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(つづき)シュザンヌもぼくと同意見です。男の言うことは、やはり重みがあります。おや! お暇しなければ。イタリー広場で六時からレッスンをするんです。きみ、ぼくに電話してくれるだろう?(バシニーにちょっと会釈してから外へ出る。)
第五場
ヴィオレット、フェルナンド、バシニー
沈黙。
(バシニー、愛想のよい調子で。) それで? あなたは何かご計画がおありですか?
(ヴィオレット) わたしは今年はリサイタルを開ける状態ではありません、断言しますわ。
(バシニー) というと?…
(ヴィオレット) だいいち、わたし、元気ではありませんの…
(バシニー) いいですか、あなたには、活動再開しか、問題になる事柄はないのです、お忘れなきように。ヴィシーで湯治をなさり、田舎の、私が知っている静かな一角で、元気を回復なされば、(つづく)
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(つづき) あなたは何でも出来る状態になっておられるでしょう。まったく、素晴らしいことです!
(ヴィオレット) わたしは問い合わせましたが、ホールの予約、広告、すべて目が飛び出るほど費用がかかります。わたしには、そんな法外なことをする力はありませんわ。
(バシニー) もしや、あなたは、私が既にすべてを計算済みではないと、ご想像ですか? ホールの予約は、いとも単純なことで、私が引き受けています。もう済んでいます。あなたはフォーレ広間を十月十八日にお使えになれます。
(ヴィオレット、血の気が引いて。) なんですって?
(フェルナンド) バシニーさん…
(バシニー) 私の奉仕は、これが最初ではないでしょうに… この喜びは。
(ヴィオレット) どんな権利で?
(バシニー) 軌道に乗せてさしあげること、と私は呼んでいます。
(ヴィオレット) もう一度言いますが、どんな権利で?
(バシニー) 何ですと?
(フェルナンド) ヴィオレット!
(ヴィオレット) わたしに相談なさいました? まったく、聞いたこともない仕方ですわ! わたしを子供とでも思ってらっしゃるの? (つづく)
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(つづき)あなた、ひょっとして、わたしがあなたの意図を見抜いていないとお思い? あなたはご自分の芸術崇拝をわたしに話しにいらっしゃるけど、シャコンヌとヴィエニャフスキのロマンスとの区別もご存じない! あら! いえ、言いすぎましたわ! でも、あなた、わたしが自分の首に縄をかけられるままにするとでもご想像になって?
(バシニー) このひとは普通じゃない。
(ヴィオレット) 首に縄よ。
(フェルナンド) 何がどうしたっていうの?
(ヴィオレット) セルプリエ家での最初の晩、あなたはわたしを眺めて、値踏みする様子だった… もう! 凝視されたわ、断言しますけど。けっきょく、あの印象は間違ってはいないのだわ。ただ、わたしは気が弱くて自分を疑った。あなたにここに出入りすることを許してはならなかったのに。
(バシニー) 彼女は、しょっちゅう、このような発作を起こすのですか?
(フェルナンド) 彼女みずから、あなたに申しましたように、このところ元気がないのです。よく眠れませんし…
(バシニー) パウルスが明晩、お宅に寄ります。この発作のことも一緒に診察してもらいましょう。
(ヴィオレット) お受けしませんわ。