[映画紹介]
「フリー」は「FREE」(自由な)ではなく、「FLEE」。
「(危険を避けて) 逃げる」の意だという。
研究者として活動しているアミン(仮名)が
友人にインタビューを受ける。
それは、誰にも語ったことのない、
驚愕の「逃げる」体験だった。
アミンはアフガニスタンのカブールに住んでいたが、
父親が反政府的言動をして連行され、行方不明に。
その結果、母親、兄と姉2人との5人で国外脱出する。
行き先は長兄の住むスウェーデン。
しかし、ビザを出してくれたのがソ連だけだったので、
ひとまずソ連に行き、スウェーデンに行く道を探る。
じきにビザが切れ、5人は「不法入国者」という立場になり、
当局の追究を逃れて、息をひそめる生活に。
(ここで描かれるソ連警察の腐敗ぶり。
警察を信じることの出来ない国は、不幸だ。)
密入国業者の手を借りるしかなく、
資金が足りなかったので、
まず姉二人がスウェーデンへ。
しかし、密入国業者が劣悪だったため、
コンテナに60人以上が押し込められて、
窒息寸前の瀕死の状態で長兄のもとにたどり着く。
次には、母子3人で密入国業者の手配したボロい貨物船に乗って、
バルト海を進むが、浸水して命の危機に。
エストニアの大きな客船に遭遇して、
結局沿岸警備隊に引き渡され、ソ連に強制送還される。
そして、次はアミンだけ偽パスポートで飛行機に乗るが、
着いたところはデンマークだった。
という悲惨な状況がアニメーションで語られる。
今年のアカデミー賞で、
長編アニメーション賞、長編ドキュメンタリー賞、
国際長編映画賞の3部門に同時ノミネート。
アニメでドキュメンタリー?
と不思議だったが、
出演者の安全を確保するために、
アニメーションの手法を取らざるをえなかったのだという。
その手法がぴたりと決まって、
実写以上の緊迫感が盛り上がる。
特に雪の中を船に向かって歩くシーン、
船でバルト海を渡るあたりは、
圧倒的な迫力で、
持ち込んだコーヒーを飲む気も起こらないで、
画面を凝視した。
その後、
残った兄と母もソ連を脱出できるのだが、
それまでは家族はバラバラ。
家族の大切さと絆の強さが胸を打つ。
兄や姉と合流したアミンに、もう一つの試練が。
アミンの性的指向についてのカミングアウトだ。
アフガニスタンでは決して赦されないLGBT。
アミンは、その試練を乗り越えられるだろうか?
ところどころ当時のニュース映像などが挿入され、
アニメという虚構ではなく、
現実に起こったことなのだと思い出させてくれる。
そして、アミンの語る内容は、
当局の追究を逃れて、
20年以上も抱え続けていた秘密だ。
親友である映画監督の前で、
瞑目しながら語る過去。
一人の人間が政治に翻弄された人生の断片。
あまりの真実に
観る者の魂が揺さぶられざるを得ない。
映画祭や批評家から高い評価を受けている。
監督は、ヨナス・ポヘール・ラスムセン。
5 段階評価の「5」。
予告編は↓。
https://youtu.be/J0al68Fc-Zk
新宿バルト9他で上映中。
NHKの「映像の世紀」を見ると、
世界は戦争と内戦による難民の歴史だということが分かる。
その反省から国連が作られ、
国連憲章第2条4項で
「武力による威嚇又は武力の行使」を
禁じているにもかかわらず、
ロシアはウクライナを侵略し、
新たな難民を生んでいる。
そのロシアが、拒否権を持つ常任理事国だから、
国連は機能しない。
世界は虚偽と悪意に満ちている。
本作を観ると、
日本に生まれた幸福を思わざるを得ないが、
しかし、日本は核を保有する
ロシア、中国、北朝鮮に囲まれている。
日本が侵略されたら、
日本人難民はどこにも行きようがないのだ。
ウクライナの人々の姿が
明日の日本人の姿にならないように、祈るばかりだ。