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(つづき)いいですか、気をつけなければいけませんよ、度を越し始めますからね。先(せん)だって、ステファネスコがガヴォーに於いてその曲を演奏した時…
(ヴィオレット) この曲ではありませんでした。
(バシニー) 問題ではありません、同じようなものです。一階座席の人々があくびをしているのに私は気づきました。ともかく、親愛なる御方、リサイタルを開かれる際は、ご忠告してよければ、あなたのそのパルティータの類はお控えなさることです。よいですか、一番大事なことは、とくに新米の場合、人々を退屈させないことです。
(フェルナンド、嘆くように。) ヴィオレットはまったく新米というわけではありませんわ。
(バシニー) それは存じています。妹さんは一度も公衆の前で演奏されたことがないということを言っているのです。公衆と云われるものの前でですな。あなたがたの養成学校や小さな同人会のことを言っているのではありません。なによりの証拠は、セルプリエ家でお会いする以前には彼女の名を私は一度も聞いたことが無かったということです。
(フェルナンド) 今晩貴方がおいでくださったのは何という幸運でしょう!
(バシニー) 原則として私はこの種のお誘いはいつもはお断わりしていることを覚えておいてください。人は右にも左にも愛想のよい言葉を言わねばならないとされていますが、私は、(つづく)
(ヴィオレット) この曲ではありませんでした。
(バシニー) 問題ではありません、同じようなものです。一階座席の人々があくびをしているのに私は気づきました。ともかく、親愛なる御方、リサイタルを開かれる際は、ご忠告してよければ、あなたのそのパルティータの類はお控えなさることです。よいですか、一番大事なことは、とくに新米の場合、人々を退屈させないことです。
(フェルナンド、嘆くように。) ヴィオレットはまったく新米というわけではありませんわ。
(バシニー) それは存じています。妹さんは一度も公衆の前で演奏されたことがないということを言っているのです。公衆と云われるものの前でですな。あなたがたの養成学校や小さな同人会のことを言っているのではありません。なによりの証拠は、セルプリエ家でお会いする以前には彼女の名を私は一度も聞いたことが無かったということです。
(フェルナンド) 今晩貴方がおいでくださったのは何という幸運でしょう!
(バシニー) 原則として私はこの種のお誘いはいつもはお断わりしていることを覚えておいてください。人は右にも左にも愛想のよい言葉を言わねばならないとされていますが、私は、(つづく)
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(つづき)そういうことは御免ですな。率直さこそ私の信条です。それから、もし予定がなければ私は早く寝たいほうなのです。私も、気遣ったほうがよい肝臓の持主なのです。つまるところ、あなたがたがヴィシーにいらっしゃれば、私がそこにお会いしに行くのに何の意外なことも無いのです。自慢ではありませんが、私は皆と面識があります。あちらこちらにあなたがたを紹介するのは造作もないことです。
(フェルナンド) 私たち、なんと御礼を申してよいか。
(バシニー) 御礼をお考えでしたら、私の助言に従うのが一番です。
(フェルナンド) 私たち、なんと御礼を申してよいか。
(バシニー) 御礼をお考えでしたら、私の助言に従うのが一番です。
第二場
同じ人物たち、セルジュ、奥から入ってくる。
(セルジュ) あ! ごめん。きみたちだけだと思っていた。(バシニーに、戸惑いながら。)ボンジュール。
(バシニー、茫然として。) これは、お久しぶりな!…
(セルジュ) モニクの手が(つづく)
(バシニー、茫然として。) これは、お久しぶりな!…
(セルジュ) モニクの手が(つづく)
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(つづき)熱いんだ。熱を計ったほうがよくはないかな?
(フェルナンド) この前みたいなんでしょう。あなたと演奏していて、また興奮しすぎたのでしょう。あきれるわね。
(ヴィオレット) わたしが行くわ。(ヴィオレット、セルジュと奥を通って出てゆく。)
(フェルナンド) この前みたいなんでしょう。あなたと演奏していて、また興奮しすぎたのでしょう。あきれるわね。
(ヴィオレット) わたしが行くわ。(ヴィオレット、セルジュと奥を通って出てゆく。)
第三場
フェルナンド、バシニー
フェルナンド、バシニー
(バシニー、声を低くして。) 彼女は彼と会いつづけているのですか?
(フェルナンド) 原則、週に一度、彼のところにあの子が通わされているのですが、あの子が気管支炎を起こして以来、ヴィオレットはあの子を出させませんの。もっとも少し大げさですけど。それで彼がこちらに来るんです。
(バシニー) それは妙だ… そして彼女は… 彼がその子にしてあげた後、彼を受け入れるのは、おかしいと思いますな。
(フェルナンド) ヴィオレットは恨みはしません。
(フェルナンド) 原則、週に一度、彼のところにあの子が通わされているのですが、あの子が気管支炎を起こして以来、ヴィオレットはあの子を出させませんの。もっとも少し大げさですけど。それで彼がこちらに来るんです。
(バシニー) それは妙だ… そして彼女は… 彼がその子にしてあげた後、彼を受け入れるのは、おかしいと思いますな。
(フェルナンド) ヴィオレットは恨みはしません。