空飛ぶ自由人・2

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映画『ふたりのマエストロ』

2023年08月24日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

フランスのグラミー賞とも言われるヴィクトワール賞の
クラシック部門を受賞した、指揮者のドニ・デュマール。
その会場に父親のフランソワの姿はない。
それもそのはず、
二人とも高名な指揮者で、
その間には、なんとも言えない確執があるのだ。

ある日、オケで練習中のフランソワに1本の電話がかかる。
(オケの練習で、興味深かったが、
 練習を中断した着信音がフランソワのもので、
 謝罪もなく、練習もそこで終わり、では、
 オケメンバーは納得しないのでは?)
それはミラノスカラ座の次期音楽監督就任の打診だった。
ワレリー・ゲルギエフが奥さんの病気を理由に辞退したため、
フランソワにそのお鉢が回ってきたのだ。
リッカルド・ムーティの後任という名誉ある依頼に、
フランソワは躍り上がる。
(ということは、2005年の話か。) 
その知らせを家族の集まりで知ったドニは内心穏やかではない。
父は息子の受賞を祝えず、
息子は父親の栄誉を喜べず、
それほど二人の溝は深い。

その数日後、
ドニはスカラ座の総裁に呼び出される。
実は、フランソワへの就任の依頼は、
秘書が同じ名字デュマールを取り違え、
ドニにするところを、
間違って父親に電話してしまったというのだ。
総裁は、その真相の伝達をドニに依頼する。

(この総裁、どうかしている。
 それはあんたの仕事でしょ。
 そもそも、そんな大切な依頼を秘書に任せるなんて。
 秘書は即刻解雇ものだが、それも出来ない。
 秘書に何か弱みでも握られているのか。)

ななか言い出せず、葛藤するドニ。
母親の態度から事を察したフランソワは・・・

実はこれ、リメイク
2011年のイスラエル映画「フットノート」が原作。


カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、
アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた評価の高い作品。
だが、設定が違い、
原作は、ユダヤ教の聖典タルムードを専門とする
共に大学教授である研究者の父と息子が、
名誉ある賞の受賞の通知ミスを巡り、
もともと不仲だった関係がさらに面倒なことになって・・・。
という内容。
題名は論文や研究書の「脚注」を意味する。

これをフランスでリメイクするにあたり、
父子の職業をクラシックの指揮者に置き換え、
ミラノ・スカラ座音楽監督就任の依頼電話が
息子へではなく、
間違って父にかかったことから巻き起こる騒動に変えた。
賢明な置き換えで、
観客にとって身近なものとなった。
タルムードの研究なんて、
誰も知らないものね。

そして、映画を彩るものとして、
音楽を使えることになった。
ベートーヴェンの「交響曲第9番」、
モーツァルトの「フィガロの結婚序曲」をはじめ、
ブラームス、シューベルト、ラフマニノフ、ドヴォルザークらの
名曲をかなり長い時間をかけて聴くことができる。
小沢征爾指揮で、カッチーニの「アヴェ・マリア」を聴けるのも、嬉しい。

ただ、設定を借りたのはいいものの、
その料理方法は、あまり上手にはいかなかったようで、
ドニやフランソワの周囲を巡る挿話が、少々貧弱
親子の確執の原因がアレとういのも、何とかならなかったか。
そして、最後のあの展開も唐突感は免れない。
指揮は当日タクトを振ればいいものではなく、
その前の稽古段階で音楽作りをしているのだから。
ただ、絵柄としては映画的だ。
この場面、
指揮の交代で、
オーケストラの音色が変わるという、
芸の細かいことをしている。

原作の方では、
本来受賞するはずの息子が
なんとか父に賞を獲ってもらおうと裏で尽力するというのだが、
老齢の父がスカラ座音楽監督の重任に耐えられない、
とドニは判断したのだろうか。
その判断は、重い。

そうであれば、物語を通じて、
息子が父親を越える悲哀
古き者が新しい台頭者に席を譲る痛恨など、
いくらでも深めることは出来ただろうに。
ちょっと残念。

イバン・アタルが息子ドニ、


ピエール・アルディティが父フランソワを演ずる。


俳優でもあるブリュノ・シッシュが監督を務めた。

「第一バイオリン」と訳していたが、
「首席バイオリン」とは出来なかったのか。

5段階評価の「3.5」

ヒューマントラストシネマ有楽町他で上映中。