔女」と言われた女子バレーボールのメンバー、丸山(旧姓・磯辺)サタさん(69)。「選手への暴力は当然、良くないが、今回の問題では、師弟間の信頼関係がなかったのではないか」
なぜ選手に手を出す指導者がいるのか。「殴られて育った指導者は、簡単な活の入れ方として暴力を選ぶ傾向がある」。バルセロナ五輪女子バレーの主将で、現在は東北福祉大女子バレー部の監督を務める佐藤伊知子さん(47)はそう話す。「手を出すことで、やってはいけないことは覚えるかもしれないが、自ら考えて行うべきことを教えることはできない。特に、今の若い世代は、殴られた後、どうすればいいか分からなくなってしまう」と指摘した。
アテネ五輪のアーチェリーで銀メダルを獲得した日本体育大学准教授の山本博さん(50)も「私のような昭和30年代生まれは、親にたたかれてしつけられた世代。しかし、今は人を殴ってやる気を出させる時代ではない」と訴える。
その上で、「現代はメンタルを鍛えるための科学的なトレーニング法が発達している。安易に暴力を振るうことは指導者の適性能力がないことの証明でしかない。2020年夏季五輪の東京招致を目指している中で、日本のスポーツ文化の未成熟な部分が露見された」と今回の問題を批判した。
「報道を聞いて非常にショックを受けた」と口にするのはアテネ五輪女子レスリング監督の鈴木光(あきら)さん(56)。「指導者は軽くこづいたつもりでも、選手が殴られたと感じることもあるだろう。強化の一環か、暴力か。線引きは非常に難しい」と説明した上で、「厳しい練習に耐えてきたトップクラスの選手が殴られたというのは、子供たちがたたかれたと言うのとは訳が違う。告発に至ったということは、とてもひどい暴力が行われていたのだろうか」と推測した。
スポーツ評論家の玉木正之さん(60)は「最近の日本柔道の不振の背景が今回の告発問題から分かった。日本の柔道人口はフランスを下回っており、さらに柔道離れにつながらないか心配だ」と、ニッポン柔道の今後を憂えた。
(資料写真) 金メダリスト内柴正人被告
★内柴被告 2人の女子部員を“ハシゴ”…
「股間に『アクション』された」
■産経新聞 2012/12/01 22:23
教育者ではなかった。
(資料画像)
講道館柔道の創始者で、日本人初の
国際オリンピック委員会(IOC)委員の嘉納治五郎氏は、
優れた教育者でもあった。
先達の名を辱めてはならない。
★代表監督暴力問題。日米の対応の差
鈴木 友也
スポーツ経営コンサルタント
http://bylines.news.yahoo.co.jp/suzukitomoya/20130131-00023277/
■2013年1月31日 7時23分
柔道女子日本代表・園田隆二監督が暴力行為などで選手15人から告発された問題が混迷を極めています。事件の経緯は大きく報道されていることと思いますので、この際省きますが、日本オリンピック委員会(JOC)が全日本柔道連盟(全柔連)に再調査を命じていることは理解に苦しみます。
全柔連によると、2010年8月から2012年2月までの間に、園田監督による5件の暴力行為が確認されており、昨年9月下旬には同監督の暴力行為について、女子選手1人が全柔連に告発しています。今回の(二度目の)告発では、15名もの選手がJOCに直接告発していることから、選手の全柔連に対する不信感が透けて見えます。
にも関わらずJOCが再調査を全柔連に命じました。これは、被告の友人に裁判官を頼むようなものです。ただでさえ、選手は「代表を外される」といったリスクを負う弱い立場にあります。こうした事案の調査は、事件に利害関係のない第三者が実施すべきでしょう。
ところで、実は昨年米国でも、今回の事件と極めて似た代表チーム監督による暴力問題が起こりました。今回は、それをケーススタディとして日米の対応の違いを見てみたいと思います。
米国の“お家芸”で起こった暴力事件
