読者はぼくのすっきりしたヤスパースの翻訳を受けとっていると思うが、それだけに、日々の翻訳量が少ないのを怪訝に思っているかもしれない。しかしこれはむしろ、すっきりした訳文を作るのにぼくがそれだけ苦労していることを意味しているのだ。この翻訳は妙に根気が要り気疲れする。過去に世に出ているヤスパース『哲学』の翻訳はこんなにすっきりとしていない。逐語訳的な厳密さと、内容を理解した上での意訳の絶妙な結合で、すっきりとした訳を生み出すのに、ぼくがどれほど神経を使っているかを、ぼくの解りやすい翻訳は証しているのだ。
ヤスパースとは思想土壌が全く異なるフランスのガブリエル・マルセルの形而上的日記の翻訳も、これと並行して行なうことの必要を、勉強のために感じている。やるつもりだ。