37頁
(ヴィオレット) それでいいわ。
(フェルナンド) 彼女は傑出した女性よ。
(ヴィオレット) 知ってるわ。
(フェルナンド) 彼はあなたに彼女のことを話すの?
(ヴィオレット) とてもしばしば。ほとんど毎回。
(フェルナンド) ずいぶん妙ね。
(ヴィオレット) 彼は彼女を賛嘆してるわ。彼は間違ってない。
(フェルナンド) もしかしてあなたも彼女を賛嘆してるの?
(ヴィオレット) 彼がわたしに話すことを通してね。そう、確かに。
(フェルナンド) それで?
(ヴィオレット) それで… べつに。
(フェルナンド) それで袋小路なのだと、あなた、認識してるわね?
(ヴィオレット) 生きることは袋小路よ。
(フェルナンド) それは言葉よ。
(ヴィオレット) そうだとは思わないわ。
(フェルナンド) どうして彼女の手紙を一度も読もうとしないの?
(ヴィオレット) どんな手紙?
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(フェルナンド) 私が病気だった頃、彼女が私に書いた手紙よ。その後のもあるわ。(ヴィオレット、ぼんやりした身振り。)
(ヴィオレット) それはわたし宛じゃないわ。
(フェルナンド、皮肉っぽく。) たしかに。
(ヴィオレット) 彼女について話すの、もうやめない?
(フェルナンド) おやまあ! (沈黙。) 彼女から絵葉書が昨晩私に来たのを知ってる?
(ヴィオレット) ええ、彼女の文字だと判ったわ。
(フェルナンド) 私に会いに来たいと私に言ってるのよ。あなたと知り合いになるのが楽しみなんだって… 何?
(ヴィオレット) 何も。
(フェルナンド) 気持ちの良いことじゃなくって?
(ヴィオレット) 聞いて、フェルナンド、わたしを苦しめて何が嬉しいの?
(フェルナンド) あら! 大げさはやめましょうよ。
(ヴィオレット) この状況はひどいわ、耐えられない…
(フェルナンド) それでもあなたは満足でしょう。
(ヴィオレット) ちがうわよ。とにかく… 彼女には会わないわ。
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(フェルナンド) どんな口実を使うの?
(ヴィオレット) どんなことでも。
(フェルナンド) 彼女がもう何か疑いを抱いていないかどうか、あなたは知ることはできないのよ。
(ヴィオレット) ジェロームは、彼女は何も疑っていないと確信しているわ。
(フェルナンド) 何て口調で言うの!
(ヴィオレット) 嘘をつくのは… 嫌だわ。
(フェルナンド) 何もあなたにそれを強いてはいなわ。あなたは、彼女が真実を知っているほうがいいのね?
(ヴィオレット) もしジェロームが彼らしくないとしたら…
(フェルナンド) どういうこと?
(ヴィオレット) 受け入れなければ。
(フェルナンド) 何を?
(ヴィオレット) 嘘を。それはわたしたちの罰よ。
(フェルナンド) どうして、私たちの、なの?
(ヴィオレット) ジェロームはわたしより不幸だわ。
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