昨年8月末、5名のオリンピックメダリストを含む19名のスピードスケート(ショートトラック)の選手が、肉体的・精神的虐待を受けたとして代表チーム監督を米スピードスケート連盟(USS)及び米オリンピック委員会(USOC)に告発しました(うち2選手は、警察に被害届も出している)。
スピードスケートと言えば、米国では冬のスポーツの“お家芸”で、冬季五輪で最も多くのメダルを米国にもたらしている競技です。その意味では、日本の柔道にとても近い存在と言えます。
告発状によると、代表監督のチョン・ジェス(Jae Su Chun)氏は、選手を壁に叩きつけ繰り返し殴打し、ボトルや椅子を投げつけ、あるいは女性選手には「デブ」「気持ち悪い」などの暴言を吐いたとされます。告発した選手たちは、同コーチの下では二度と練習を行わないとボイコット宣言し、個別にコーチを雇って独自に練習を行っていたそうです。
今から約5か月前の出来事ですが、この米スピードスケート界で起こった告発事件の経緯を見てみると、今回の日本での女子柔道選手による告発と大きく異なる3つの点が浮かび上がってきます。以下に、解説していきましょう。
「SafeSport」プログラムに基づく第三者調査
まず、日米の最も大きな違いは、告発事件の調査を利害関係のない第三者に依頼しているかどうかです。JOCは調査を全柔連に差し戻しましたが、USOCは独立した第三者に調査を依頼しています。
実はUSOCは、コーチ・選手間やチームメイト同士における不法行為(Misconduct)を防止するために「SafeSport」と呼ばれるプログラムを設けています。ここで言う「不法行為」とは、いじめやハラスメント(肉体的・心理的虐待)、性的虐待などを指します。
このプログラムでは、
「トップレベルのエリート選手ほど不法行為を経験しやすい」
「不法行為は結果的に選手のパフォーマンス低下につながる」
「体罰が指導の一環であると言う考えはいかなる場合も受け入れられない」
という共通理解の元、選手やコーチ、親などの関係者に啓蒙活動を行っています。「SafeSport」の公式HPでは、「良くある誤解」という形で虐待に関する誤った理解を正したり、ハンドブックを提供するなどの実践的な支援を実施しています。
「SafeSport」プログラム公式ページ
先の告発の件で、USOCはこのSafeSportプログラムに定められた手続きに従って、第三者による独立調査をニューヨークの大手法律事務所「ホワイト&ケース」(White & Case LLP)に依頼しています。
こうした告発で最も重要なのは、告発者(今回の場合は選手)の保護です。スポーツ組織は、告発者の身分が最大限保護されるべく慎重に調査を行うべきです。そのためには、第三者調査は極めて重要なものです。
推定無罪だが、性悪説に立つ
2つ目の違いは、スポーツ組織の調査・対応へのスタンスです。
JOCは「全柔連は解決する能力を持っている」として、再調査を命じました。しかし、「告発者の保護」という前提に立つならば、性悪説に立って対処を行うべきです。これは言うまでもないことですが、性善説に立って対策を講じる場合、告発者への被害が拡大する可能性を排除できないためです。これは信頼の問題ではなく、可能性の問題です。
USOCが第三者調査を実施したのは既述の通りですが、これに加え、告発されたチョン・ジェス監督をすぐに「休職」(Administrative Leave)扱いにして、指導の現場から外しています。同監督が仮に虐待を行っていたとすれば、その指導を続けさせることは被害を拡大させる可能性があります。「虐待があったのかどうか」は独立調査が判断する話ですが、その白黒が分かるまでは、性悪説に立って被害の拡大を防ぐのです。
ただし、性悪説に立つにしても、推定無罪の原則は当然貫かれます。そのため、休職中でも監督への報酬は従来通り支払われることになります。
誰を守りたいのか?
