「彼は惜しみなく分け与え、貧しい人に施した。
彼の慈しみは永遠に続く」
と書いてあるとおりです。
『コリントの信徒への手紙二』 / 9章 9節 新約聖書 新共同訳
貧困と戦うのは、むずかしい。
でも、食べ物への飢えより
愛への飢えを鎮めることの
ほうが、
もっとむずかしいのです。
マザーテレサ『マザーテレサ100の言葉』より
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(写真) 元野宿者らが多く集う浪速教会の日曜礼拝=大阪市西成区、中里友紀撮影
「社会」大阪・釜ヶ崎から天国を仰ぐ
日雇い労働者の街、大阪・釜ヶ崎で韓国系キリスト教会に入信する野宿者らが相次いでいる。仕事を求めて街に住みつき、労働市場の縮小とともに行き場を失った人たちだ。彼らが頼る神とは。ドヤ街を歩いた。
★釜ヶ崎から天国を仰ぐ
韓国系キリスト教会信徒続々
■朝日新聞2013年2月25日
日本最大のドヤ街、大阪・釜ヶ崎で、韓国系キリスト教会の信徒が次々と誕生している。大半は元野宿者。日雇いの仕事が減り、行き場を失った人たちだ。
釜ヶ崎近くの在日大韓基督教会・浪速教会。年末の洗礼式には約40人が集まった。洗礼を受ける2人は62歳と45歳。ともに日雇い労働者で、1人はアルコール依存からの脱却を、1人はギャンブル漬けの生活からの更生を誓って入信した。
●炊き出しに200人
釜ヶ崎で「キリスト教」は圧倒的な存在感をみせる。越冬夜回り、孤独死対策、アルコール依存症対策・・・・。
浪速教会は毎週、公園にワゴン車を出して、おにぎりとみそ汁の炊き出しをしている。多い時には約200人が列をなす。
「教会さまさまやけど、食いつなぐためや」。そう話す野宿者もいれば、信仰へと向かう人もいる。
「おいしいおいしい、みそ汁ですよー」。
大きい声で振る舞う男性(63)がいた。教会住み込みのスタッフで、毎朝夕、信徒宅を回り、励まして歩く。信徒の多くは高齢者で、アパートで独り暮らしだ。「雨の日は落ち込む人が多い。いつもより励まさないとね」。ある雨の日、そう言って、自転車のペダルを踏み込んだ。
彼もかつては野宿者だった。取材には、関東で勤務医をしていたと語った。「10年ほど前に患者が死亡する医療事故に関係して、上から目線で看護師、患者に接してきた自分を変えたい、釜ヶ崎で暮らせば変われるのではと思った」
昼は職安で横になり、夜は公設シェルターに泊まった。働くでもなく、食事はもっぱら炊き出しに頼った。「量が定食屋の倍。浪速教会は野宿者の気持ちを分かっていると思った」
もともと禅宗の檀家で、改宗など考えたこともなかった。食事目当てに通ううち、「一番貧しく弱い者にすることは、イエス様、神様にするのと同じく尊いことだ」という牧師の言葉にひかれた。自分を変えられるかもしれない。そう思って教会スタッフになった。
今、釜ヶ崎で布教する韓国の教会は4教団。韓国系の教会の支援を受ける日本の教会もいくつかある。浪速教会は「成功モデル」と言われるが、金鐘賢牧師(55)は戸惑いがあるという。
1996年に来日。在日同胞の救援のつもりで始めた釜ヶ崎の炊き出しに、たくさんの日本人が並んだ。信徒になった野宿者には、アパートに入り、生活保護を受けるよう手助けしている。だが、暮らしに余裕がでると、信仰を放棄し、酒浸りの生活に舞い戻ってしまう人も少なくない。
「経済的に一息ついても、ひとりぼっちから抜け出せるわけじゃない。そんな人たちこそ、信仰が必要なんですが」
●労働運動の後継
釜ヶ崎のキリスト教会は長い間、布教に抑制的だった。共闘関係にあった労働運動が牽制してきたことが大きい。だが、90年代後半、関西空港の開港などで大型の事業が終わり、日雇い労働市場がしぼんだ。
「かつては労働運動が日雇いの人々を支えたが、労働市場の縮小とともに退潮した。代わって、しがらみのない韓国のキリスト教会が食事付きの伝道集会を始め、野宿者が集まった」。大阪市立大学都市研究プラザ博士研究員で、釜ヶ崎を見続けている社会学者の白波瀬達也氏は分析する。
大阪市によると、この地区の住人約2万6千人のうち65歳以上の高齢者は約40%を占める。
●献金に拾った缶
昨年11月の深夜、浪速教会前にパトカーが横づけされた。10キロ以上離れた兵庫県尼崎市まで歩き続けた信徒(75)が保護され、警察が送り届けてくれたのだ。7年前の入信以来、家出は69回を数える。
西日本のミカン農家で育ち、万博の整備事業でわく大阪に。結核を患い、古紙や空き缶をカネに換えながら、全国のドヤ街を転々とした。舞い戻った大阪で、リヤカーの中で行き倒れ同然のところを教会関係者に助けられた。
今は古い2Kのアパート暮らし。持病が気になるたび、いてもたってもいられなくなり家出を繰り返す。それでも教会は温かく受け入れてくれる家族のような仲間がいる。感謝の気持ちを示そうと、アルミ缶を拾っては「献金」と言って教会に届けている。
男性は朝、教会で祈っている。天国に行けますように。
(藤生明)
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(写真) 浪速教会の日曜礼拝で熱心にメモを取る男性=大阪市西成区、中里友紀撮影
■釜ヶ崎 (かまがさき)
大阪市西成区にあり、「あいりん地区」とも呼ばれる。一間3畳ほどの簡易宿所(ドヤ)が密集し、高度成長期は東京・山谷や横浜・寿町と並ぶ日雇い労働者の街としてにぎわった。90年代に野宿者が急増。最近は生活保護を受けてアパート暮らしを始める人が増え、孤独死が問題になっている。