空飛ぶ自由人・2

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映画『アウシュヴィッツの生還者』

2023年08月20日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

ナチスやホロコーストを扱ったの映画は、
いやになるほど沢山作られている。
さすがに、もういいかな、と思ったりもするが、
本作を観る気になったのは、
「レインマン」(1988)でアカデミー賞監督賞を受賞した
バリー・レヴィンソン監督作品だからだ。

1950年代のアメリカに、
「アウシュヴィッツの生還者」と呼ばれる
ユダヤ人のボクサー、ハリー・ハフトがいた。
ハリーは強制収容所生還者で、
その生き延びた理由は、
ナチスが主催する賭けボクシングで、
同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだった。
負けたユダヤ人は銃殺されたという。

戦後、アメリカに渡ったハリーが
ボクシングの試合に出るようになったのは、
ナチスに連れ去られた恋人のレアの目に触れることで、
連絡を待つためだった。
アウシュヴィッツでのハリーの過去が新聞記事となり、
ハリーはユダヤ人社会から爪弾きにされる。
最近負けがこんでいるハリーは、
有名ボクサー、ロッキー・マルシアノとの試合の報道で、
自分の名前がレアに伝わるように願っていた。

現実のシーンと交互に、
アウシュヴィッツでの体験がモノクロ画面で挿入される。
その過去の悲惨さ。


ユダヤ人たちの死体を穴に黙々と投げ捨てる作業に従事、
恋人の亡骸を目にして泣き叫ぶ友、
その男に銃を突きつけた監視員を叩きのめしたことが
ナチス親衛隊の中尉の目に止まり、
ハリーをボクサーに仕立て上げて、
賭け試合で儲けていたのだ。


ナチスの慰みものとして、同胞と闘い、
相手の命と引き換えに、
自分が生き延びる、おぞましさ。
リングに76回上がったというから、
ハリーのせいで、76人が犠牲になったことになる。
自分の命のために他者の命を犠牲にする辛さは、
味わった者にしか分かるまい。
13勝8敗のハリーが最近負けが混む理由は、
試合中、過去の記憶がフラッシュバックするからだ。

やがて、マルシアノとの敗戦を機に、
レアは既に死んだものとあきらめて引退し、
他の女性と結婚し、
物語は落着したように見える。
が、油断してはいけない
もっと辛いアウシュヴィッツでの話が後に待ち受けていたのだ。
胸が締めつけられるような悲しい物語だ。

ドイツ将校の振る舞いは、まさに狂気で、
よくもあんな非人間性のことを出来たものだと思う。
80年前のことだが、
今でも北朝鮮、中国、ロシアでは、
報道されないだけで、
同様のことが行われていると推測される。
人類は進歩しないのか、
それとも、それが人間の負った性(さが)なのか。

結婚したハリーは一男一女をもうけて、
青果店を営んで暮らしているが、
そこへ、レアの消息がもたらされる。
過去のこととして埋葬したはずなのに。
訪ねていったハリーはレアと再会するが・・・

ハリーを演ずるのは、ベン・フォスター
現実の体型と、収容所時代の体型が全く違う。
アウシュヴィッツ時代の過酷な状況を表現するため、
体重を28キロ落とし、あばらが浮き出る体に肉体改造。


戦後のシーンを撮影するために
5カ月後にまた元の体重に戻した。
マーティン・スコセッシ監督作「レイジング・ブル」(1980)の
ロバート・デ・ニーロを彷彿させる。
そういえば、ベン、どことなくデ・ニーロに似ている。
すさまじい役者魂で、
哀愁に満ちたアカデミー賞級の演技にもかかわらず、
ノミネートさえされなかった。

ボクシング場面の描写が弱いのが原因か。

ハリーは2007年11月3日に癌で逝去、享年82歳
原作は父が語ったアウシュビッツ時代の告白とその後の人生を綴った
長男アランの著作
原題はただの「THE SURVIVOR」。
「アウシュビッツの」は、日本で付け加えた題名。
ジョン・レグイザモダニー・デビートらも出演、
音楽をハンス・ジマーが担当している。

5段階評価の「4」

新宿武蔵野館で公開中。