3つ目の違いはスピード感です。
19名のショートトラック選手が代表監督を告発したのは、昨年8月のことでした。これを受け、USOCはすぐに独立調査をホワイト&ケースに依頼し、その報告書が公表されたのが10月5日です(報告書の要約版はこちら)。告発から2か月足らずで調査を終えています。
(ちなみに、報告書では監督による恒常的な虐待は認められなかったとする結論が出ています。告発された監督も、指摘された暴行の事実はないとして争う構えを見せており、USOCも11月1日に告発者と被告発者の主張をぶつける公聴会を実施する予定でした。しかし、USSは10月11日、同監督に2014年2月までの職務停止処分を科し、同監督は辞任を余儀なくされました)
一方、15名の日本女子柔道選手が告発文を提出したのは昨年12月4日のことでした。確かに、選手のプライバシーや練習環境への配慮もあって秘密裏に対応したいという気持ちは分かりますが、マスコミがこれを報じるようになりJOCは全柔連に再調査を命じています。しかし、最初の告発(昨年9月下旬)からすでに約4か月が経過しています。
トップアスリートの寿命は非常に短いものです。調査にいたずらに時間をかけることは、選手の寿命を削るようなものかもしれません。少なくとも、指導者に対して不信感を抱いた状態で練習に身が入るはずがありません。JOCおよび全柔連には、迅速かつ公正な調査の実施を願いたいものです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/suzukitomoya/20130131-00023277/
■鈴木 友也
スポーツ経営コンサルタント
ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社「トランスインサイト」代表。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツ界発展のために“提供(トランス)”する。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織を中心にコンサルティング活動を展開
Twitter @tomoyasuzuki
Facebook tomoya.suzuki.146
official site トランスインサイト株式会社
百度の懲らしめが
愚かな人に徹するよりも深い。
『箴言』 17章10節 旧約聖書 口語訳
私たちはイエスにしているかのように
貧しい人々に仕えてはいけません。
彼らはイエスその方だから仕えるのです。
マザーテレサ『愛と祈りのことば』より
★柔道監督、暴力 日本のスポーツ文化 未熟さ露見
「殴って教える時代でない」
■産経新聞 1月31日 7時55分配信
※近年の柔道をめぐる主な体罰や暴力
柔道女子日本代表を率いる園田隆二監督(39)らから、暴力やパワーハラスメントを受けたとして日本オリンピック委員会(JOC)にロンドン五輪女子代表選手ら強化選手15人が告発文を提出した問題は、かつて世界を舞台に活躍をしたアスリートや指導者らの間にも波紋を広げた。世界のトップを目指し、全国からえりすぐられた彼女たちに何が起きたのか。
「正座させられたり、たたかれたりするのが嫌なので、私は必死に練習した。それで辛抱強くなって結果につながったのも事実」
自分の経験を元に話すのは、昭和39年の東京五輪で金メダルを獲得し、「東洋の魔女」と言われた女子バレーボールのメンバー、丸山(旧姓・磯辺)サタさん(69)。「選手への暴力は当然、良くないが、今回の問題では、師弟間の信頼関係がなかったのではないか」
なぜ選手に手を出す指導者がいるのか。「殴られて育った指導者は、簡単な活の入れ方として暴力を選ぶ傾向がある」。バルセロナ五輪女子バレーの主将で、現在は東北福祉大女子バレー部の監督を務める佐藤伊知子さん(47)はそう話す。「手を出すことで、やってはいけないことは覚えるかもしれないが、自ら考えて行うべきことを教えることはできない。特に、今の若い世代は、殴られた後、どうすればいいか分からなくなってしまう」と指摘した。
アテネ五輪のアーチェリーで銀メダルを獲得した日本体育大学准教授の山本博さん(50)も「私のような昭和30年代生まれは、親にたたかれてしつけられた世代。しかし、今は人を殴ってやる気を出させる時代ではない」と訴える。
その上で、「現代はメンタルを鍛えるための科学的なトレーニング法が発達している。安易に暴力を振るうことは指導者の適性能力がないことの証明でしかない。2020年夏季五輪の東京招致を目指している中で、日本のスポーツ文化の未成熟な部分が露見された」と今回の問題を批判した。
