[書籍紹介]
宮部みゆきの初期短編集。
1991年発刊。
吉川英治文学新人賞受賞作。
錦糸町駅前の人形焼きの店「山田や」の包み紙に
「本所七不思議」の絵が描いてあり、
それに触発され、七不思議をテーマに七つの短編が生まれたもの。
「片葉の芦」「送り提灯」「置いてけ堀」
「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」
「足洗い屋敷」「消えずの行灯」
どれも江戸の市井の女性の哀歓をつづる、
宮部みゆきらしい優しさに満ちた短編ばかりだ。
不思議を扱っているが、怪談ではない。
各篇を貫く人物として、
回向院の茂七が初登場。
「片葉の芦」
近江屋藤兵衛がおいはぎにあって殺された。
普段から藤兵衛と折り合いの悪かった
娘のお美津が下手人だという噂が流れたが、
蕎麦屋の彦次は、そんなことはないと思う。
というのは、食うや食わずの頃、
お美津の温情に救われた経験があるからだった。
それは彦次の中での希望であり、あこがれでもあった。
やがて、お美津の嫌疑は晴れるのだが、
久しぶりに会ったお美津が
とうの昔に自分のことなど忘れていたことを知る。
男の純情と女の現実との落差がほろ苦い。
「送り提灯」
お嬢さんの恋のために、
変わって願掛けを頼まれたおりん。
真夜中に回向院に行って、小石を一つ取ってくる。
危険なことだが、
ある時から、自分の後を守るかのように、
提灯が付いて来ることに気づく。
おりんは、それはお嬢さんに懸想している
手代の清助ではないかと思うが・・・
「馬鹿囃子」
茂七親分のところに時々訪ねて来る若い娘・お吉。
自分が人を殺めた話をしにやって来るのだが、
実はそれは全部作り話なのだ。
たまたまその告白の場に居合わせたおとしは不思議に思う。
聞いてみると、お吉は男に捨てられて、
狂ってしまったのだという。
そこへ、娘の顔を切りつける事件が起きて・・・
「足洗い屋敷」
おみよの父が、妻を失ってから初めて恋をして、
お静をめとる。
美しい義母を得ておみよは嬉しかったが、
やがて、家に不審なことが起こり始めて・・・
義母への思慕が
おかしな形で裏切られる。
「消えずの行灯」
おゆうに不思議な話が持ち込まれる。
娘が行方不明になって、
狂ってしまったある店のおかみと、
娘のふりをして一緒に住む仕事だ。
娘が生きていれば、おゆうと同じ歳まわりなのだ。
既に何人かの前例があるという。
一緒に住み始めたおゆうは、
ある時、夫婦の秘密を知ってしまう・・・
「置いてけ堀」「落葉なしの椎」は省略。