高田博厚の思想と芸術

芸術家の示してくれる哲学について書きます。

この翻訳は妙に根気が要り気疲れする

2023-01-08 17:15:20 | 日記
読者はぼくのすっきりしたヤスパースの翻訳を受けとっていると思うが、それだけに、日々の翻訳量が少ないのを怪訝に思っているかもしれない。しかしこれはむしろ、すっきりした訳文を作るのにぼくがそれだけ苦労していることを意味しているのだ。この翻訳は妙に根気が要り気疲れする。過去に世に出ているヤスパース『哲学』の翻訳はこんなにすっきりとしていない。逐語訳的な厳密さと、内容を理解した上での意訳の絶妙な結合で、すっきりとした訳を生み出すのに、ぼくがどれほど神経を使っているかを、ぼくの解りやすい翻訳は証しているのだ。

ヤスパースとは思想土壌が全く異なるフランスのガブリエル・マルセルの形而上的日記の翻訳も、これと並行して行なうことの必要を、勉強のために感じている。やるつもりだ。









理性冥利

2023-01-08 04:58:03 | 日記


 
カントは時間・空間が主観の形式であるという、常識からすれば気違いの観点を生み、近代最大の哲学者に祭り上げられもした。しかも最もアカデミックな哲学として。それにしても常識者より気違いのほうが幸せかもしれない。人間は時間・空間を超えるのだと、この気違いは主張するのだから。ヤスパースはカントを継いで、哲学的信仰の立場を生んだ。カントの思想を我有化したからヤスパースの哲学はあった。 マルセルもまた、時間・空間の問題から形而上的日記の省察を展開している。魂や永遠の問題は、この問題と密接不離だからだ。存在論や神論はいつもこの問題を梃子にしている。常識を疑い否定することによって気違いだと思われることを克服して、反対に常識の立場を診断し返す。まったく理性冥利につきる。哲学は、この世から脱するだけでなく、この世にいわば逆襲するという、途方もない価値を持っている。どんなに離れていても、どんなに過去であっても、怒りは復讐することができることに気づかせる。 怒りだけではない。 愛も時間・空間を超えて可能なのだ。