空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『運び屋円十郎』

2023年09月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

江戸末期の特殊な職業の話。
その職業とは「運び屋」
秘密の品物をA地点からB地点に運んで、
収入を得る。
たとえば、
「丑三つ。小伝馬千代田稲荷。
 暁七つ。赤坂氷川明神」
と指示されると、
午前2時頃、千代田稲荷の指定場所でブツをピックアップし、
午前4時頃、氷川神社の指定場所にブツを置いて、
使命完了。
「根津権現、立ち木の虚(うろ)、
 玉池稲荷、祠(ほこら)の裏。
 丑三つまで」
などという細かい指定もある。
というか、こういう細かい指定でないと困るだろう。

難易度が「松」「竹」「梅」で指定される。
「松」は危険度が高いが、謝礼も高い。

また、〈運びの掟〉というのがあって、
一つ、中身を見ぬこと。
二つ、相手を探らぬこと。
三つ、刻と所を違えぬこと。
というもの。
つまり、誰から誰に対して、何を届けるのかは、
運び屋自身も知らない。
というか、知ってはいけない。
それが身の安全だ。

その元締めが船宿「あけぼの」の主、日出助(ひですけ)。
実は、主人公の円十郎の父・半兵衛が、この船宿にやっかいになっている。
半兵衛は、柳雪流躰術の指南で、
息子の円十郎に躰術をたたき込んだ。
妻の死後、道場を開くが、経営に失敗、
身体を壊して、父子で日出助の世話になっている。

この円十郎(18歳)の「運び屋」の仕事のあれこれを描く中、
敵にブツを奪われそうになる事態が出来する。
とういうのは、「引取屋」というのがいて、
「運び屋」の運ぶ秘密の物を手に入れるのが仕事という一団。
「運び屋」にとって決して許されないのは、
荷を奪われること。
だから、「引取屋」との闘争は熾烈だ。
それに「風」と呼ばれる、世間の情報を集める係もいる。

これに、水戸藩士の青木真介との友情、
茶屋の娘・理緒との恋心、
「あけぼの」の女中のお葉、
「引取屋」の達人・兵庫の動きなどがからむ。
幕府隠密の「幽世」
船頭の才蔵、野良猫のヒメ、父・半兵衛との関係もある。

動乱の幕末で、尊皇と攘夷の暗躍が背景にあり、
水戸藩の志士による桜田門外の変、
井伊直弼の暗殺も起こって来る。
吉田松陰の処刑、
新撰組を作る前の
若かりし近藤勇、土方歳三、沖田総司らも登場する。

「運び屋」という珍しい職業、
幕末の乱世、
実在の人物など、
面白くなる要素はたくさんあるのだが、
意外と胸踊らないのは、
「運び屋」の仕事そのものが、
物語の展開にうまく絡んで来ないからだろう。
せいぜい、井伊直弼を殺した短銃というくらい。
あとは、友情、恋愛、父子の因縁などは、
ありきたりの域を出ない。
驚きがないのだ。

著者の三木雅彦は「新芽」でオール讀物新人賞を受賞、
本書が最初の単行本となる。
中学生のとき初めて読んだ時代小説が藤沢周平の「蝉しぐれ」だという。

「運び屋」という題名で、
2018年ののアメリカ映画がある。


監督と主演はクリント・イーストウッド。
もちろん、本書とは無関係。