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小説『朽ちないサクラ』

2024年12月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

柚月裕子による警察小説
徳間書店の雑誌「読楽」に連載後、
2015年に単行本化。
2018年に文庫化、
第5回徳間文庫大賞受賞。

冒頭、市民からの苦情電話に忙殺される
米崎県警・広報課の様子が描かれる。
平井中央署の生活安全課が、
女子大生の両親が提出したストーカーの被害届を、
すぐに受理せず1週間先延ばししていたところ、
女子大生がストーカーに殺されてしまったのだ。
(1999年の桶川ストーカー殺人事件を想起させる。)
それだけでも非難されるのに、
地元紙の米崎新聞が、
生活安全課が、被害届の受理を後回しにして、
慰安旅行に出かけていたことをスクープしたことから、
市民の怒りの火に油を注いでしまったのだ。
県警内では誰が慰安旅行の日程を
米崎新聞社に漏らしたのか犯人捜しをする。

県警本部で県民の苦情受付やマスコミ対応を担当する
広聴課の職員・森口泉は、
親友で米崎新聞社の県警担当記者である津村千佳から、
呼び出しを受ける。
実は泉は、千佳に慰安旅行の情報をうっかり漏らしてしまい、
そのことについて、口止めしていたのだ。
千佳は、スクープ記事のネタ元は自分ではない、
約束は守った、と頑なに否定する。
だが、泉はそれを信じることができない。
「この件には、何か裏があるような気がする」
そう告げて千佳は泉と別れた。

その1週間後、千佳は他殺死体となって発見される。
はたして千佳の訴えは本当だったのか。
彼女はなぜ亡くなったのか。
泉は警察学校の同期で、渦中の平井中央署生活安全課員の磯川俊一と共に、
千佳の死に関する調査を独自に開始する。
その調査の間に、
情報提供者と分かった百瀬美咲が自殺した。
スクープ記事を挟んだ二つの死が無関係だとは思えない。
泉は、広聴課長の富樫隆幸や
捜査一課長の梶山浩介らの協力を得て
真相に迫ろうとするが、
やがて、ある組織の存在が浮かび上がって来て・・・

普通の刑事ではなく、
事務職員が独自の捜査を展開するところが新味と言える。
背景には、警察と公安との暗闘がある。
章建てになっており、
5つの章の後の終章で、
泉の推理する真相が解明されるが、
あくまで泉の私見で、
本当のところは分からない。
ただ、いくら何でも、という推論。
中途の富樫や梶山らの描写と矛盾しないか。

だが、「孤狼の血」や「盤上の向日葵」の柚月裕子らしく、
緻密な積み重ねで読ませる。

警察内部の事情も描かれる。
たとえば、警察官は被害届が出された場合、
これを拒否することが出来ないが、
軽微な事案については、
様々な理由を作って、
被害届を出させないように仕向ける傾向がある、とか、
警察と公安は捜査協力はしない、とか。

「あなたたち刑事部の捜査員は、
すでに起きた事件の捜査を職務としていますが、
われわれ公安は違う。
われわれは、これから起きるかもしれない事件を
未然に防ぐことを職務としているんです。
すでに死んでいる人間と、
いま生きている人間。
どちらを守るべきと思われますか」

今年6月、
杉咲花の主演で映画化された。


監督は原廣利
原作の舞台は米崎県という架空の県だが、
映画版では愛知県に変更されている。

 



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