十月に入りましたので、中置、五行棚のお稽古をされている方が多いのではないでしょうか。
久しぶりに訪れた高島屋茶道具売り場は、すっかり秋の装いでした。
先日の記事で紹介しましたが、ハロウィンのお茶碗もありましたよ。
風炉の逆勝手と ハロウィン茶事と
まず目に飛び込んできたのは、『徳風棗』。
実りの時季に茶会でよく用いられます。
裏千家11代家元である玄々斎のお好みの黒平棗で、
蓋の甲に”一粒万倍”と玄々斎の筆跡の文字が書かれています。
そして、蓋裏には9個の籾が描かれているのも特徴です。
この棗は、特徴的な二つの言葉を持っています。
① 棗に書かれた文字 「一粒万倍」
② 棗の名前になっている「徳風」
① 一粒万倍とは
”一粒万倍”という言葉は、最近、よく宝くじ売り場で
本日は一粒万倍日という張り紙として見かけるようになりました。
一粒万倍日は、暦の上で、日本に伝わってきた吉凶を占う選日のひとつです。
この日に物事を始める(種まきする)と万倍にもなるという吉日になっています。
宝くじもこの日に購入すると何倍にもなって戻ってきますよ、と宣伝しているのでしょう。
この”一粒万倍”という言葉は、
そもそもは、仏教の経典である報恩経に出て来る「種一万倍」に由来し、稲を表しています。
徳風棗の蓋を開けるとそこに籾が描かれています。
外には描かないで、内側に描く、これもまた良し。
いつも、棗の蓋を開けたときに裏に何か描かれているとワクワクする私です。
籾の数、9個=陽の数字である奇数で、陰陽の思想で言えば陽が極まった数字。
9個にすることで最大限の実りを表わしているということになります。
② 徳風とは
徳風棗の”徳風”とは、
論語の中の「君子之徳風 小人之徳草」(君子ノ徳ハ風ナリ 小人ノ徳ハ草ナリ)に基づくものです。
「季康子問政於孔子曰、如殺無道、以就有道、何如。孔子對曰、子爲政、焉用殺。子欲善而民善矣。君子之徳風也、小人之徳草也、草上之風必偃。」
(季康子、政ヲ孔子ニ問ウテ曰ク、如シ無道ヲ殺シテ、以テ有道ニ就カバ、何如。孔子対エテ曰ク、子、政ヲ為スニ、焉ゾ殺ヲ用イン。子、善ヲ欲スレバ、民善ナラン。君子ノ徳ハ風ナリ、小人ノ徳ハ草ナリ。草、之ニ風ヲ上(くわ)ウレバ、必ズ偃(ふ)ス) 『論語』顔淵第12-19
孔子の言うには、
上に立つ者の徳は風のようなものであり、
人民の徳は草のようなもの、
善い風を吹きかければ、民もまた善い方になびく。
つまり、
上に立つ者は徳を持って行い、
下の者を良い方へ導くこと、
を言っているんですね。
上に立つものの心構え、下にあるものの心構えを表わしていると言えるのではないでしょうか。
徳風棗はずっと秋になると目にしてきた棗で、
多分、昔、先生もその由来をご説明下さったと思いますが、詳しく記憶に残っていませんでした。
実りの秋だから、稲が万倍にも増えるという意味で一粒万倍だな、徳風という言葉はおめでたい感じがするな、表面上の見た目は黒くて文字だけで地味だけれど、大きく福々しく、蓋を開けたときの籾が美しいな、位の気持ちでいました。
今回よくよく意味を調べ、考えてみて、自身の想いが深まりました。
今までよりもありがたい気持ちで使うことになりそうです。
お茶のお道具も何もしらないとそのまま過ぎてしまいますが、
棗一つにこんな沢山の想いや知識が込められていることを知ると感動します。
そして、更に茶道が楽しくなっていきます。
一粒万倍と徳風を組み合わせた玄々斎という方のセンスにも脱帽します。
先日、ノーベル物理学賞をとられた真鍋淑郎氏も言っておられましたが、
何故?という好奇心を持ち続ける大切さを改めて感じました。
他のお道具も紹介しようと思って書き始めたのですが、徳風棗で終わってしまいました。
近いうちにまた。