「報道を聞いて非常にショックを受けた」と口にするのはアテネ五輪女子レスリング監督の鈴木光(あきら)さん(56)。「指導者は軽くこづいたつもりでも、選手が殴られたと感じることもあるだろう。強化の一環か、暴力か。線引きは非常に難しい」と説明した上で、「厳しい練習に耐えてきたトップクラスの選手が殴られたというのは、子供たちがたたかれたと言うのとは訳が違う。告発に至ったということは、とてもひどい暴力が行われていたのだろうか」と推測した。
スポーツ評論家の玉木正之さん(60)は「最近の日本柔道の不振の背景が今回の告発問題から分かった。日本の柔道人口はフランスを下回っており、さらに柔道離れにつながらないか心配だ」と、ニッポン柔道の今後を憂えた。
(資料写真) 金メダリスト内柴正人被告
★内柴被告 2人の女子部員を“ハシゴ”…
「股間に『アクション』された」
■産経新聞 2012/12/01 22:23
教育者ではなかった。
(資料画像)
講道館柔道の創始者で、日本人初の
国際オリンピック委員会(IOC)委員の嘉納治五郎氏は、
優れた教育者でもあった。
先達の名を辱めてはならない。
★代表監督暴力問題。日米の対応の差
鈴木 友也
スポーツ経営コンサルタント
http://bylines.news.yahoo.co.jp/suzukitomoya/20130131-00023277/
■2013年1月31日 7時23分
柔道女子日本代表・園田隆二監督が暴力行為などで選手15人から告発された問題が混迷を極めています。事件の経緯は大きく報道されていることと思いますので、この際省きますが、日本オリンピック委員会(JOC)が全日本柔道連盟(全柔連)に再調査を命じていることは理解に苦しみます。
全柔連によると、2010年8月から2012年2月までの間に、園田監督による5件の暴力行為が確認されており、昨年9月下旬には同監督の暴力行為について、女子選手1人が全柔連に告発しています。今回の(二度目の)告発では、15名もの選手がJOCに直接告発していることから、選手の全柔連に対する不信感が透けて見えます。
にも関わらずJOCが再調査を全柔連に命じました。これは、被告の友人に裁判官を頼むようなものです。ただでさえ、選手は「代表を外される」といったリスクを負う弱い立場にあります。こうした事案の調査は、事件に利害関係のない第三者が実施すべきでしょう。
ところで、実は昨年米国でも、今回の事件と極めて似た代表チーム監督による暴力問題が起こりました。今回は、それをケーススタディとして日米の対応の違いを見てみたいと思います。
米国の“お家芸”で起こった暴力事件
昨年8月末、5名のオリンピックメダリストを含む19名のスピードスケート(ショートトラック)の選手が、肉体的・精神的虐待を受けたとして代表チーム監督を米スピードスケート連盟(USS)及び米オリンピック委員会(USOC)に告発しました(うち2選手は、警察に被害届も出している)。
スピードスケートと言えば、米国では冬のスポーツの“お家芸”で、冬季五輪で最も多くのメダルを米国にもたらしている競技です。その意味では、日本の柔道にとても近い存在と言えます。
告発状によると、代表監督のチョン・ジェス(Jae Su Chun)氏は、選手を壁に叩きつけ繰り返し殴打し、ボトルや椅子を投げつけ、あるいは女性選手には「デブ」「気持ち悪い」などの暴言を吐いたとされます。告発した選手たちは、同コーチの下では二度と練習を行わないとボイコット宣言し、個別にコーチを雇って独自に練習を行っていたそうです。
今から約5か月前の出来事ですが、この米スピードスケート界で起こった告発事件の経緯を見てみると、今回の日本での女子柔道選手による告発と大きく異なる3つの点が浮かび上がってきます。以下に、解説していきましょう。
「SafeSport」プログラムに基づく第三者調査
まず、日米の最も大きな違いは、告発事件の調査を利害関係のない第三者に依頼しているかどうかです。JOCは調査を全柔連に差し戻しましたが、USOCは独立した第三者に調査を依頼しています。
実はUSOCは、コーチ・選手間やチームメイト同士における不法行為(Misconduct)を防止するために「SafeSport」と呼ばれるプログラムを設けています。ここで言う「不法行為」とは、いじめやハラスメント(肉体的・心理的虐待)、性的虐待などを指します。
