空飛ぶ自由人・2

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短編集『#真相をお話しします』

2022年12月18日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

 

「救国ゲーム」を書いた結城真一郎による、
特異なブラック・ミステリー。
小説新潮に個別に掲載された5篇を収録。
どの作品も、仕掛けがたっぷりの、
しかも現代を切り取ったものになっている。

「惨者面談」

家庭教師派遣サービスに従事する片桐は、
教師を希望する矢野家を訪ねる。
ドアホンを鳴らすが、返事がなく、
留守かと思って帰ろうとする時、
ドアが開き、母親が顔を出す。
中に入り、小学6年生の息子と三者面談をするが、
何か様子がおかしい。
息子は母親に怯えており、
母親は片桐の話には上の空。
実力を知るために数学の問題を出すと、
息子はトンチンカな回答をする。
出題を変えても、答はいつも「110」。
トイレを借りようとしても拒まれ、
母親は片桐と息子を二人きりにしない。
机の上の公開模試の成績表を見た片桐は、
ある事実に気づき・・・

真相が明らかになる時、
それまで散りばめた伏線が見事に回収される。

「ヤリモク」

マッチングアプリで初めて会った女性と、
そのマンションを訪れた主人公。
シャワーを浴びて、寝室に行くと、
そこで若い男が待っていた・・・

これも、様々散りばめた伏線が
最後になって回収して、納得させる。
動機もなるほどな、と思わせて、
更に最後に衝撃の事実が・・・

「パンドラ」

精子提供をした男性のところに一つの知らせが。
私はあなたの子ども、だという、若い女性からの連絡だ。
男性には娘がいる。
自分も不妊治療で苦労した経験を持つため、
精子提供を始めたのだ。
精子を提供したのは、15年前。
その相手の女性には、
何か急ぐ理由があったらしい。
娘という若い女の子と会って、
会いたがった理由を訊くと、驚愕の事実が。
男性は血液型を調べるが、
それは、自分の家庭に対する
「パンドラの箱」を開けることを意味していた・・・。

「三角奸計」

桐山は、久しぶりに学生時代の級友、
茂木と宇治原野とリモート飲み会をした。
大阪と東京を隔てて。
しかし、飲み会の最中に、
茂木の家の中にいる女性を見て、
宇治原が激昂する。
その女性は宇治原の婚約者だという。
宇治原は、今から茂木の家に行って、
茂木を殺すといい、
画面から姿を消す。
その時、桐山の家のドアホンが鳴り、
訪問者が・・・

リモート飲み会という特殊な状況を使った仕掛けが憎い。

「#拡散希望」

渡辺チョモランマという変わった名前の少年は、
幼い頃、両親と共に、匁島(もんめしま)という離島に引っ越して来た。
過疎の島で、小学校の生徒は、チョモランマを含め、4人しかいない。
WiFiの設備もなく、
スマホの環境もない。
島に来てチョモランマらと会っていた男性が
離島から帰った長崎で殺される。
その日から島人のチョモランマらへの態度が一変する・・・
やがて、真相が判明するが、
それは、まさに驚愕の事実だった・・・

この「真相」に、
ジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」 (1998) を
想起した人もいるだろう。

どの作品も、仕掛けがたっぷりで、
後で伏線が効果を表すという、
巧妙な作品。
筆者は東大卒だというが、
こういうジャンルが心底好きなのだろう。
しかも、題材は、現代の先進的なことばかり。
家庭教師斡旋業、マッチングアプリ、
精子提供、リモート飲み会、
そして、YouTuber
「#拡散希望」は、日本推理作家協会賞を受賞。

オムニバス映画にしたら、面白そう。