著者:マシュー・スタンレー
訳者:水谷淳
発行:新潮社 2020
原書名:Einstein's War
アインシュタインは、1905年に特殊相対性理論を発表し、1915年までに一般相対性理論を完成させていた。イギリス人のアーサー・エディントンは、1919年にアフリカのプリンシペ島に遠征して皆既日食を観測し、太陽の近くに見える星からの光が太陽重力によって曲げられ、本来の位置から外側にずれることを確かめた。これにより、一般相対性理論が正しいことが実証され、一夜にしてアインシュタインはニュートンを越えた天才として有名になった。この話を当時の欧州における政治的状況と絡めて詳細に記した書物である
1914年から1918年までは第1次世界大戦により欧州は混乱の極みにあった。科学者もその混乱に巻き込まれ、あるいは率先して参画し、対戦国間の国際的連携はほとんど不可能な状況にあった。アインシュタインが研究の拠点としたのはドイツであり、エディントンは対戦国イギリスの研究者である。そんな環境の中でどうして終戦翌年に一般相対性理論が対戦国イギリスの科学者によって立証されたのか。そこに至るには苦難の物語があった。これまで、アインシュタインは、特殊相対性理論、一般相対性理論と立て続けに発表し、天才の名を恣にしてきたと漠然と考えていたが、そこにはエディントンらによるとてつもない苦労と戦略があったことがよく分かった。
1919年の日食観測はプリンシペ島のものが有名であるが、同時にブラジルへも観測隊が派遣され、その観測も併せて太陽重力による光の湾曲が確かめられたこと、ブラックホールで有名な一般相対性理論の初めてみつかった厳密解であるシュヴァルツシルト解は、シュヴァルツシルトが従軍した塹壕の中で書かれ、かなしいことに彼は戦争から戻ることはなかったことなど、本書は様々な興味深い話や戦争の悲惨さを示すエピソードが盛り込まれた優れた書である。
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