このプログラムでは、
「トップレベルのエリート選手ほど不法行為を経験しやすい」
「不法行為は結果的に選手のパフォーマンス低下につながる」
「体罰が指導の一環であると言う考えはいかなる場合も受け入れられない」
という共通理解の元、選手やコーチ、親などの関係者に啓蒙活動を行っています。「SafeSport」の公式HPでは、「良くある誤解」という形で虐待に関する誤った理解を正したり、ハンドブックを提供するなどの実践的な支援を実施しています。
「SafeSport」プログラム公式ページ
先の告発の件で、USOCはこのSafeSportプログラムに定められた手続きに従って、第三者による独立調査をニューヨークの大手法律事務所「ホワイト&ケース」(White & Case LLP)に依頼しています。
こうした告発で最も重要なのは、告発者(今回の場合は選手)の保護です。スポーツ組織は、告発者の身分が最大限保護されるべく慎重に調査を行うべきです。そのためには、第三者調査は極めて重要なものです。
推定無罪だが、性悪説に立つ
2つ目の違いは、スポーツ組織の調査・対応へのスタンスです。
JOCは「全柔連は解決する能力を持っている」として、再調査を命じました。しかし、「告発者の保護」という前提に立つならば、性悪説に立って対処を行うべきです。これは言うまでもないことですが、性善説に立って対策を講じる場合、告発者への被害が拡大する可能性を排除できないためです。これは信頼の問題ではなく、可能性の問題です。
USOCが第三者調査を実施したのは既述の通りですが、これに加え、告発されたチョン・ジェス監督をすぐに「休職」(Administrative Leave)扱いにして、指導の現場から外しています。同監督が仮に虐待を行っていたとすれば、その指導を続けさせることは被害を拡大させる可能性があります。「虐待があったのかどうか」は独立調査が判断する話ですが、その白黒が分かるまでは、性悪説に立って被害の拡大を防ぐのです。
ただし、性悪説に立つにしても、推定無罪の原則は当然貫かれます。そのため、休職中でも監督への報酬は従来通り支払われることになります。
誰を守りたいのか?
3つ目の違いはスピード感です。
19名のショートトラック選手が代表監督を告発したのは、昨年8月のことでした。これを受け、USOCはすぐに独立調査をホワイト&ケースに依頼し、その報告書が公表されたのが10月5日です(報告書の要約版はこちら)。告発から2か月足らずで調査を終えています。
(ちなみに、報告書では監督による恒常的な虐待は認められなかったとする結論が出ています。告発された監督も、指摘された暴行の事実はないとして争う構えを見せており、USOCも11月1日に告発者と被告発者の主張をぶつける公聴会を実施する予定でした。しかし、USSは10月11日、同監督に2014年2月までの職務停止処分を科し、同監督は辞任を余儀なくされました)
一方、15名の日本女子柔道選手が告発文を提出したのは昨年12月4日のことでした。確かに、選手のプライバシーや練習環境への配慮もあって秘密裏に対応したいという気持ちは分かりますが、マスコミがこれを報じるようになりJOCは全柔連に再調査を命じています。しかし、最初の告発(昨年9月下旬)からすでに約4か月が経過しています。
トップアスリートの寿命は非常に短いものです。調査にいたずらに時間をかけることは、選手の寿命を削るようなものかもしれません。少なくとも、指導者に対して不信感を抱いた状態で練習に身が入るはずがありません。JOCおよび全柔連には、迅速かつ公正な調査の実施を願いたいものです。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/suzukitomoya/20130131-00023277/
■鈴木 友也
スポーツ経営コンサルタント
ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社「トランスインサイト」代表。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツ界発展のために“提供(トランス)”する。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織を中心にコンサルティング活動を展開
Twitter @tomoyasuzuki
Facebook tomoya.suzuki.146
official site トランスインサイト株式会社