[映画紹介]
私のお気に入り監督、
ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)の青春グラフィティ。
1970年代、ハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレー。
子役として活動する高校生のゲイリー・バレンタイン・15歳は、
学校の生徒の顔写真の撮影にやって来たカメラマンのアシスタント、
アラナ・ケインに一目ぼれする。
「運命の出会いだ」と告白してくるゲイリーを、
10歳年上・25歳のアラナは相手にせず受け流す。
野心家のゲイリーはウォーターベッドの販売会社を作り、
アラナはそれを助け、距離を縮める。
しかし、「友達以上、恋人以下」の関係が変わることはない。
アラナは俳優のオーディションを受け、
有名俳優と交流したりするのをゲイリーは見守る。
ピンボールマシンの解禁で、
ゲイリーはマシン店の経営に乗り出し、
アラナは、昔の友人の弟の市長立候補のボランティアをしたりする。
そして・・・
という、二人の男女の日常生活を脈略なく綴る。
つまり、取り立てて内容のない映画なのだが、
PTAの卓抜の演出力で、
惹きつけられる。
とにかく、画面の造形力、
カメラワークが抜群だ。
「映画は監督のセンス」である
という持論を納得させてくれる。
前にも書いたが、
映画は最初の5分間、
小説は最初の10ページで当たり外れが判明するものだが、
本作は出だしの5分で心が掴まれる。
ゲイリーは、PTA作品の常連俳優だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子、
クーパー・ホフマンが演じ、
アラナは、3姉妹バンド「ハイム」のアラナ・ハイムが演ずる。
共に演技初の初々しさ。
特別ハンサムでもなく、美人でもない二人だが、
どんどん魅力的に可愛くなる。
他にショーン・ペン、ブラッドリー・クーパーなどの大物が出演する。
選曲のセンスも抜群。
先のアカデミー賞で、
作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされた。
題名の「リコリス・ピザ」とは、
アナログレコードのスラング。
レコードの見た目が
リコリス(独特な香りのする甘草科の生薬)で作ったピザを想起させるからだという。
頭文字を取ると「LP」になる。
また、1969年から1980年代後半にかけて
カリフォルニア州南部で店舗展開していたレコードチェーンの名前でもある。
登場人物にはモデルがあり、
少年ゲイリーは、後にハリウッドの名プロデューサーになる
ゲイリー・ゴーツマンがモデル。
ショーン・ペン演じる大物俳優、ジャック・ホールデンは
ウィリアム・ホールデン。
映画の中に出てくる「トコ=サンの橋」は
ウィリアム・ホールデンが主演した朝鮮戦争映画「トコリの橋」(1954)のこと。
トム・ウェイツ演じる映画監督のベースはサム・ペキンパー。
ブラッドリー・クーパーが演じるのは
バーブラ・ストライサンドの「スター誕生」(1976)のプロデューサーで、
バーバラと関係があった人物。
更にブラッドリー・クーパーは、「スター誕生」のリメイク、
レディ・ガガ主演の「アリー/スター誕生」(2018)の監督、主演、プロデューサー、
とややこしい。
20年前、PTAが近所の学校の近くを通りかかった際、
中学生くらいの子供が年上の女性を大人のように口説いているのを目撃して、
これがもしデートに発展したらどうなるか、
と考えたのがきっかけだという。
アラナ・ハイムのバンドメンバーの姉2人も出演しており、
姉たちの顔がよく似ていると思ったら、そういうことらしい。
5段階評価の「4」。
拡大上映中。
これで、先のアカデミー賞の作品賞候補10作は、
全て日本で公開された。
私がアカデミー会員で、順位をつけるとしたら、↓。
1位 ベルファスト
2位 コーダ あいのうた
3位 パワー・オブ・ザ・ドッグ
4位 ドライブ・マイ・カー
5位 リコリス・ピザ
6位 ドット・ルック・アップ
7位 ウエスト・サイド・ストーリー
8位 ドリームプラン
9位 DUNE/デューン 砂の惑星
10位 ナイトメア・アリー