茶の湯 徒然日記

茶の湯との出会いと軌跡、お稽古のこと

吾唯足知

2005-09-19 15:23:26 | m-tamagoの物想い
 先日、テレビ東京でやっていた番組が興味深かったのでご紹介したい。
京都もうひとつの歴史、臨済宗龍安寺石庭の謎。

 京都には修学旅行以来もう10回以上訪れているが、龍安寺は大好きなお寺で、4回は石庭を見に行っている。一面白い砂の中に浮き上がるように点在する数個の岩、何があるというわけでもないのに、縁側に座ると私は1時間以上平気で見入ってしまう。
 本殿の裏にはひっそりと蹲(つくばい)がある。口の形に切られた水を溜める部分と、その四方に五、隹、疋、矢の文字が刻まれている。それぞれの文字と“口”を組み合わせて、“吾ただ足ることを知る”と読む。禅語だ。

 さて、本題の石庭の謎。石庭の岩はいくつあるか。私は数えたことがない。
15個。中国では15個は完全を表す数なのだそうだ。月の満ち欠けも15日で満月になる。ところが、縁側のどこから見ても、岩はどう数えても14個にしか見えない。見えないように作られている。唯一1箇所だけ15個に見える場所があり、それは、普段開放されていない方丈なのだそうだ。方丈とは、住職など特別な高い地位にある僧侶しか使えない場所で、そういった悟りの境地に至った人のみ完全な姿を見ることができるというわけである。我々凡人は不完全な姿の枯山水をみて、“吾ただ足ることを知る”のだろう。

 龍安寺は、1450年、室町幕府管領の細川勝元によって創建された。創建当初は、土塀の向うには林はなく、仁和寺五重塔、男山が見えた。秀吉にも庭の石とるべからず、と言わせた庭園。そして、わびた枯山水の庭とは対照的に、狩野派によって描かれたきらびやかな襖絵71枚があった。この襖絵は江戸時代の火災にも耐えたが、明治の廃仏毀釈により売りに出された。
 炭鉱王であった伊藤傳右衛門は大正天皇のいとこにあたる妻柳原白蓮の為にこの襖絵71枚を買い取り、幻の邸宅(あかがね御殿)を作った。その後、妻とは離婚、御殿は夏に焼失したが、冬の建具であった襖は骨董屋など別な場所に預けられていた、はずだった。が、今はそのほとんどが行方知れずなのだそうだ。昭和8年に伊藤が大阪城築城350年記念の展覧会に襖絵を出展、その図録で見られるだけだという。
 入念な調べで、昭和25,6年にアメリカに渡っている襖絵12枚が発見された。
メトロポリタン美術館、15年前に美術館がそれと知らずに購入した“列子御風図”。中国の故事にちなんだ図。狩野永徳の三男が描いたのではないかと言われる。そして、シアトル美術館、“琴棋書画図”、4つの芸事をしている人々を描いている。更に9枚、イギリス美術商、ロバート・ソワーズ氏が12年前に購入、都内で保存している“芭蕉”。いずれも金色に輝く背景に色彩豊かに描かれている。桃山~江戸時代の禅寺がきらびやかであったことがわかる。金の襖にあたる光線が庭の白い砂に反射して輝く様子は幻想的だっただろうと思う。

 庭園の枯山水は水墨画を立体化した世界。水墨画といえば、雪舟が有名だが、彼は中国天童寺で禅の修業を行い、日本に帰国後、その風景を水墨画にした。
 中国にも石の庭園は多いが、石は地球の背骨という認識があり、それを神仏のいる天にむかって高く積み上げることで、神仏と一体化したいという願いをこめているという。穴のあいた石が多く、こちら側が現世、向こう側が来世(彼岸)を表す。日本の庭は石を積み上げた形ではないが、庭は極楽浄土への道しるべと言う意味で共通であった。
 龍安寺の襖絵は雪舟の水墨画をお手本に描かれたともいわれ、庭園は雪舟の弟子、子建寿夷(しけんじゅい)作と言われている。

 今、龍安寺の石庭は修行の庭、学僧が毎日白い砂に線を描く。美しく描こうと欲が出たり、心に迷いがあると線は曲がるという。
 禅の美は無、無心になった時初めて美しいものが作れ、美しいものが見える、無欲になった時初めて見えてくるものがある、と番組は結んでいた。
 今回この謎を知ったことで、龍安寺への見方も感じ方も少々変わりそうだ。次回訪れるのを楽しみにしている。

 茶道は、禅と深いつながりがあり、茶もまた究極には悟りの境地を目指している。上手に点前をしよう、覚えようとすると却ってだめになる。知識を勉強している私、お稽古の度に点前の復習をしている私はまだまだ修行途中だ。
 “吾ただ足ることを知る”、欲や感情に振り回されがちな毎日だが、自分に無理せず、出来ることを一生懸命やりながら、感謝しながら、日々過ごしたい。その先に何かが自然に見えてくるかもしれない。
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