空飛ぶ自由人・2

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短編集『秋雨物語』

2023年08月13日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

貴志祐介によるホラー短編集。
上田秋成の「雨月物語」を意識したという。
当初、「雨の百物語」というシリーズにしようと考えたのだが、
実際に100話書いていたら時間が足りないので、
とりあえず2冊のシリーズにしたという。
シリーズ2冊目に「梅雨物語」がある。

「餓鬼の田」

社員旅行中の早朝、主人公のOLが
気になる同僚の男性社員から
自分は恋愛がうまくいかないという話をきかされる中、
同僚の前世の秘密を知ってしまうという話。
タイトルになっている“餓鬼の田”は、富山県にある実在する名所。
20ページ程しかない短い話。
ラストで、さっきまであった恋心が一瞬で消えるという展開で、
同僚の陥っている境遇が分かる。

「フーグ」

「フーグ」とは、「解離性遁走」という学術用語。
失踪した作家・青山黎明が遺した原稿を読む編集者。
それは彼の長年の転移現象の記録だった。
ひどい時には、富士山の樹海や鳥取の砂丘に飛ばされる作家。
そして、最後に・・・

「白鳥の歌」

白鳥は死ぬ寸前に最も美しい声で歌うという伝説。
そこから、音楽家の最後の作曲、演奏、歌唱を「白鳥の歌」と呼ぶ。

ある売れない作家が、
原稿料の高さに惹かれて、ある歌手の伝記の著作を引き受ける。
依頼主の京都の資産家・嵯峨を訪れた作家は、
その金のかかった素晴らしい音響設備で、
SPレコードのミツコ・ジョーンズという
百年前のソプラノ歌手の歌唱を聞かされる。
SPレコードは、その単純な構造故に、
歌手、特にソプラノ歌手の歌唱の再現に優れているという。
そのレコードは現在、世界に4枚しか残っていない、
私家盤で、彼女の葬儀の日に届いたレコードを
追悼に蓄音機にかけたところ、
出席者の一人が、このレコードは呪われている、と言って、
レコード全てを2階の窓から外に放り出し、
大部分は破壊されたが、
偶然軟着陸して破壊を免れたものの1枚だという。
作家は、その歌声を聴いて驚愕する。
あまりに美しい歌声。
しかも、一箇所、声が二重になっているところがある。
当時のダイレクトカッティングでは、合成は不可能という。

そこへ、一人の外人が(都合よく)訪れる。
ジェームズ・ロスという黒人男性は、
嵯峨がアメリカの音楽プロデューサーに依頼した
ミツコ・ジョーンズの伝記を書くための調査結果を持って来たのだ。
だが、ロスは音楽プロデューサーの伝言を伝える。
この調査報告は聞かない方がいい、と。
嵯峨は拒否し、ロスの報告が始まる。

ミツコの出生、成長の後、
ミツコはある黒人歌手のSPレコードを聴き、驚愕する。
メアリー・ケンプという無名のソプラノ歌手。
1枚しか現存していないというSPレコードのコピーを聴いた
作家は驚愕する。
メアリーは恋に破れ、砂漠で歌う。
その録音がそのSPレコードだという。

ここでロスと再び尋ねる。
ここでやめれば、残りの調査費用は要らない、という。
嵯峨は拒絶し、続きをうながす。

ミツコはメアリーと同じ環境で歌うことを求め、
その砂漠に出かける。
そして・・・

ミツコの歌声に秘められた秘密が明らかになる終盤は、
意外さに驚かされる。
貴志の旧作「天使の囀り」(1998)に近い話。
謎解きの側面もあり、
ソプラノ歌手の話、ということもあり、
4篇中、最も好みの作品。

「こっくりさん」

死ぬしかない状況に置かれた小学生4人が
廃墟となったホスピスで、
誰か1人が死ぬと言われるコックリさんを行う。
コックリさんの示した回答で、一人は死ぬ。

その18年後、
弁護士になった主人公を雑誌記者が尋ねて来て、
昔の事件を蒸し返そうとする。
生き残りの3人は再結集し、
一人を加えた4人で、
あの時のコックリさんを再現する。
その結果、示された座標のところに行った4人は・・・

貴志祐介は「黒い家」 (1997) 第4回日本ホラー小説大賞を受賞した人。
コツコツとホラーを書き続けている。
「フーグ」の中で、
小説家のことを
「天性の嘘つき」
「社会性の欠如から他の仕事には就けなかった敗残者」
などと断定するのが面白い。