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小説『踏切の幽霊』

2023年10月04日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「13階段」(2001)で江戸川乱歩賞を受賞した高野和明
「ジェノサイド」(2011)以来、11年ぶりの新作。

冒頭のプロローグで、
箱根湯本駅から新宿ヘ向かう
小田急線の特急最終列車の運転席からの情景が描写されるが、
この部分で読者の心を鷲掴みにする。
筆者が並々ならぬ描写力の持ち主であることが分かる。
その特急列車、下北沢付近の踏切
線路内に立ち入った人影を見つけ、
緊急停車するが、
人がぶつかった痕跡はなかった。
その後も同様の緊急停車が頻発する。

この下北沢3号踏切
小田急線の地下化にともない、今はなくなっている。
また、特急列車のことを
「昔はロマンスカーと呼ばれた」と書こうとしたが、
今もロマンスカーの名称は継続しているらしい。 
私の子供の頃は、
ロマンスカーは常時音楽を鳴らしながら走ることから、
「オルゴール電車」とも呼ばれていたが、
列車本数の増加などにより騒音とみなされるようになってしまい、
1987年頃にはほとんど鳴らす機会はなくなっていたという。
遠くから音楽が聞こえ、
目の前を音楽と共に走りすぎていく姿は、
ちょっとカッコ良かったものだが。

で、小説の内容。
雑誌記者の松田法夫は、
元は全国紙の社会部を担当していたが、
仕事に限界を感じて辞職。
今は女性誌の記者をしているが、
畑違いでうまくいかず、
2カ月後には契約期間が過ぎて解雇されることを覚悟している。
妻を病気で亡くし、その痛手からまだ立ち直れずにいた。

その松田が、心霊ネタを担当することになった。
送られて来た投稿を取材すると、
大部分がガセネタだったが、
一つだけ不可解な案件に遭遇する。
それは、下北沢駅近くの踏切の写真で、
8ミリフィルムとスナップ写真に、
女性の姿が写り込んでおり、
一緒に取材したカメラマンの話では、
捏造は技術的に不可能というのだ。

やがて、その踏切では1年ほど前から
緊急停車が頻繁に起こっていることが分かる。
複数の人間が踏切内に立ち入ったのを運転手がみつけ
あわてて停車するが、人がはねられた痕跡はない。

更に、その踏切で1年前に殺人事件が起こっていたことが判明する。
チンピラが女性を殺害し、
犯人はその場で逮捕されたが、
被害者女性の身元が判明していないというのだ。

やがて、夜中の1時3分になると、
何者かが松田家に電話をしてきて、
女性のうめき声が聞こえて来る・・・

こうして、松田が心霊ネタを取材する過程で、
事件の真相と被害者の身元探索が続く。

小説の舞台は1994年
携帯電話もパソコンもネットもない時代の
取材の仕方が興味深い。
編集部からの連絡はポケットベル。
地名や団体の調査は、
それ専門の書籍をめくって調べる。

被害女性の身元捜索は興味深い。
どうやら、キャバクラで糊口をしのいでいたことは分かるが、
そこでの名前は当然全部偽名。
1枚の写真があるだけで、
身元はいつまでもわからない。
しかし、写真の女性と同居していた女が現れて・・・

直木賞候補になるくらいだから、
何か合理的な説明に至るのかと思ったら、
本当に幽霊話なので驚いた。
身元が判明する手がかりは、霊能者が提供する。
まして、政治家の賄賂の話と結びつくのは、
脱力した。

松田が幽霊に取りつかれるのは、
亡き妻への愛慕が失せていないためで、
松田は訪問先に
意図せずして被害女性の霊を持ち込むことになる。
その結果は・・・

松田が探索を続ける過程は、
読者は最後まで惹きつけ、読ませる。
筆者の力量は明らか。
おそらく、さっそく映画化されるだろう。

 



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