空飛ぶ自由人・2

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映画『東京2020オリンピック SIDE:A』

2022年06月06日 23時27分09秒 | 映画関係

[映画紹介]

昨年開催された東京オリンピックの公式記録映画
オリンピックを開催した際、
記録映画を製作することは、
オリンピック憲章に定められている。
それだけに監督の人選が重要だが、
結局、国際映画祭で受賞歴のある河瀬直美に決まった。

2部作で、SIDE:Aは
表舞台に立つアスリートを中心としたオリンピック関係者を描き、
SIDE:Bでは
アスリートを支える大会関係者、
一般市民、ボランティア、医療従事者、
開催に反対する人々などの非アスリートの姿に焦点を当てるという。

で、SIDE:Aが普通のスポーツ中心の記録映画となる、
と思ったら、少々違った。

オリンピックの記録なのだから、
競技中心に描かれるはずだが、
監督の関心は、そういうところにないらしく、
たとえば、イランの柔道選手が、
国際大会でイスラエルの選手と対戦しないように工作され、
イランを発ってドイツに難民申請。
その後、モンゴル国籍を取って、
モンゴル選手として、オリンピックに臨む姿。
ウズベキスタンの体操選手は、
様々な国代表としてメダルを取るが、
今回、初めてウズベキスタン選手としてメダルを狙う。
アメリカの女子バスケット選手は、
家族同伴禁止の規則に対して、
乳幼児に母乳を与えたいから、と特別申請で許可され、
幼児同伴で選手村に入る。
等々、そうした事情は個々の事情で、
競技に直接反映されるわけではない。

オリンピックの記録である以上、
競技のアスリートの美しさを描写すべきなのだと思うが、
監督はそんなことには関心がない、
というか、スポーツに対する感性がないのだろう。
(唯一それらしいシーンは、サーフィンのみ)

全編、ナレーションはない。
それは、ドキュメンタリーの今の趨勢だからいいが、
インタビューの過剰さが
それを打ち消す。
たとえば、柔道の関係者の意見など、
そんな思い入れなど、競技そのものを描けば終わることだ。
柔道は編中3回も登場する。
女子バスケットも2回登場するが、
国体にバスケットボール奈良県代表として出場した経験がある
河瀬監督の思い入れか。
そのバスケットも育児のために引退したらしい
元バスケット選手の視点から描かれる。
何の必然があるのか。
その上、先に述べた母乳授乳をしたアメリカの選手との
交流を描いたりする。
育児のために参加を辞めた者と
貫いた者の対比か。
空手の喜友名諒選手の勝利の後、
沖縄島民の感想など、不要な要素を織り込む。

そういう意味で、
オリンピック競技の記録とは異なる
東京オリンピックで目にしたアスリートの
美しい感動の瞬間はほとんど出てこない。
だから、観ていて、楽しくない
監督の視点と感性の押し売りだからだ。
途中、時計を何度も見て、
「早く終わらないかな」と思ったのは、久しぶりの経験。
編集もうまくない。
音楽も最小限。
冒頭、へんな歌い方の「君が代」が流れる。

柔道が3回、女子バスケットが2回も出て来るのに、
体操も水泳も卓球も出て来ない。
SIDE:Bで描かれるのかもしれないが、
SIDE:Bは、非アスリート中心の大会の裏面だというではないか。

比較してもしかたないのだが、
やはり比較してしまうのは、
1964年の東京オリンピックの公式記録映画。


市川崑監督によるこの映画は、
当時、「記録か芸術か」などという的外れな論争を巻き起こしたが、
実によく出来ていた。
なにより、編集の妙と、黛敏郎の音楽が素晴らしく、
三国一郎によるナレーションも過度ではなく、
適切だし、内容があった。
インタビューは、空港でだけ。
選手の事情は、チャドの選手の逸話だけ。
徹頭徹尾、競技中心に描いていた。

実は、本作を観た後、
家で市川崑版の「東京オリンピック」を再び観たが、驚嘆した。
選手に対するリスペクトオリンピックに対する愛情があふれているではないか。
どちらも河瀬版に欠けているものだ。
その上、当時のフィルムカメラで
よくこんな映像を撮ったと思われる
美しく、感動的で詳細な場面が続く。
何より、選手の顔や表情が雄弁に物語る。
河瀬版のインタビューで補完するのとは、対極だ。
ユーモアもあり、
公開当時、先生の引率で
目黒の映画館で観た時、
場内が高校生の笑いで満たされたのを思い出す。

振り返れば、今回の東京オリンピックは、
会場設計のザハ氏、
ロゴ作成の佐野氏、
開閉会式のエグゼブテブ・ディレクター、
ショー・ディレクター、
そしてなにより、森喜朗オリンピック委員会会長と、
人選ミスばかりだが、
公式記録映画の監督の人選も誤ってしまったようだ。
彼女の作品歴をちゃんと調べたのだろうか?
観ていれば、今回の結果は予想できただろうに。

とにかく、変な映画を観せられた、という感想。

Yahooの映画レビューの平均点が1.9というのも驚いた。
その後2.2まで持ち直したが、
この低評価は只事ではない。
私が見たのは、公開2日目の土曜日の昼の回。
観客は、わずか6名。
「五輪が無観客試合だったから、映画も無観客」
では笑えない。
SIDE:Bは、更に観客を減らすだろう。
私は観ない。

このブログの映画評では、
「わざわざ映画の観客を減らすことはない」
という観点から、
けなすような映画は元々取り上げないのだが、
映画評の使命の一つである
「観るべき映画、観るべきでない映画の選定」
という点から、
本映画は後者に該当するものとして
掲載した。
観なくていい

5段階評価の「2」