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(つづき)ぼくがその定義に達することのない印象を、ぼくに引き起こす。だけどこの印象は、そういうものでないと、ぼくには面白くないんだ。
(アリアーヌ) わからないわ… (沈黙。)
(フィリップ、突然に。) ぼくは其処に居るんだと思う。(アリアーヌ、退くような動きをする。) うん、ぼくは同じ感覚を、きみがジルベール・ドゥプレーヌと話してるのを見た時にも経験した…
(アリアーヌ) でもそれは兄さんに説明したわ…
(フィリップ、きっぱりと。) 説明したからといって、その時きみの精神に起こったことを、ぼくは決して理解はしないだろう、ということに変わりはないよ。ジルベールがぼくの妻の愛人であることをきみは知っていた。そしてぼくが離婚を決心するの止むなきに至っていたことも。きみは病気だったし、ほとんど誰をも受け容れなかった。どんな考えがきみを捉えて、あの、きみが殆ど知らない少年を来させたのだろう…
(アリアーヌ) それはちがうわ。私たちはロニーで、彼がお姉さんに会いに来た際、とても長く話し込んでいたわ…
(フィリップ) きみは、その話のはっきりした成果を期待できたかい?
(アリアーヌ) 何を答えられるというの? 私は何かの幻想を抱いていたかもしれないわ。最後の瞬間まで、私は、クラリスと兄さんを仲直りさせるために、兄さんたちと会おうと思っていたわ。(つづく)
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(つづき)離婚は避けることができたと、私、いまでも思っているわ。
(フィリップ) このすべては馬鹿馬鹿しい。ぼくの考えの根本を言ってほしいのなら…
(アリアーヌ) えっ?
(フィリップ) あの頃きみの背中を押していた動機は、好奇心とは言わないよ、それよりもっとずっと強くて、そして、もっとはっきりしないものでもある何かだったと、ぼくは思う…
(アリアーヌ) 解らないわ。
(フィリップ) 多分、それはこう呼ぶべきかな、自分が際立ちたいという欲求、他の人々の生活のちょうど真ん中に自分が居たいという欲求… 奇妙だ。そうだな、きみがぼくに思わせるのは、あの、照明を消す演出家たちだ。きみは、照明が在ることに耐えられないんだ。きみは、あの、ぼくの知らない物語の中に入る必要があったんだ。でも、その物語は、ぼくには思われるのだが…
(アリアーヌ) 私は、兄さんが私のものだとしている欲求は、とても単純な名前のものだと思うわ。普通、共感と呼ばれているものよ。兄さんがそれについて作っている考えは、ただ、兄さんが共感というものをあまりよく感じることができないということを、示しているにすぎないわ。それに、たぶん、そのためよ、兄さんの立場が私のだったら、私ならぜったいに決心できなかったと思う行為を、兄さんがすることが出来たのも。
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(フィリップ) きみの話しているのは、ぼくの離婚のことかい? ぼくが離婚を後悔した日は無い、と、きみはぼくから聞いているだろ? (アリアーヌの意志表示。)ぼくの言うことを信じないの?
(アリアーヌ) その通りよ、ただ… クラリスにも、彼女にも、言いたいことはあるでしょう。兄さんは彼女が思っていることを全然知らないわ。
(フィリップ) 彼女は申し分なく満足していると、ぼくは推測しているよ。― それに、それはぼくにはどうでもいいことだ。
(アリアーヌ) 推測している、というのね。
(フィリップ) え?
(アリアーヌ) その反対ではないかと思う理由があるのよ。
(フィリップ) どういう?
(アリアーヌ) 兄さんにそれ以上言う必要はないわ。
(フィリップ) じゃあ、きみたちは交際していたんだね?
(アリアーヌ) 彼女、私に手紙を寄越したのよ。
(フィリップ) 初めてかい?
(アリアーヌ) 私、たぶん、彼女に葉書を送ったことがあるのね。もう憶えてないわ。
(フィリップ、かっとして。) ともかく、彼女がきみにしたかも知れない打ち明け話には、(つづく)
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