空飛ぶ自由人・2

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小説『ワンダーランド急行』

2023年08月05日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

40歳のサラリーマン、野崎修作は、
今朝の会議がユウウツなあまり、
いつもの上りの通勤快速に乗らず、
反対方向の下りの急行電車に乗ってしまう。
次々と通過していく駅を見ながら、
つかのまの日常からの脱出を気取る・・・

と、ここまではよくあるサラリーマンの現実逃避モノ

終点で下車して山に登り、
夕刻になったので、
元の電車に乗って、帰宅してみると、
何かがおかしい。
コロナ禍のはずなのに、誰もマスクをしていない。
「上を向いて歩こう」を妻の美冬は知らないし、
会社に出ると、何だかチグハグだ。
スタジオジブリをみんな観ていないし、
会議でスカイツリーでの婚活パーティーを提案すると、
「それ、何だ」と言われる。

帰って来たのは、以前とは違う、異次元の世界だったのだ。
この世界ではコロナは存在しない。

と、話はパラレルワールドものに変身する。
今風にいえば、マルチバースもの。

確かめに押上に行ってみると、
スカイツリーの代わりに変な牛頭の観音像が建っている。
そういえば、○○屋に牛丼がないし、
牛の病気で牛が死に絶えてしまっていて、
スーパーでは牛肉を売っていない。
前の世界での成功例の企画が次々と通り、
サラリーマンとしては評価される。
新興宗教がはびこり、
妻は、その儀式での憑依巫女を務めるのだという。

元の世界に戻るために
再び下り急行に乗り、
山登りをして、戻ってみると、
もっと変な世界に迷い込んでしまった。
ポリティカル・コレクトネスが世界を支配しており、
過去の差別発言などで社会的抹殺が行われている。
「正義」が社会を分断し、
会社ではかつての同僚が専務として、独裁している。
何より、妻は別人。
しかも、離婚の危機。
だが、子どもはいる。

そして、再び下り電車に乗った野崎は、
日本が東西に分裂し、
大元帥総統閣下が支配する、
ミサイル軍事国家「東日本共和國」に迷い込んでしまう。

終点駅付近の商店で
パラレルワールド選択の法則を見つけた野崎は、
何とか元の世界に戻って来るのだが・・・

という、パラレルワールドの世界が現代の風刺になっている、という一篇。
発想は面白いが、
意外と読んでて胸がはずまないのは、どういうわけか。

「海の見える理髪店」で直木賞を受賞した萩原浩の異世界モノ。


コロナ禍で行動制限中の日経新聞夕刊に連載。